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第14話 なんかそんな交渉術

「――一人につき二十万!?」


 こういった街中にあるダンジョンには、誤って一般人が入っちまわないよう、こうして警備兵なんかが立っていることも多い。

 ビジレスハイヴも、門の前には配備されていたしな。


 そんなワケで、ちょいとお話を聞いてみようか、なんて思ったりしたんだが……。


「いやまってくれよ! ここに入るのに入場料(・・・)が必要だってのは知ってたが……以前はそんなにムチャクチャな値段じゃ無かったはずだろ!?」


 事前に調べてきた情報だと、一人当たりだいたい数千……高い時でも一万もいかなかったはずだぞ!?

 それが二十倍以上って……どんなえぐいインフレーションだよ!?


「それを我々に言われてもねぇ……。文句があるならほら、あっちに言ってくれ」


 そう言いながら指差す先にあるのは、ダンジョンの入り口横に設置された、受け付け窓口のような小さな設備。

 ここで入場料を支払わなければ、中には入れないってワケだ。


 別に誰かがダンジョンを管理しているだとか、持ち主がいるだとか、そういうことじゃあ無い。

 入るのに特殊な行動なんかが必要なダンジョンなんてのは珍しくないからな。


 ただ単に、ここじゃあそれが金だってだけの話なんだが……。


「さ……作戦タイム! 集合、しゅーごーぅ!!」





 入り口から少し離れたところで小さく固まりながら、緊急作戦会議を行う。

 議題はもちろん……。


「一人につき二十万、単純に六人分で百二十万か……」


「うひゃー、お高いねぇ……? あ! ねぇねぇ! 潰れちゃったとはいえ博物館みたいだし、ひょっとして団体割引とかってないのかな?」


「さ、流石にそれは……」


 仮にそんなもんがあったとしても、二割引きで百万をやっと切るぐらいだぞ?

 それで『お、それならお得だねぇ、いこういこう』なんて、どこの富豪なら言えるんだって話だよホント。


 ……いやまぁ少し前までなら、それでも何とかなったかもしれんが……。


「……俺が管理してた余剰金、この間の冒険者へのクエスト報酬やらなんやらで、ほとんど使い切っちまったからなぁ……」


「あーほらおっちゃん、あん時はみんなでそうしようって決めたでしょ? もー落ち込まないの、よしよし……」


 肩を落とす俺を、トリアが慰めるように撫でてくれる。

 うぅ、おっさんはダメな大人だよホント……。


 いっそ俺だけ先に入って、ゲートで五人を連れてくるか……?

 ……いや、メイズがどうやって夢幻の箱庭のことを知ったのか分からん以上、それは避けたいところではある。


 ダンジョン内だけでっつーならともかく、万が一のことを考えると、街中むやみにでゲートやポートを使うのは危険かもしれんからな。


 しかしこのまま手をこまねいていても仕方がないのも事実なワケで……。

 ……あぁ、俺がもっとちゃんとしとけばこんなことには――。



「――にゃっふっふ……! だいじょーぶだよオジサン? ここはウチがなんとかしてしんぜよー!」


「え、エテリナ……? 何か考えでもあるのか……?」


「前にも少し話したけどー、ウチってけっこーお金持ちなんだよねー? 魔術関係の特許料なんかでーちょいちょいっとってカンジ?」


 そういや、以前……初めてこいつが俺の部屋をたずねて来た時も、そんなようなことを言ってたな……。


「いやしかし……しかしそれはなぁ……」


「にゃは! うんうん、オジサンならそー言うと思った! まったくぅ、難儀な性格をしておりますなー?」


 そう言ってくれるなって……。

 自分でも、自覚してる部分はあるんだからよ……。


「だ・か・らー、何かゴホウビが欲しいなーって? 例えばー……このあたり(・・・・・)を『マッサージ』してくれたりとかね……? にゃふふ……!」


 胸の下で腕を組み、持ち上げる様にしてその谷間を強調するエテリナ。


「いやお前、いくらなんでもそれは……」


「そーだよ! おっちゃんのえっち!!」


 えぇ……? おいなんで俺なんだよおかしいだろ……。

 どう考えても今のはエテリナにツッコミを入れる場面じゃない? ねぇ?


