第15話 それほど無粋ではありませんもの!
「……まったく、失礼してしまいますわ!」
「…………まぁ仕方がない、実際、お嬢はまだ――」
警備兵に突っかかっていた二人……まぁ正確には、突っかかっていたのはそのうちの一人だけだったようだが、ともかくその二人が、警備兵の元を離れてこちらへ歩いてくる。
どうやらダンジョンに入るのを止められていたようだが……。
「あら、ごきげんよう。その恰好、貴方がたも冒険者ですのね? このダンジョンは……、――!? あ、貴方!! トリア・ラムネーヌさんではなくて!?」
「え? うん、そうだよ! えっと……どこかで会ったことあったっけ?」
すれ違いざま、軽く挨拶をされたかと思えば、トリアを名指しして興奮し始めるその少女。
知り合い……っつーワケでもないみたいだな、トリアの様子からすると。
「いえ、お会いしたことは無いのですが……まぁ! それと、そちらはエテリナ・クルカルカさんですわね! ……ああ! こんなところで勇者候補の方々にお会いできるなんて光栄ですわ!」
「にゃにゃにゃ? ウチらのことー、知ってるってカンジ?」
「もちろん存じておりますわ! わたくし、冒険者の方々にはくわしいんですの!」
さっきまでの不機嫌の様子から一変、少女はご機嫌な様子で胸を張る。
しかしなんだ、これはまずいな……。
このままじゃあまず間違いなく、トリアのヤツが調子に……って、あ! コイツもう天狗になる体制に入ってやがるな!? させんぞ!
俺は死角から軽く脇腹をつついて、そいつを阻止してやる。
トリアは『うひゃあ』と小さく声をあげながらビクンと反応し……まぁほら、そう睨むなって、な?
「ということは……そう、貴方がイルヴィス・スコードさんですのね? 色々と、お噂は聞いておりますわ!」
「っと。……噂、ねぇ」
どうにも、良い期待はできなさそうだが……。
「えぇ、『あまり褒められたことをしていない』なんて話はよく。それと――本当は『最上級』ほどの実力をお持ちだということも、ね?」
……! 俺の力のことも知っているのか。
まぁあの時……パニティンサイドのダンジョンアウトで披露した時から、いつかこうなるかもしれんとは思っちゃいたが……。
だが流石にそれ以上の力……『英雄級』や『勇者級』のことについては出回ってないみたいだな。
「…………お嬢、あまりそういったことは……」
「もう、分かっていますわジョーダイン。ふふん、わたくし、それほど無粋ではありませんもの! ……それで、貴方がたもこのダンジョンに?」
「『も』ってことは、えっと……」
「あ、申し遅れましたの! ……こほん、わたくしマッフィーノ・ショコラッテと申しますわ! こっちはお付きのジョーダインですの!」
「…………どうも」
紹介された背の高い男がぺこりと一度頭を下げる。
その流れで、俺達も軽く自己紹介をしておいた。
話によると、ここには居ない勇者候補のクヨウだけでなく、ネルネやハクのことも知っているようだ。
ま、ウチの子らはなんやかんやで有名になってきてるからな。
アンリアットの外でも、知ってるヤツが出てきてもおかしくないか。
「――にゃふふ! それじゃあマッフィーも、このダンジョンが目的でここへってカンジ?」
「ええそうですわ! ですが……」
「ひょ、ひょっとして二人も、にゅ、入場料で足止めを……?」
「あぁいえ、そうではありませんの。でも……これでもわたくし、立派な冒険者ですのよ! ほら、見てくださいまし!」
なにやら急に、ぷんすかと頬を膨らませたかと思えば、冒険者カードを差し出してくるマッフィーノ。
「どれ……? レベル4、か」
「ふふん、そうですわ! この間など、とうとうわたくし一人の力で『ウィークスライム』を討伐したんですのよ!」
ウィークスライム。
ダンジョン外に出現するやつらの中でも、飛び切りに弱い方の魔物だ。
ちなみにおっさんのメンタルとは何の関係もない。
……ないっつってんだろ。
だから三人とも、『噂をすれば』みたいな目でちらちらとこっちを見るんじゃないての。
