第16話 悪いね、騒がしい連中でよ?
「……とまぁ、恥ずかしい話持ち合わせが無くてな。いや、アテがないワケじゃあないんだが……時間も限られてる以上、どうしたもんかと思ってたところだ」
マッフィーノにたずねられ、俺たちの現状を説明する。
実際のところ、今の俺達の実力とゲートがあれば、また少し時間をかけりゃ入場料をかき集めることも不可能じゃあないだろう。
しかしそうなると、ハクの夏休みもそれだけでほとんど使い切っちまうだろうしなぁ……。
もう少し自由にゲートを使えりゃ、そのへんも解決するんだが……。
「なるほど、そういうことでしたの。それでしたら……ジョーダイン?」
「! …………お嬢、しかし……」
「いいんですの! ――イルヴィスさん! 貴方がたの入場料、わたくしが立て替えて差し上げますわ!」
「えぇ!? で、でもさ、ボクたち六人で百二十万だよ? 結構お高いって言うか……」
「かまいませんわ! こんな風に言うと嫌味になってしまうかもしれませんが、わたくしお金には困っておりませんの! ……幸か不幸か、冒険者以外のあれこれの方が上手くいっているんですわよねぇ……」
どっか遠い目でため息をついくマッフィーノ。
言葉から察するに、なんかいろいろとそういうアレあるんだろう。
それはともかくとして……。
「いやしかしだな、それにしたってほれ、会ったばっかの見ず知らずの他人にこの額は……」
「見ず知らずの他人、確かにそうかもしれませんわね。……ですが、それが一期一会の出会いでないと誰が言いきれますの! 冒険者たるもの、期を逃してしまっては大成しませんもの!」
ばばーんと手を突き出すようなポーズを取りながら、高らかにそう答える。
「ですからこれは投資です。貴方がたとの縁をつなぎ、さらにそれが貴方がたの糧となれば……いずれはその恩恵が、わたくしの元に帰ってくるかもしれないでしょう?」
「投資、か……」
「ええそうですわ! ……それとも、ひょっとしてイルヴィスさんは踏み倒してしまわれるおつもりでして?」
「いや、そういうワケじゃあねぇんだが……そうかい、それならこっちも、ただ施されるよりも分かりやすくてずっといい。ありがとな、恩に着るよ」
「うふふ、どういたしましてですわ」
俺が頭を下げると、マッフィーノは丁寧に返してくる。
口調といい、どっかのお嬢様だったりすんのかもな。
「ん~……!! ありがとーマッフィーノ!!」
「きゃ!? もうトリアさん、びっくりしてしまいますわ?」
「にゃふふー! ではではウチも、感謝のハグをば! ほらほらー、ネルネルも一緒にってカンジ?」
「え? う、うん……。あ、ありがとうマッフィーノ……、ぎゅ、ぎゅー……」
「あ、あの……!? み、みなさん……!?」
おーおー、ウチの子らに抱き着かれてわたわたしておられる。
悪いね、騒がしい連中でよ?
「しかし……ジョーダイン、だったか? 俺が言うのもなんだけどよ、アンタもこれでよかったのかい? なんつーかその……」
「…………お嬢がそう決めたのであれば、俺はそれに従うまで。……そもそも俺が何を言ったところで、お嬢が考えをを曲げるとは思ない」
そう口にするが、端々からやれやれといった様子がみてとれる。
……どうにも、アンタも苦労してるみたいだね。
……
…………
……………………
「――なるほど、そんなことがあったのだな」
マッフィーノたちと別れてからしばらく。
クヨウとハクもバンダルガへとやってきて、そのまま合流を果たした俺達は、すぐさまダンジョンの探索へとのりだした。
――リバントンミュージアム。
駅前にある閉鎖した博物館、そこが時間を経て変化したダンジョンだって話だ。
まぁここに限らず、そういった話は珍しくない。
様々な場所で日々ダンジョンは増えていっているし、逆にエンフォーレリアのあのダンジョンのように、枯れていっちまうこともあるからな。
「マッフィーノさん……でしたよね? レベル4ってことは、ハクとおんなじで冒険者になったばかりだったのかな? ハクもお会いして、お話をしてみたかったです!」
「ま、立て替えてもらった分もどっかで返しに行かなきゃならんし、そん時にでも紹介するさ」
「はい! えへへ……おじさまにたくさん注ぎ込まれながら、いろんなことを体で教えてもらったことも、ちゃあんとお話ししますね!」
いやうんだめだわ、それは言い回しが不味いなんてもんじゃない。
注ぎ込んだのはマナで、その流れと『体で教える』って言うワードの組み合わせはもう、抜群に悪い方向むいてるからね?
