第19話 自分のやれること
巨大な二体の鎧が、額縁から飛び出した絵の化け物へと突撃する。
正確には『巨大な鎧をまとったスライムが』っつった方が良いのかもしれんがね。
――『アルファスライム』、そして、『オメガスライム』か。
俺は以前からよく、ネルネのスライムの実験につき合ってやっていた。
それこそ、出会った時からちょくちょくだ。
この二体はどうやら、その過程で生まれたスキルのようだな。
「……ギギャアアアァア!!」
アカシックピクチャーが迎え撃たんとばかりに、二体の鎧に攻撃を繰り出す
……が。
「……すごい! びくともしてない!」
どちらの鎧もギャリギャリと音を立てながらそれらを捌いてく。
……流石にレガリアといったところだな。
怯むどころか、傷一つついていないようだ。
「ギ……ギャアァァア!!」
「……! さ、させない……!!」
そんな中、恐らく攻撃が通らないと判断したであろうアカシックピクチャーが、即座に標的を切り替えた。
……満身創痍のトリア達を狙った攻撃だ。
流石に狡猾といったところか。直接的ではなく、間接的な絡め手を使うことで、ネルネの精神に揺さぶりをかけ、状況を変えようとしているのだろう。
それを察知したネルネが袖を振るようにして鎧を操れば、瞬時に反応したオメガスライムが攻撃を体で受け止める。
そうして一瞬産まれた隙に、そのままアルファスライムが拳を繰り出す。
レガリアレベルの『超防御力』をそのまま利用すれば、ただ単純に腕の装甲を力任せに叩き込むだけでも、相当の衝撃が生まれることだろう。
だがそれを受けても尚、アカシックピクチャーは攻撃の手を止めない。
繰り返されるギリギリの攻防。
それがガキンガキンとぶつかり合う度、重低音が空気を揺らす。
「にゃ、確かにすごい……! ……けど、このままじゃ……」
「え……!? けほ……ど、どういうことですか……!? ネルネさんのスライム、ぜ、ぜんぜん負けてないって思いますけど……!?」
「ごほ……。決定打がないのだ。あの防御力と、そこから繰り出される接近戦は凄まじいものではあるが……それでもやはり、討伐に至るまでの『決定的な攻撃手段』には欠けている……。それに……」
説明しながら、クヨウがネルネの方へと視線を向ける。
「――はぁ……! はぁ……!!」
「あれだけのスライムを二体同時に……しかも状況を判断しながら的確に操作しているのだ。マナも、体力も、集中力も、相当に消耗しているはず……おそらく、そう長くは持たないだろう……!」
「かといって今のウチらじゃ……。ただ加勢しても標的になるだけだろうし、ウチの『イグナリオンコア』でも、まともなダメージを与えられるかどうか……」
「そんな……! なんとか……あ!?」
息を切らせたネルネが、がくんと膝をつく。
……と同時に、二体の鎧もその動きを静かに止めてしまう。
「……ネルネ!? ――っ!!」
その光景を目にしたトリアが、ネルネの元へと駆け出した。
「ネルネ……!? ネルネ大丈夫……!? 顔色も、それに……」
そこまで口にしたところで、二人にふっと影が落ちる。
……アカシックピクチャーだ。
恐らくこの中で一番の脅威と感じたネルネを、優先的に狙いだしたのだろう。
鎧は動きを止めた。
戦闘によるダメージはあるだろうが、決して致命的では無い。
まるでそう言わんばかりに、二人ににじり寄っていく。
「そんな……これでもまだ……」
「はぁ……、はぁ……。……こ、こうなるってことは、わ、わかってた……。いくらレガリアを使ったとしても……こほ、い、今の私の力じゃ、魔王級の魔物には勝てないって……」
駆けつけたトリアに支えられながら、ネルネが口を開く。
「あ、アカシックピクチャーに遭遇して、す、すぐにこの方法を提案しなかったのも、それがわかってたからだ……。わ、わたしは後衛だから、や、やっぱり直接戦闘には向いてない……」
「ネルネ……」
「だ、だからせめて……今、自分のやれることを、し、しようとしたんだ……。『今やれるのは今やれることだけしかない』って、おっちゃんも言ってたから……だから……」
「――だから、これで良かったんだよな……おっちゃん……!!」
「ああ!! ――これ以上ない程にな!!」
俺はネルネに返事をしながら、アカシックピクチャーの背面にナイフを突き立てる。……もちろん『勇者級』の力でな!!
「ギギャアアアァアアアア!!??!?」
「おっちゃん!!」
「おじさま!!」
「……結構しんどかったぜ、手をこまねいて、ただただ見てるだけっつうのはよ……!!」
この機会……この瞬間まで、俺は息をひそめながら、静かに伏せていた。
ネルネの想いを、決して無駄にしないため……そして、アイツなら、この瞬間を作ってくれると信じていたからだ。
ネルネがポートから帰って来たとき、同時に持ってきたマナポーションも飲みほしてある。おかげで動かない足は、肉体操作でカバーできた。
残りのマナはもちろん――!
「――だ、大事なのはタイミングなんだ……! わ、わたしは後衛からの支援がメインだからこそ、み、みんなの状態や、アイテムの残量なんかも、ちゃ、ちゃんと把握してる……!」
……あぁ、知ってるよ。
だからこそ俺達も、安心してお前に背中を預けられるんだ。
「あ、あのタイミングじゃなきゃダメだったんだ……! は、早すぎても、遅すぎても、この瞬間を迎えることはできなかった……。『みんなが生き残って、おっちゃんのインターバルが終わる』この瞬間を……!!」
流石、うちのバッファーは優秀だね。
――最高の、最高すぎる支援だ。
だから、だからそいつに応えるためにも――ここからは、前衛である俺の仕事だ!!
「――ギギャアアアァアアアアッ!!!!」
叫び声をあげながら、じたばたと暴れまわるアカシックピクチャー。
その攻撃が、再び俺に向けられる。
ま、最後のあがきだ、やりたいようにやればいい。
残念だが、どれだけ暴れてもナイフを抜いたりはしてやらんがな……!
「……しかし悪いね、後ろからなんて卑怯やり方で。いやこっちも生き延びるのに必死なもんでな、もし許してくれるってんなら……そうだな、またこう叫んでくれるってのはどうだ? 『ギャアアアア!!』って感じでよ?」
「ギャアアアァア!! ギアアアァアァアァアアァッ!!!!」
「お、そうかい? いや寛大だねぇ魔王級ともなればやっぱりよ。――その詫びと言っちゃあなんだが大サービスだ……!!」
突き刺したオーヴァナイフにマナを込める。
……突き刺したままのオーヴァナイフにだ。
「五分間に分けて、なんてケチ臭いことはいわねぇ……一撃で全部!! ありったけをもっていけ!!!!」
今俺に残ってるマナ、そいつを少しも残らず、ナイフへと注ぎ込む……!
わかるか……!? それが全部ナイフを通し、斬撃となってお前の体内を暴れまわっていくのがよぉ!!
「ギ……ギギャ……ギィイイィアアァアァアアアアァアァ!!?!!?」
「食い破れ!!! 『オーヴァ……!! ボルドッ!!!!』」
バキンと大きく炸裂音が響き、それに追従する斬撃と衝撃に飲まれながら、ビキビキと音を立てて額縁が崩壊していく。
そして……まるで道連れにでもされるかのように、飛び出していた絵も同時に消滅していった。