まぁいい、とりあえず再び、渡された冒険者カードに目を落とす。
レベルの低さはこの先どうとでもなるとしてだ。
……正直、現状でこのステータスじゃあ、この先も冒険者をつづけていくのは難しいかもしれん。
ウィークスライムを『とうとう一人で』ってのも、大げさに言ってるわけじゃあないんだろう。
だが……。
「ほぉ、一人でウィークスライムをか。頑張ってるんだなマッフィーノは」
……ま、だからといって、そいつを馬鹿にするつもりはさらさらない。
『止めてやることが優しさだ』なんていう奴もいるだろうが……困難が道を諦める理由にならないことは、俺自身よく知ってるからな。
「……! そうですの! ふふん、わたくし頑張っていますのよ! それなのにあの警備兵の方ときたら、『実力の無いものは通せない』なんて……、むぅですわ!」
ぱぁっと顔をほころばせたかと思えば、また不機嫌そうな顔に戻る。
とはいえそのあたりも、あの人らのお仕事ではあるからなぁ。
ダンジョンに潜るっつーなら、それに見合ったある程度の力は必要だ。でなけりゃ、良いカモになっちまうことだろう。
……魔物から見ても、悪い人間から見てもだ。
「気持ちは分かるけどよ。とりあえずあれだ、このダンジョンは『中級』レベルって話だろ? もう少し、レベルの低いところから始めてみてもいいんじゃねぇか?」
「……この世界は弱肉強食、冒険者たる者それは分かっていますわ! ですが……貴方も他の方と同じ、つまらないことをおっしゃりますのね……?」
なんだか裏切られたような、がっかりしたような表情で俺を見上げてくる。
恐らくマッフィーノ自身、自分の戦闘力の低さを認識してはいるんだろう。
……そんな顔すんなって、これでも、お前の気持ちは痛いほどわかるんだぜ?
なんせ……。
「そりゃあ言うともさ。……少し前まで、俺も似たようなもんだったからな」
「……似たようなモノ? そういえば……『いくらレベルを上げても荷物持ちしかできない』なんて、そんな噂なんかもお聞きしましたが……」
あーそれも俺のことだわ、間違いない間違いない。
そんな評価をされるような人間が、そうポンポンいるとも思えんしな。
……自分で言ってて悲しくなってこないワケじゃないがね?
しかしなんだ、そんな俺でも今ではこうしてここにいる。
もちろん『スーパー大器晩成』の力があってのことだ、ってのは分かっちゃいるが……。
「ま、俺は運が良かったからよ、こんな話をするのはおせっかいで、筋違いなのかもしれんが……結局、今やれるのは『今やれること』だけしかねぇだろ? そんでも……その先に見えてくるもんがあると、俺は思うがね」
「今やれること……ですか」
なにも悲観しろと言ってるわけじゃあない。
今やれる最大限をと、そういう話だ。
「……そうですわね。ふふ、わたくしこれでも、ちゃあんと『今やれること』もやっておりますのよ! ……でも今回は少し、焦りすぎていたようですわ。イルヴィスさん、感謝いたしますの!」
うってかわって、落ち着いた表情を見せるマッフィーノ。
「それにしても……勇者候補の方々が三人も所属していて、そのどなたもパーティのリーダーではない、とお聞きした時はなぜなのかと思いましたけど……なんだか納得してしまいましたわ!」
「え、えと……む、むしろおっちゃんじゃないと、たぶん、わ、わたし達のリーダーは難しいと思う……」
「にゃふふ、ウチらみーんな個性バクハツってカンジだからねー?」
分かってんなら少しぐらいは自重してくれてもいいんだよホント。
おっさんの胃にダメージが蓄積される前にね?
「うんうん。でもおっちゃんってば、たまにメンタルよわよわさんでさぁ、あとちょっとえっちなところがあって困ったさんなんだよねー?」
「え、えっち……? えっと、そういえば確かそんな噂も……まさかあれも本当に……?」
……そんで結局これですわ、はは。
おっさんもう、そのあたりの評価から這い上がれることないんじゃないのコレ。
つらい。