なにも知らんマッフィーノが聞いたらまたいらぬ誤解が生まれちまうよ?
「そ、そう言えばトリア……こ、今回は大丈夫なのか……?」
「え? だいじょうぶって……なにが?」
――リバントンミュージアム第二十五階層。
探索に入って二日目。
例の小説家の手がかりをと、いろいろな場所を探索しながらにしては、随分と好調に進めている。
まぁ、トリア達の実力もまたさらに上がってきているうえ、以前から多めに用意してある回復用アイテムの予備や食糧なんかの物資は、軒並み『夢幻の箱庭』にストックしておけるからな。
そのへんの心配がほぼない以上、ある程度ゴリ押しで歩を進めても問題ないってワケだ。
なんだが……。
「にゅうぅぅぅぅ、にゅうぅぅぅぅううぅぅう…………!」
「ほれトリア、気持ちは分からんでもないが、このまま腰にしがみいてたら進めねぇだろ? よーしよし……」
「……ボクはトリアじゃないです。あれですあの……ケンタウロスとかにあるあの後ろの部分です」
「え、おっさん知らんうちに魔物になってたん?」
いやなわけあるかい。
つーか、億万歩ゆずって仮にそうだとしても、おまえのその位置じゃ体の横から生えてることになるだろうが
とんだクレイジーケンタウロスだよ。
「と、トリア……? だ、だいじょうぶだぞ……? ほ、ホラー属との戦闘は、わ、わたし達で引き受けるからな……?」
「はい! だからもう少し頑張りましょうね?」
ま、現状の経緯はそういうことだ。
リバントンミュージアムには、動く絵画みてぇな『ゴーストピクチャー』をはじめ、ホラー属の魔物も多いからな。
つっても、これからも一緒にいろんな場所を冒険していくんだって以上、どうしても避けて通れない話ではある。
それでトリアも頑張ってたんだが……とうとう限界が来たってワケだ。
「ほれ、ネルネ達もこう言ってくれてるし、な?」
「やーだぁー!! おっちゃんみすてないでぇ!! あ! ねぇぱんつ! ぱんつならみせたげるからぁ!!」
「いやお前それやめろっつってんだろうが!? いい加減それが交渉の材料にならんことをだなぁ……」
「ぐにゅううぅ……!! じゃあなんなの!? なにすればいいの!? エテリナみたいにおっぱい触らせてあげればいいの!? おっぱい触らせたげたらまんぞくしてくれるの!?」
「うおーい!!? たちの悪い振り切れ方をするんじゃねぇよ!! ただでさえ……!」
「――イルヴィス? 今何か、トリアの口から聞き捨てならん言葉が聞こえた気がするが? 確か……エテリナの胸をどうとか?」
…………おやクヨウさん、素敵な笑顔ですね?
でもなぜだろう? なんだか背筋が冷たく感じるよ?
風邪でもひき始めちまったかな?
「いやそれはほら……。違うんすよクヨウさん、なんつーかその……ごほん。……クヨウ大丈夫だ、心配しなくても、何もやましいことはしてない。――お前なら、信じてくれるよな?」
「え、あ……う、うん。そ、そうか、それならいいのだが……」
クヨウの肩に手を置きながら、しっかり目を見て応えてやる。
……いよーしのりきった! いやいや嘘はついていないぞ? ちゃんと直前で目を覚まして……。
「にゃふふ、そうだよー? オジサンの方から手を出されそうになっちゃったんだけどー、……残念ながら未遂だったもんねー? にゃふふふふ……」
「イルヴィス!? それのどこが心配ないと言うのだ!!? お前はまた……!!」
くそう! のりきってなかった!!
エテリナのヤツ、分かっててやってやがるな!?
腰のトリアといい、もうしっちゃかめっちゃかになってきとるぞ……。
一応ここダンジョンの中なんすけど? ……いや、それはいつものことか。
「のほほ、しかしこれはまた、随分と騒がしい状況になっておるもんだの」
「んな他人事みてぇに……」
しかしホント、どうすっかなぁこれ……。
………………ん?
「「「…………いや誰!?」」」




