第21話 それならそれで収穫がある
「――どうだアルティラ? 何かこう……変わった感じとかはあるか?」
「うーん……やっぱり今回も駄目みたい、かな? うぅ……ごめんね、こんな風につき合わせちゃってるのに……」
「だーから気にすんなってのによ。とりあえずあれだ、下手に魔物に出くわしちまう前に戻ろうぜ?」
セーフスポットで安全を確保しつつ、ゲートを使って特異点まで移動。
お決まりの帰還方法だ。魔物除けのために『暁のカンテラ』を使ってるとはいえ、警戒するに越したことはねぇからな。
しかし……これで三回目か、こうしてデルフォレストの第四十一階層、つまり『フォルフレア』の群生地までやって来たのは。
アルティラの呪いを解くにはフォルフレアの光を浴びればって話だったが……この様子じゃあかつがれたと考えたほうがよさそうかもしれんね、どうにも。
「あ、イルヴィス、アルティラ、おかえり。どうだった? 少しはなにか……って、その様子じゃあ駄目だったみたいね」
「うぅ、ミルティーヌ~……」
「ほらもう、そんな顔しないの。イルヴィスにも見られちゃうって、そう言ってるんだけど?」
「いいもん、どうせもうたくさん見られちゃってるし……。それにイルヴィスも、こっちの私の方が好きだって言ってくれたし……ぽっ」
赤く染めた頬に手をあてるアルティラ。
……いや言ってないよおっさん言ってない。
そりゃ『今みたいに、ちゃんと思ってることを話してくれた方がずっといい』とは言ったりもしたが……。
だからほれ、皆してそんな目でおっさんを見るんじゃないっての。
「でもこうなると、『フォルフレアの光を浴びればいい』っていうのは……やっぱり虚言?」
「けどよ、モンステリュウス……だったか? そいつがオッサンの言うフリゲイトだったとして、目的っつーか、何のためにオレらに接触してきたんだ? わざわざそんな嘘までついてよ」
「あぁ、それについてはあれから少しエテリナと話をしてな――」
フリゲイトの一人、モンステリュウス。
そいつがアルティラ達の事件に関わっているとわかってすぐ、俺はその情報をうちのヤツらにも共有していた。
エテリナのヤツは、『……にゃふふ、なるほどなるほどー。ウチってば考えすぎてたかも? もっと単純に考察すれば良かったってカンジ?』なんてことを言ってたな。
つまり――。
「――つまりえっと、あのベリルドアラクニアが襲う冒険者は、言うなれば厳選されてたってこと?」
「そういうことだな。ほれ、あいつが『糸』で手駒を増やすには、『健康な状態の亡骸』が必要だったって話はしたろ?」
「ええ、たしかそのために生きたまま冒険者を捕らえる必要があったのよね? その後あの糸でって……」
「……今思い出しても、あんまりいい気分はしない、うん」
「っと。そうか悪い、軽率だったな……」
ラフィア達三人は教会復活をしてないからな。
その時の記憶が残っちまってるのか……。
「あ、そういうつもりで言ったんじゃない、気にしないでイルヴィス。単純に、もうあんな思いはしたくないっていうだけの話」
「まぁ痛みみたいなモンはそれほどでもなかったけどよ、オレも二度とはごめんだぜ。そんでオッサン、健康な亡骸がどうのってのは……」
「あぁ……あの『繭』自体はそれほど頑強なものじゃなかったんだよ。少なくとも、そこそこの実力がある無傷の冒険者なら、こう……操られる前にやぶったりもできちまう程度にはな?」
現に戦闘中、糸を使った攻撃はしてこなかった。
アラクニア系統の魔物はもともとの戦闘力が高いからな。
あちこちに糸を張り巡らせていることもあるが……これは他の蜘蛛型の魔物のように獲物を捕らえるためじゃなく、言うなれば探知機のように獲物を察知するためだといわれている。
強度は無いが自在に操れる糸。
あのベリルドアラクニアはその性質を延長させられていたんだろう。
人の体内にさえ入りこんじまえば、強度がどうのってのも関係ないからな。
……が、肝心なのはその部分。
『人の体内にさえ入りこんじまえば』ってところだ。
「……そっか、ベリルドアラクニアはS+。普通に戦えば、どうしても冒険者を大きく傷つけちゃう」
「かといって糸だけじゃあ無傷でとらえることはできない、か。となると……」
