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番外編 ワールズレコード023:通貨と言語

 一足先にバンダルガへ到着した俺達四人は、町での軽い情報収集の後、明日の本格的な調査に備え、早めに宿屋へと足を運んでいた。


「……あれ? 俺の上着どこいった?」


 備え付けのシャワーで汗を流して部屋に戻ると、忽然と姿を消しちまっている愛用の上着。そりゃあ、これから寝るだけって時に必要かと聞かれリゃあそんなことはねぇが……。


 しかし、間違いなくハンガーにかけておいたと思ったんだがなぁ。

 

「あ、あぁ……。えと、そ、それならトリアが、は、羽織ったまま寝ちゃってるぞ……? ほら……」


「にゃふふ~! 『あはは! この上着おっちゃん臭い~!』って言いながらー、なんだかはしゃいでたってカンジ?」


 いやなにやってんだよ。

 つーか臭いってんなら脱ぎゃあいいだろうが。


「そ、それで……す、少しの間、そんな風に楽しそうにしてたんだけど……、その時にほら、そ、そこの角に肘をぶつけたみたいで……」


「うんうん。んでんでー、『いたい……いたいよぅ、おっちゃんのばかー……』って言いながらベッドでうずくまっちゃってー」


「そ、そのままいつの間にか、す、すやぁって……」


 いやホントになにやってんの?

 つか、お前のドジの責任をおっさんに押しつけるんじゃないよ、気持ちよさそうな顔で寝やがってまったく……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ワールズレコード023:通貨と言語

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……にゃふふ、ほらほらオジサン! お部屋もおんなじことだしー、今日はウチと同じベッドで一緒に寝ちゃう? にゃふふふふ……!」


「あー、そうしたいのはやまやまなんだがなぁ。おっさんほれ、ベッドは一人で使わねぇと疲れとれないタイプの人間なんだわ、残念だねホント」


「あ、あれ……? で、でもこの間のデルフォレストでは、ハクに『一緒に寝よう』って……」


「ん? あん時はベッドじゃなくて一晩限りの温もり(インスタントハグ)だったろ? そういうことだ」


「え、えぇ……? は、判定がゆるい……」


 良いんだよ、適当なこと言ってるだけだからな。



「で、でも……た、確かに今回は、へ、部屋を分けようって言わなかったな、おっちゃん……」


「あーいや、そいつはまぁなんつーか……」


 ぶっちゃけちまえば金が無い。

 ……いや、まったく無いってワケじゃねぇんだが、余裕があるかと聞かれりゃあ、首を横に振らざるを得ないってヤツだねホント。


 確か駅前のダンジョン……リバントンミュージアムだったか。

 もしあそこを探索する、なんて話になりゃ、入場料も必要になってくるからな。

 できるところは切り詰めていかねぇと……。


「お、お金か……。……その、ぜ、ぜんぜん話が変わっちゃうんだけど、あ、改めて考えてみるとこれ全部に術式が施されてるってすごいよな……。こ、硬貨とか、し、紙幣もだけど……」


「にゃふふ! 世界中にある通貨ぜーんぶに、おんなじ術式が施されてるんだからねー?」


 ……ふーむ確かに、そう考えてみると、結構途方もない話なのかもしれん。

 二人の言うとおり、この世の全ての通貨には、流通の管理や不正の感知なんかのための専用の術式が組み込まれている。


 間違った使い方をされた硬貨や紙幣が、言葉通り『汚れた金』になっちまうってのもそのためだ。


 確か……ダンジョンから発掘された技術を利用しているんだったか?

 その関係で、偽造なんかも不可能だって話は有名だ。



「けどよ、間違った使い方を判別してる、なんて口にするのは簡単だが……実際のとこ、どうやってそんなことを可能にしてんだ?」


 いくらなんでも全部の通貨を監視、なんつーことは、流石にできなさそうもんだが……。


「んとんとー、術式自体がまだ詳しく解明されてないから、ウチもかいつまんだ話になっちゃうけど……簡単に言えば、お金が自分の意思で判断してるってカンジ?」


「意思って……生きてるってのかよ? こいつらが?」


 俺はわざとらしく、一枚の紙幣をひらひらとさせてみる。

 『やめてくれー』なんて声は……どうやら聞こえてこねぇみたいだな。


「にゃうーん、そういうワケじゃないんだけど……あ! ほら、人の脳にはたくさんの『神経細胞』があってー、それが電気信号でアレコレすることで、『脳』としての働きをしてるーなんて話、知ってるでしょー?」