「にゃーん? ウチは別にイイんだけどー……それじゃあオジサン、何も言わずにちゃーんとお金だけ受け取ってくれちゃう?」


「む、いやまぁそいつは……」


「それにー? ウチはみんなのためにお金を使いたくてー、オジサンはタダでそれを受け取るのは気が引けてー、それならそれで、ウチもゴホウビををもらっちゃう……これってさ、だーれも損してないと思わない?」


 そ、そうなのか……?

 確かにそう聞くと、そんな気もしてくるが……。


「にゃふふ、だったらわだかまりの無いほうがいいよねー? だってほら、ウチらってばパーティなんだし?」


 うーむ……なんだかだんだんと、そんな気がしてきたような……?

 ひょっとして俺が……俺さえ変な意地を張らなけりゃ、全部解決する問題だったりするのか……? いや、しかし……。


「んにゃふー……じゃあこうしよっか! マッサージまではがまんするからー、ちょっとだけ、オジサンからタッチしてほしいなーって? ……なんなら、指先だけでもいいよ?」


「え……? あーっと、そんだけでいいのか? 随分とその……」


「にゃふふ……! ……いいよ? ウチだってオジサンを困らせたいわけじゃないもん。だから……ね?」


 え、エテリナ……!

 なんだよ、エテリナなりに、色々と考えてくれてたってことか……。

 やっぱり俺が、変な意地を張りすぎてただけなのかもしれんな……。


 そんなことを考えながら、俺はエテリナに指を伸ばす。


「あ、あれ、おっちゃん……? ……あ、だめだこれ! かんぜんに丸め込まれちゃってるヤツだ! なんかそんな交渉術、前に新聞で見たことあるもん!」


「はわわわわ……! え、えと……あ、あれ? でもそういえばエテリナ……」


 残り数センチ。

 もうすぐ――。



「――こ、こないだ、ま、『魔導器具とか買いすぎてお金なくなっちゃったー』とか、い、言ってなかったか……?」



「………………あ」


「今『あっ』て言った! おっちゃんすとーっぷ!! すとーっぷ!!」


「――はっ!!?」


 すんでのところで指を止める。


 あ……あっぶねぇー!!

 いやいやいや、あぶねーじゃねぇよ何考えてんだ俺は!


「あ、……にゃーんざんねーん、もうちょっとでオジサンの方から手を出してもらえちゃったのになー? ……天球儀や望魔鏡とかで、お金使いすぎちゃったってカンジ?」


 あの夢幻の箱庭に並んでた魔導器具の数々のことか。

 おかげで助かったな……。


「はぁ、な、なんだかひやひやした……。……と、というかエテリナ、おっちゃんの弱みにつけいるのが、ひ、日に日に上手くなっていってないか……?」


「まぁおっちゃんのメンタル、地上に出てくるよっわいスライムなみだからねぇ」


「す、スライムなみか……。ふ、ふふ……そ、そう聞くと、わ、わたしとしては悪くないけど……、む、むしろかわいいかも……?」


 おい聞こえてるぞ。

 誰がウィークスライムだ誰が。

 ……まぁおっさん、今はあんまり声を大にして否定はできんけども。


 しかしなんだ、改めて、ちょっとこれはどうしたもんか――。




「――ちょっと! これはどういうことですの!?」


 そんな風に再び首をひねっていると、不意にそんな声が耳に届く。


「入場料が必要なのでしょう!? お金ならばこのとおり、きっちりと持ち合わせておりますわ! ですからそこを通してくださいまし!」


「いやだから、そういう訳にも……」


 なんだ?

 さっきの警備兵の前に二人……アイツらも冒険者か?


 どうやらそのうちの一人……トリア達と同い年ぐらいのその女の子が、さっきの警備兵相手に何かをまくし立てているようだが……。

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