最初に捕らわれたのは例えば……直接戦闘には向かない、後衛の冒険者だったりしたのかもしれん。
もしかしたら回復魔法が使えるような、そんな冒険者だ。
そうやって徐々に戦力を増やしていけば、もっと実力のある冒険者も捕らえることができるようになる。
……大方あの段階では、まだ戦力の補強中だったのだろう。
だからこそ厳選した、つまり、『現状の戦力で生きたまま捕らえることができ、なおかつ戦力を向上させる見込みがある』冒険者を送り込む必要があったってワケだ。
それこそ、嘘の情報で釣りあげてでもな。
あの時俺達が襲われたのは……恐らく、ミルティーヌがいたからだ。
これまた予測にはなっちまうが、ベリルドアラクニアのもとへ送り込まれるときに、何らかの『判別方法』を施されたりしていたんだろう……ってのが、エテリナの見解だ。
だからこそ、『襲われなかった』冒険者もでてきた。
……『デルフォレスト深層に現れる謎の存在』。それが、噂として広まった真相ってところだな。
「つまりよ、別にオレらじゃなくても条件さえ合えば誰でも良かったってのか? それであんな思いをさせられたってのは……あーくそ、納得いかねぇー!」
「確かにそれは私も思うけど……ひとまずそれは置いておいておくとしてよ? 条件にあてはまる冒険者を無作為に送り込んでたっていうなら、これ以上の情報は……」
「いや……それならそれで収穫がある。ひとつ、分かったことがあってな」
「収穫?」
「……フリゲイトの干渉による『能力の延長』には、何か制限があるってことだ。恐らくだが、『なんだってできる』訳でも、『何も考えずにポイポイ使える』訳でもない」
「あっ! そっかぁ、何でもできるっていうなら、えっと、糸の『操作』と『強度』、どっちも延長しちゃえばいいもんね? ねね? そうだよねイルヴィス?」
アルティラの言う通りだ。
現にベリルドアラクニアの外骨格の『強度』は馬鹿みたいに上がっていた。
となれば『強度』の延長はできない、なんてことは無いはずだ。
「他にも……そうだな、例えばもし『幻覚』や『魅了』なんかの状態異常を『都合よく』利用できるってんなら、そんな回りくどい嘘なんぞつかなくとも、冒険者をおびき出すことは可能なはずだろ?」
だが、モンステリュウスはそれをしなかった。
いや、できなかったと言うべきか。
その制限がどういったものなのかはまだ不明だが……少なくとも、ある程度の実力を持つ冒険者を安定して揃えるまでは、同じように冒険者を送り込む必要があったんだろう。
……そうしてあのベリルドアラクニアが戦力を補強した先に何を求めていたのかって部分は――正直言ってまだ分からん。
もしかすると、奴らの言っていた『魔王候補』なんてモンと何か関係があるのかもしれんが――。
「でも……私達も知らなかったアルティラの『呪い』のこと、なんでそのモンステリュウスって人は知ってたのかしら?」
「っと、そうだな、そこは俺も気になってたところだ。なぁアルティラ、お前の大盾『アトゥマネプタ』の呪いのこと、他に知ってるヤツはいなかったんだよな?」
「えっと、うん。ほんとだよ? 装備だって自分でやったし、鑑定とかもしてもらってないから……」
ふーむそうか……。
まぁ、『見ただけでそいつが呪われてるかどうかわかる』なんて奴もいるって話は聞いたことはあるが……。
いや……『能力の延長』もそうだが、瞬時に姿を消したりと、常識はずれの力を持っている奴らだ。
枠にはめて考えない方が良いのかもしれんな。
「しかしそうなると、アルティラの呪いについちゃ目新しい情報は無い、か。さて、どうやって解いたもんか……」
アルティラ達を蘇生してくれた、あのメルディナッハっつーセンセーにも相談してみたんだが、どうにもいい返事は返ってこなかった。
なんでもアトゥマネプタによる呪いは、結構なレベルで高度なものだそうだ。
「それなんだけどねイルヴィス、えっと……私達は一度、『ラーシャムス』へ向かおうと思ってるの」
「『ラーシャムス』? っつーと、あの砂漠の王国か」
シルヴァーネ共和国からずっと南、海を越えた先にあるアフルガーン大陸。
ラーシャムスはそこにある、砂に囲まれた王国だ。
「うん、私たちがアトゥマネプタを手に入れたのはあの国のダンジョンだから……もしかしたらなにか分かるかもって。だから――」




