第17話 迎えに
「やだあぁああぁ!! うああああぁぁあぁぁああん……!!」
「ぐえぇ!? おいトリア、落ち着けって!!」
そんで頼むからおっさんの腰をがくがくと揺するんじゃないっての!!
老朽化につき崩壊寸前っつっても過言じゃあないんだぞ!?
「だってこういうの聞いたことあるもん!! いつの間にか一人増えてたとか、そういう怖いオバケのお話聞いたことあるもん!!」
「いや、生きとる生きとる。ほれ、足もちゃんとあるでの。何やら騒がしいと思っちょったが……他の冒険者に会うのも、随分と久しぶりだの」
「…………ふぇ?」
……
…………
……………………
「――するってーと何かの? お前さん達はわしを探すためだけに、こんなダンジョンくんだりまで足を運んだちゅうことかの? そりゃあまた、随分と物好きな奴らもいたもんだの」
さらりと会話に入って来ていたその人物。
見たところドワーフのようだが、これがなんと俺達がさがしていた小説家のじいさんだった。
……正確には探していたのは手掛かりなんだが、まぁ本人が見つかったってんならそれはそれで言うことは無いだろ。
「しかし……『謎の失踪』とはの。のほほ、まぁあながち間違っちょらんが、これはまた小説のネタにできそうだの」
「えと……そんで、おじいさんはなんでこんなところにいたの?」
相変わらず腰にくっついたままのトリアが質問を投げかける。
……ほら、オバケでも何でもないって分かったんだから離れろってのに……。
「ふーむそうだのう、まぁ結論を言ってしまえば……『身を隠している』とでも言ったところだの」
「身を隠している……ですか?」
「にゃふふ、ウチらとしてはーその理由の方も気になっちゃうってカンジ?」
「そいつは勘弁してほしいの。……と、気を悪くせんでくれの? お前さんらを疑っとるっちゅうわけじゃあないんだが……どこからどう情報が伝わっていくかなんぞ、本人でも分からんもんじゃからの、のほほ」
口調は軽いが、随分と慎重なようだ。
ともあれ、こんなダンジョンで逃亡生活をしているところを見るに、よほどの理由があるんだろう。
だがまぁ俺達を疑ってないってのは嘘じゃなさそうだな。でなけりゃこうして、不用意に顔を見せたりはせんだろうし。
しかしそうなると、気になることがないワケじゃあないが……。
どうにも、『見つかってよかったね』で終わる話じゃなさそうだなホント。
「しかし……こう言ってはなんなのだが、ただ身を隠すというのであれば、こんなダンジョンをその場所に選ぶ理由もなさそうなものだと思ってしまうが……」
「のほほ、まぁそうだのう。……お前さんらは、エルフとオークの物語を知っちょるかの?」
「あ! ハク知ってます! 有名な小説ですよね?」
ハクの言う通り、有名な小説だ。
なんせ普段読書なんてしない俺ですら知ってるぐらいだからな。
「あれを書いたのは、わしの爺さんでの。わしもその影響で小説家を目指したりなぞしたんだが……まぁ最初はこれでもかっちゅうぐらい上手くいかなんでのう」
たくわえた髭を手でとかしながら、じいさんは言葉を続けていく。
「そんで作品のための刺激……ま、『いんすぴれーしょん』っちゅうヤツだの。そういったもんを求めていろいろな場所を見て回っちょってな、ここも、そのうちのひとつでの?」
「え、えと……そ、そういえばおじいさんは冒険者だって聞いてるけど……、ひょ、ひょっとして、ここを探索するために……?」
「いやいやいや、確かにいんすぴれーしょんのために冒険者になったの確かだがの! この場所は、つい150年ほど前まではただの博物館でのう、ダンジョンで見つかった装飾品なんかを展示しちょったんよ」
150年前て。
ついとかつけちゃうほど最近じゃあないと思うぞおっさんは。
まぁドワーフもエルフほどじゃないが、寿命が長い種族だからな。
確か……長いヤツで250年は生きるんだったか?
