第22話 それぞれ一人ずつ
アルティラ達とデルフォレストへ向かった翌日。
あいかわらず俺の部屋にあつまってくるうちの子たちだが……。
「いやいやいや……なんつー顔しとるんだお前ら」
明らかに寝不足なエテリナとネルネに、そんな言葉をぶつけてやる。
あーあー、目の下にがっさり隈なんぞこさえやがって……。
「にゃふふ~……、流石のウチにも疲労の色が見えておりましてー……。地下室で見つけた資料やミストルノ手記帖写本、きょーみぶかいモノばかりで困ってしまいますなー……?」
「わ、わたしも……アルファスライムとオメガスラム、い、一度戦闘で使ってみたら色々なことがわかって……。も、もうあと少しで何かがつかめそうな感じだったから……ふぁ……」
「まぁ気持ちは分からんでもねぇし、エテリナに解読なんかを頼んだのは俺だがよ……。ほれ、ホットチョコレートとミントライム」
人数分のカップと、食べやすくカットしたミントライムをテーブルに置く。
きちんと寝る以上の効果は期待できんだろうが、気休め程度にはなるだろう。
「あ、ボク、ミントライムすきー」
「わ、わたしも……。ら、ライムとスライムは、ひ、響きがにてるからな……」
そんな理由?
「それにしてもだ。二人とも、もう少し自身の身体も労わらねばならんぞ?」
「うにゃにゃぁ……そーいうクーよんだって、最近は張り切ってるのにー」
「私はきちんと自己管理をしたうえで修行をおこなっている。……きちんとな」
うんうん、えらいぞえらいぞー。
……わかったって、ちゃんと後で撫でてやるから。だからほれ、そんな顔してるといつかネルネ以外にも見つかっちまうぞ?
「むーむー! ……ねぇオジサン? 羊除けの小瓶があればー、エテリナちゃんのお顔に隈がはびこることもないと思うのですがー?」
「だーから、あれは未成年には飲ませらんねぇっつの。眠い時はちゃんと寝なさいちゃんと」
羊除けの小瓶は素材に酒を使ってるからな。
そうでなくてもあんまり体にいいってもんじゃねぇんだ。まだ成長期のコイツらにはおすすめはできんって話だ。
「――あれ? おじさまそれって……」
「ん? あぁ、あの時のごろつきが持ってたモンだよ。……どうにもな、引っかかるっつーか……」
孤児院を襲ってきたごろつきが、自身のステータスを一時的に引き上げるために使っていたマジックアイテム……の空容器。
念のために回収しておいたんだが……。
「ふむ……。イルヴィス、やはりお前も感じていたか」
「にゃにゃにゃ、あの時の悪人さん、チャラ男君たちが暴走しちゃったときとー、少し様子が似てたってカンジ?」
「そ、そうなのか……? わ、わたしとハクは、ちょ、直接見たってわけじゃないけど……」
「あぁ、エータ達と違って意識はあったみたいだがな。……と、そうだハク。この容器から何か感じたりはしねぇか?」
「えっと……いいえ、すみません特には……。少なくとも、この容器自体からは何も感じないみたいです」
「ふーむそうか、ありがとな?」
ちょこちょこと近づいてきたハクの頭を、ポンと撫でてやる。
せめて中身が少しでも残ってりゃ、また違ったのかもしれんがなぁ。
そうでなくても『使っただけで最上級の力を得ることができる』なんて代物だ。
あん時は『戦闘力解放』のおかげであっさり片付いたが……本来なら危険の一言ですませられるようなもんじゃあない。
そんでもって、そんなもんをただのゴロツキが簡単に手にできるとも思えん。
恐らく、あのベレテスってヤツが流したとみて間違いないだろう。
……その上でどうやって手に入れたのか、気にならないと言えば嘘になるね。
「……ミストルノ手記帖写本を含めた、数億の隠し財産、か。しかしイルヴィス、正直それでも、あのベレテスという男のやり方は効率的とは思えないのだが……」
「そうだな、実は俺もそう思ってる」
確かに数億の隠し財産なんてのは目が眩むほどの大金だろう。
が……複数の孤児院を買い取ってどうのって部分を考えると、とてもじゃないがそこまでするほどの利益が上がるとは考えにくい。
それでもベレテスがそういった事業を手広くやってでもそれを求めたってのは……。
――不落の難題、『ミストルノ手記帖原本』。
小説家のじいさんの勘によりゃ、たどり着くに『写本』が必要不可欠、か。
……もし、この薬にもフリゲイトが関わっているのだとすれば――。
「にゃ、そういえばフリゲイトといえば……ねぇオジサン? 干渉には『制限』があるんじゃないかって話、覚えてる?」
「ん? あぁ、つい昨日もアルティラ達にその話をしてきたところだが……それがどうかしたのか?」
「にゃっふっふ……! あの地下室の資料を調べてたら、また一つおもしろいことがわかってきたんだよね~? ほらここ、これみて?」
地下室から拝借してきた一冊の資料を広げるエテリナ。
こいつは……あの首輪を作るための施設の、素材なんかの管理記録だな。
んでエテリナが開いてる日付はと……。 ……! ケインの元に謎の男が訪ねてきたって日か!