「あー……そりゃあまぁ、それぐらいの話なら俺も知っちゃいるが……」


「それとおんなじ感覚でー、この世界にあるぜーんぶの通貨どうしが魔術で繋がりながら情報をやりとりすることで、一つのでっかい『脳』を造りあげてるってカンジ?」


「じゃ、じゃあ、そのでっかい脳が、あ、あらかじめ設定されていた命令なんかに従って、ふ、不正の判別なんかをしてるってことなのかな……?」


「にゃふふ、ネルネルそのとーり!」


「はぁ~、そりゃあなんつーか、えらく規模のデカい話だなぁ……」


 世界規模の脳みそときたか。

 規模がデカすぎて、いまいちピンとこんなホント。


「にゃふふ! そんなワケでー、ウチらの世界では世界国家連合ワールドユニオンの管理のもと、全世界でおんなじ通貨が使えてるんだよねー?」


「? 『ウチらの世界では(・・)』っつーと……あれか、例の勇者がやって来たっつー『異世界』ってやつじゃ……」


「オジサンだいせ~かい~! その世界じゃ通貨だけじゃなく、言語も国ごとに違ってたらしいよ?」


 マジかよ。

 そりゃあまた、軽い気持ちで国外旅行なんてできそうにねぇなぁ。



「ちなみにー? 言語については、古代文明でも国ごとに違ったものを使ってたって記録も見つかってるんだよねー?」


「そ、そうなのか……? こ、国境を跨いだら言葉が通じないなんて……い、異世界も古代文明も、け、けっこう不便だったんだな……」


 だよなぁ。

 良かったおっさん現代人で。


「にゃうーんそれがねー? 古代文明じゃ『言語選択』……だったかな? そういうカンジのスキルみたいなモノがあって、好きな言語を選んで使用できたー、なんて話もあるのですなー」


「……ん? いやいや、だったら国ごとに言語が分かれてる意味ねぇじゃねぇか」


 全員が示し合わせて同じ言語を選べば、それですんじまう話だしな。


「にゃふにゃふ、そーなんだよねー? だから、なにか解釈が間違ってるんじゃないかって言われてるんだけど……国ごとに異なる言語があったってのはほんとーなんだよ? 『ハック』とか『チート』って言葉あるでしょあれだって――」


 そのまま何やら難しい話を続けていくエテリナ。

 言語体系? がどうのとか、発音符号? がどうのとか言っちゃあいるが……。


「――ってカンジ? どう? オジサンわかったかなー?」


「いんや、さっぱりだわ」


「にゃふふー、だと思った! よしよし~」


 ええい、頭を撫でながら、そんな『できない子を見守る母親みたいな目』を向けてくるんじゃないっての。


「え、えと、つまり……さ、最終的に、今見つかっている古代文明の記録なんかは、と、当時のいろんな国の言葉を統合したものになってるってことか……?」


「にゃふふ、まぁそういうことだねー? だから読むのってけっこう大変なんだよ? ウチもいまだにカンペキとはいかないし……」


 なるほどな。

 エテリナですら読むのが難しいってんだ、つくづく俺は現代人でよかったよホント。




「ふぁ~あ……、難しい話聞いてたら眠くなってきちまった。俺達もそろそろ寝ようぜ? ……って、おいこらエテリナさっき言ったろうが、一人で寝ないと疲れとれねぇってよ」


「にゃふー! だいじょーぶだいじょーぶ! ……ちゃあんと『寝る時』には一人にしたげるよ? にゃふふ……!」


「はわわわわわ……!? だ、だめだぞおっちゃん……!? い、いくらその……あ、あ、愛してるっていっても……、ね、寝る前にあの、あの、あんまり、え、え、えっちぃのは……」


「いや、しないっつの」


 ……おっさんその辺りの信用ホントねぇなぁ。

 結構主張してると思うよ? 身の潔白とかね?


 言葉が通じていようがいまいが、伝わらないことってあるもんだなぁ……。

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