第13話 研究日誌
カシャンという音と共に、床に小さな取っ手が出現する。
どうやらネルネのおかげで、鍵は無事に開いたようだ。
「……思った通り、どうやら隠し部屋だったみたいだな」
取っ手を掴んで引っ張り上げると、下へと続くはしごが現れた。
といっても、それほど高さがあるワケじゃあない。ひと部屋分の床と天井を繋ぐ程度のものだ。
隠し部屋自体もそれほど広いわけでは無く、一組の書き物机と、いくつか資料棚が所狭しと並んでいる。
そしてその資料の中には……。
「……こっちも予想通りだな。こういったモンも残してると思ったぜ」
並んでいた資料から、それっぽいものを選んで開く。
するとそこには、賄賂を含めた金銭なんかの流れなど、それ関係のあれこれが記録されていた。
聞いた話によれば、ケインのヤツは慎重な男だったそうだからな。
んで、お世辞にも『良いヤツ』とは言えないときている。
そんなヤツがまぁ、ただ手放しでそういう相手を信用するワケがないわな。
単純に裏切りに対する対策。そんでもって何かトラブルがあった時、相手から一方的にはしごを外されちまわないように、こうして脅しにもなるような証拠を隠しておいたってとこだろう。
しかし……金持ちが金を持ってるってのはついさっきも痛感したところだが、それにしてもこれだけの額が不正にってのは異常だぞ……?
流通している硬貨や紙幣なんかは、こういったことの対策として複雑な術式が施されている。
通貨自体が『不正な流れ方』を感知して一定時間が経つと、徐々に特殊な塗料が滲みだすって仕掛けらしい。
すぐに使っちまえば足がつきやすい、かと言って貯めこんじまえば、文字通り汚れた金になっちまうってワケだな。
そうなれば、最早使用はできなくなっちまうって寸法だ。
そんなワケでこういう時は、宝石だったり、高価な素材だったりで代用するって話も聞くが……どうにも、この資料によればそういうワケじゃあないみたいだ。
そのあたりがどうにも気になるが……ともあれ、この資料があれば、ケインと繋がっていた衛兵や役人なんかもあぶり出せるかもしれん。
善良な一市民としちゃあ、悪いヤツらはきっちり正してやらんとな。
……いや、それももちろん大事なコトだが、俺たちの目的は――。
「な、なぁおっちゃん、こ、これって……」
そんな中、ネルネが何かを見つけたようで、クイクイと袖を引っ張って来た。
「コイツは……研究日誌か?」
机の上の小さな棚、そこに日付順に並んでいる数冊の手描きの記録帖。
一冊を手に取り、ページをぱらぱらとめくれば、首輪を作る過程なんかの忘備録のようなモノが記されている。
「……なんていうか、アタシが言うのもアレっすけど、あんまりいい気分のしない日記っすねぇ……」
「まぁ物が物だからなぁ。……確か、パニティンサイドでケインのヤツと対峙した時、『協力者が現れたのは三ヶ月ほど前だ』っつってたか。そのあたりの日付はと……お、あったあった、この辺か、どれ……?」
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今日、一人の男が僕をたずねて来た。
怪しい男だ、普段であれば、話も聞かずに追い返すところだが……。
一年ほど前、偶然手に入れた星9の魔石。話によれば、それもこの男が裏で手を回していたのだという。
にわかには信じられないが、あれを見せられては疑う方が難しいだろう。
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「! ……予想通りだな。星9の魔石、あれは例の協力者によって、ケインの手に渡ってたみたいだ」
「でも……こ、ここに書いてあるあれっていうのは、な、なんなんだろ……?」
「そいつはまだ分からんが……ひとまず読み進めてみるか」
後はなにか、協力者をフリゲイトだと決定付けるようなもんてもあればいいんだが……。
そんなことを考えながら、俺は再びページをめくってみる。
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あれから二週間、たびたび顔を見せるあの男の言う通り、この出来そこないの首輪には魔物を従わせる効果があるようだ。
装着してすぐに効果を発揮するというのも、良い誤算と言ってよいだろう。
出来そこないの首輪だったが、こうして恩恵があるというのであれば、量産も視野にいれて良いかもしれん。
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来週あたり、勇者検定の試験会場があるアンリアットへ出向くこととなる。
あの男はそのタイミングに合わせ、『強制的な運命論』を使用して、別荘の地下施設に魔物を集めておいてくれるという。
相変わらずその意図は読めないが、僕の指示に従順に従う魔物となれば、使い道はいくらでもあるだろう。そうだな……邪魔者の排除に使う、なんていうのも良いかもしれない。
あくまでも、その必要があればの話だが。
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……未だに、あの男の目的ははっきりとしない。
こちらから何度それを尋ねてみても、返ってくるのは娯楽という返事だけだ。
そういった意味では、僕の行動には概ね満足しているとのことだが……それも果たして、どこまで本音を吐いているのか。
乗せられているように感じるのはいささか癪ではある。……が、再び星9の魔石を手に入れるためには、この関係を継続していく必要があるのもまた事実か。
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「……再び星9の魔石を手に入れるためには、か」
やはり、ケインの目的はそこにあったってワケだ。
んで『あの男』とやらは、恐らくそれが分かっていてケインに協力していた。
……いいや、むしろ逆か?
となると――。
「なぁメイドさん、この部屋の資料なんだが……」
「あぁ、良いっすよ好きなだけ持っていってもらって。……どうせアタシもそろそろ、辞め時かなって思ってたとこっすし」
「そうかい? そいつは助かるんだが……ホントにいいのか?」
資料の中には、不正の証拠なんかもザクザクだからな。
色々と表沙汰になれば、マクラード家とはいえども、ただでは済まないだろう。
そうなれば、そこで働くメイドさんたちも……。
「あそこに仕えてるのは、金やらなんやらにモノを言わせて集められた優秀な人たちばかりっすからねぇ。もちろん、アタシも含めて。……ま、引く手は数多ってヤツっすよ、むしろ喜ぶ人もいるぐらいじゃないっすか?」
「よ、喜ぶって……?」
「……お給金のために、なんて言ったっすけど、あの人らがいろいろ知ってるアタシらを簡単に開放するはずがないっすからね。……っと、そうっす、イルヴィスさん。お願いがあるんすけど……」
軽くスカートを整えたメイドさんが、少しかしこまった様子でこちらに向き直る。
「確か、首輪事件の被害者の一人はイルヴィスさんのとこにいるんすよね? ……アタシ達は首輪のことは知らなかったとはいえ、あの家のおかしさには気づいてたっす。だから――」
……………………
…………
……
「――と、そんな感じでな。とりあえず、あそこにあった資料なんかは、根こそぎ拝借してきたってワケだ」
「い、今はひとまず、む、夢幻の箱庭に全部保管してある……。あ、あそこ以上に安全な場所は、な、無いだろうしな……」
まぁそういうことだ。
おかげでまーた散らかっちまったが……あのメイドさん、優秀だっつってたし、ウチで働いてくれねぇもんかなぁ。
「にゃふふー、じゃあ今できる情報共有はこんなところかなー?」
「でもハクとクヨウが到着するまでにはもう少し時間あるけど……どうするおっちゃん? それまでボクのこと甘やかす? いいよ、はい!」
「……お前のそういうアレ、ホントどういう思考回路から飛び出してくんのっと……」
「った!? むぅ~……」
ウェルカムとばかりに腕を広げてドやるトリアに、軽くデコピンをかましてやりつつ、俺はベンチから腰を上げる。
例の小説家がよく探索をしていたという目の前のダンジョン。
ハクとクヨウが到着するまで、少しあたってみるとしようかね。