「え、えっと……、こ、この日の前後で、ほ、保管している魔石の数が変わってるな……」
「星3の数が十個減ってて、逆に星7のは十個増えてますね? 他に数字が変わってる部分は無いみたいですけど……」
「にゃふふ、ハクちー! 『他に数字が変わってない』ことこそが重要なのだよー! 研究日誌にさ、『あれを見せられたら信じるしかない』みたいなこと書いてあったでしょ? 多分それがこれ……」
「まさか、フリゲイトの『干渉』だというのか!?」
は!? 星三の魔石を星七の魔石に変化させたっつーのかよ!?
たしかにそれなら、他の素材なんかの数字が変わってないことにも説明がつくが……。
「魔石って簡単に言っちゃえば、『大気中のマナから魔力を生み出すもの』なんだけどー、鑑定による星の数は、その生み出す魔力に比例するんだよねー? 勿論、耐久年数なんかも考慮されるけど……」
つまり、そのあたりの性質が延長されていたってことか……。
「でもでもー、いくら『星9の魔石を裏で手配したこと』証明するためだとしても、わざわざ記録が残りそうな魔石に干渉するってのは迂闊すぎると思うんだよねー? つまり――」
思わせぶりに、ぴん、と人差し指をあげるエテリナ。
「――多分、フリゲイトが『干渉』できる対象は、それぞれ一人ずつ違う、ってカンジなんじゃないかな?」
! ……なるほどな。
干渉の対象に魔石を『選んだ』わけじゃあなく、その場では、魔石を『選ばざるをえなかった』っつうことか。
たしかにあの枯れかけのダンジョンでも、『吾輩が協力してやった』だの、『それはお互いさまでしょ』だの、『ここには私の手も入っている』だの言っていたな……!
「にゃふふ、あくまでもまだ仮説だけどねー? 例えば、チャラ男君たちやガンさんの事件に使われてた紋章……つまり『魔術』に干渉してたのが――」
「マジューリカさんだな。そんで、アルティラ達をそそのかしたあのモンステリュウスってヤツは――」
「恐らく『魔物』に干渉していた、ということか。なればこの魔石の件、ひとまず『アイテム』への干渉だと仮定して……消去法的に考えれば、あのアーデムとやらの仕業なのかもしれないな」
「ほかにもほかにもー、枯れたダンジョンに魔素を充満させるためには『ダンジョン』に干渉してたフリゲイトがいる……なんて考えていくとー、いろいろはかどっちゃうってカンジ?」
たしかにそれなら、色々と腑に落ちてくる。
……いや、恐らく間違いないだろう。
だとすればこれは――。
「――あれおっちゃん? なんか郵便届いたっぽくない?」
「っと、ホントだな。どれどれ……」
かたんと音を立てて手紙か何かが投函されたようだ。
話の途中ではあるが、もしかすると重要なもんだったりするかもしれんしな。
「封筒? こいつは……マッフィーノからか。中身は、っと――」