「わしも若い頃はよく足を運んだもんでの。そんでさっきも話したが、とある事情で身を隠さねばならんくなってしまい、それなら思い入れのあるここへと逃げ込んだっちゅう訳なんだが……つい懐かしい気持ちになってしまっての」
「それでまぁ、『もうこのままダンジョンに住んでしまえばええか』、とか思ったっちゅーわけだの」
「いやそこが分からん……」
流石になかなかのその結論には至らんだろ。
なんて思っちまうが……。
「ま、他の人から見たら滑稽にみえる話だろうの、のほほ」
「う、ううん。そ、そんなことはないぞ……」
「……ネルネ?」
「わ、わたしにはその……な、なんとなくわかる……。ほ、他のひとにとっては、き、奇妙で奇抜なことだとでも、じ、自分にとってはえと、だ、大事なことってあるというか……」
「! ……そうだな、そのとおりだ」
俺はネルネの頭をポンと撫でる。
本当にいつも、ウチの子たちにはいろいろと気付かされるね。
「……のほほ、ほうかいほうかい! どうやら思った通り、ええ子らみたいだの?」
「まぁな、自慢の仲間たちだよ。……なぁじいさん。少し、聞いてほしい話があるんだが……」
俺はここへやってきた経緯を改めてじいさんに説明する。
今度はフリゲイトや不落の難題のことも含めて、包み隠さずにだ。
「……ほうか、なるほどの。だが話してよかったのか? わしが『身を隠している』と聞いたならば、そういった話は警戒につながるかもしれん……と、そう思いそうなものだがの?」
「そうかもな。だが……まぁなんとなくだ」
「のほほ、なんとなくか! ……冒険、ええのう昔を思い出すわい」
「何言ってんだよ、最上級の冒険者だって聞いてるぜ? 身を隠してるっつう問題さえ解決すりゃ、今からでも全然遅くねぇだろうに」
「のほほ、そう言われて悪い気はせんが……老骨にはちとの? しかし……あいにくそのフリゲイトっちゅうたか? そういったモンには覚えがないのう。だが――」
「――おじさま!!」
じいさんが何か口にしようとした瞬間、ハクが叫び声をあげる。
と同時に、見るからにトリアが苦手そうな魔物が現れた。
「うわぁん!! またこんな魔物じゃん!! やだぁ!!」
「わかった、わかったら、ちょっと下がってろっての! ……しかしこいつはランクSSか、こんな浅層でっつーことは……!」
「はい、多分、フリゲイトの……!」
なるほどな。
どうやらハクはいち早く、いつもの『ぞわぞわ』を感じてくれていたようだ。
「SSが相手なら俺が先陣を切る! トリア、クヨウ、ハクはじいさんを! ネルネとエテリナは俺のサポートを頼む!!」
「はい! わかりました!」
「にゃふふ、うけたまわりー!」
いくらじいさんが最上級だっつっても、SS相手じゃ分が悪いだろう。
ここは俺が――!
……
…………
……………………
「ふぅ、片付いたか」
「こいつはまた……お前さん、随分と実力者のようだの?」
「まぁな。できればそのへんのことは、内密に頼みたいとこなんだが……」
「! ……のほほ、こんな場所で誰かに話すもあるまいて。しかし……わしもそこそこ長くここに住んどるが、こんな浅層でSSの魔物に出くわしたことなどないのだがのう……」
「あぁ、そいつはさっき話した――」
「……!? ――おじさま!! また……また来ます!! これは……っ!?」
――不意に、かたんと小さな音を立て、空気が揺れる。
振り向くとそこには、一つの大きな額縁が飾られていた。
確かにこのダンジョンは、つぶれた博物館が元になっていただけあって、いろんなモンが飾られちゃいるが……さっきまではあんなもんは無かったはずだ。
そんでもってあの形状、たしか……。
「こいつは……『アカシックピクチャー』か!?」
アカシックピクチャー。
ゴーストピクチャーの最上位種、ランク『SS+』の魔物だ。
「またこんな高ランクの魔物だと……!? イルヴィス、これはやはり……!」
「ああ、こう言っちゃなんだが、俺達にとっちゃ『あたり』だったってことだろうな……! だがまずいことに、俺の『戦闘力解放』はさっきの戦いで時間切れだ……!! ひとまず一旦退却を……」
「――あぁほうか……。迎えに、迎えに来てくれたんだのう。これで、これでやっとわしも……」
俺達が退却の態勢を取ろうとする中、じいさんだけが一人、ふらふらとアカシックピクチャーの方へと歩いていく。
「おい、じいさん!? なにやって……!?」
これは……『魅了』の状態異常か!?
それなら状態回復用の魔法薬も持ってきている、何とか飲ませて……!
「――〰〰っ!? おっちゃん!!」
爺さんに近づこうとした瞬間、額縁から飛び出した『絵』が俺を襲うように飛びかかって来た。
トリアの掛け声のおかげで、すんでのところでかわすことができたが……。
くそっ、やっぱボイドシンドロームの影響とほとんど見えない左目は、こうも足を引っ張るか……!
「けほ、はぁはぁ……! お、おじさま、だ、大丈夫ですか……!?」
「あぁ、俺は……!? ハク!? どうした!? お前顔色が……!?」
「だ、大丈夫です……! ただいつもよりちょっと『ぞわぞわ』が強くて……、ごめんなさい、すぐに伝えるべきだったんですけど……」
「謝らなくていい、ハクはちゃんとやってくれてるさ。……それと、強がらなくてもだ」
ハクは『ちょっと』と言ってるが、これは……。
あの時……ガングリッドが馬鹿でかい魔物になっちまった時だ。
あのバケモンもランクにしたら、SS+はあろうかという感じだったが、それを前にしても、ハクはこれほどの反応を見せちゃいなかった……。
つまりこいつは、ランクSS+よりも上の存在だってことか……!?
だとしたら――!
「まさかネームド……!? ――『魔王級』か!?」




