第12話 調べてみる価値はありそうだ
――バンダルガ。
シルヴァーネ共和国のほぼ中心部、首都からほんの少し離れた場所にあるその街へと、俺達はやってきている。
共和国である俺達の国じゃ貴族政ってのは廃れちまってるんだが、その名残とでも言えば良いのか、この辺りには資産家なんかの金持ちが多いらしい。
ケインの家も、この街にあるみたいだしな。
……しかしエンフォーレリアの時も思ったが、半日近く魔導列車やらなんやらで移動ってのは、さすがに腰に来るねホント。
ネルネに『腰痛に効くスライムなんて作れたりする?』とか聞いてみるかなぁ。
いやしかし、あの感触がなぁ……うーむ……。
「お、おっちゃん……? わ、わたしの顔に、な、なにかついてるか……? え、えと……そ、そんなにじっと見られると、て、て、照れる……」
「っと、あぁすまんすまん、ちょーっと考え事をな」
集合場所に指定しておいた駅前の広場。
目の前につぶれた博物館が見えるベンチに座り、そんな話をしながらトリア達を待つ俺とネルネ。
ケインの言っていた地下室。
それと、謎の失踪を遂げたっつう小説家。
バンダルガで調べることといえば、大きく分けてこの二つだ。
しかし、ハクはあと二週間もしないうちに夏休みが終わっちまうからなぁ。
色々とやることもあるらしく、同じようにクヨウは来客の予定があるとかで、俺達四人は昨日、一足先にバンダルガへと到着していた。
そんなわけで、俺とネルネ、トリアとエテリナの二手に別れ、それぞれで情報を集めていたって寸法だ。
「あ、おっちゃーん!」
……お、どうやらアイツらもやって来たみたいだな。
「クヨウ達は朝には向こうを出発するっつってたが……到着までにはまだ少し時間があるな。その間に、軽く情報の共有でもしておくか」
「にゃふふ、りょーかい! ウチらはとりあえず、色々と話を聞いて回ってみたんだけどー、例の小説家のヒト、『謎の失踪』なんて言われてるのにはそれなりの理由がある見たいだねー?」
「理由?」
「なんかね、失踪する少し前から怪しい人たちが訪ねてきてたんだって!」
「え……!? じゃ、じゃあ、ひょっとしてその人たちに、な、何かされちゃったりとか……!?」
「にゃむーん、ウチもちょっとだけそんなふうに悪い予想をしちゃったんだけどー、その小説家のヒトも冒険者……それも、『最上級上位』の戦闘力を持ってたって話なんだよねー?」
最上級上位……。
ガングリッドやシーレなんかと同じだな。
「そうなると……簡単に、そういう奴らにどうにかされちまったとは思えんか」
いくら街中では御法度とはいえ、身を守るためになら力を使ったりもするだろう。となれば必然、目撃者だって出てくる筈だろうしな。
「それでね、ほら、あそこのつぶれてる博物館、おっちゃんもあそこがダンジョンだって言ってたよね?」
「あぁ、俺もアンリアットで少し調べてみたんだが、どうやらそうらしいな」
「その小説家さんも、あのダンジョンによく行ってたんだってさ! でも最上級なら簡単にやられっちゃったりはしないだろうし、もしそうだとしても、時期的にはとっくに復活してるはずなんだって」
なるほどな。
だが単純に戻ってこないって話なら、アルティラ達の例もある。
目の前のダンジョン……調べてみる価値はありそうだ。
「とりあえずー、ウチらが手に入れためぼしい情報って言ったらこのぐらいかなー?」
「そんで……おっちゃんとネルネの方はどうだったの? なにか分かったりした?」
「あぁ、こっちは――」
……………………
…………
……
「――イルヴィス・スコードさんっすね。どーも、はじめまして」
バンダルガに到着してから一晩。
俺とネルネが事前に指定された場所へ向かうと、けだるそうな雰囲気のメイドさんに声をかけられた。
……彼女がケインの面会者か。
「っと、どーも。……あーっと、ケインのことはその、なんて言っていいか……」
「あぁ、いいっすよ、そんなに気を遣ったりしなくても。別にアタシも、お金のために仕えてるだけっすし」
そんな話をしながら、メイドさんに連れられてやってきた小奇麗な屋敷。
どうやらここも別荘の一つだそうだ。
……金持ちってのは金持ってんなぁ。
と、若干の不平等さを感じつつ、地下室の鍵を開けてくれるのを待つ。
「……しょーじき言って、アタシもあの人らのことは好きになれないんすよね。ま、お給金は良いんでガマンしてるっすけど。……面会だって、別に行く気なんてさらさらなかったんす」
「そ、そうなのか……? じゃ、じゃあ、メイドさんはなんで……?」
「……ご子息が捕まった後、ご家族はずーっと『あんな息子をもった自分たちが、一番可哀想な被害者だ』って顔をしてるんす。そりゃあ、その気持ちが分からないワケじゃないっすよ? けど……」
……自分達が『一番』可哀想、か。
実際に首輪をつけられてたクヨウやアカリたちに対しては……ま、そういうことなんだろうね。
「そういうのを見てて、『ああ、だからあの人はあんな風に育っちゃったのかな』って。そう思ったら……まぁなんとなく、面会ぐらいは、とか思っちゃったわけっす……さ、開いたっすよ」
ガシャンという大きな音とともに、扉の鍵が開く。
「一応、旦那様には内緒で来てるんで、あんまり時間はないんすけど……といっても――」
開いた扉から階段を下り、広い空間に出る。
だが……。
「本当に、何にも無ぇなこりゃ……」
衛兵の手が入っている、なんて話は聞いてたが、まさかここまでとはね。
まぁケインのヤツは、そういった衛兵なんかとの繋がりもあったらしいからな。
そいつらが保身のために、あれこれと先んじて手を回したってことなのかもしれん。
「ど、どうするおっちゃん……? これだけからっぽだと、て、手がかりなんかも……」
「そうだなぁ。……いや、なぁメイドさん? アンタ、口は堅い方かい?」
「口? まぁなんというか……あの人らの家に仕えてて、堅くないって思うっすか?」
「はは、そいつは違いねぇ。そんじゃあ……『戦闘力解放』」
傾向限界突破、最近はコイツにお世話になりっぱなしだね。
さて……。
「――ここだな。この床の下に、どうにも不自然な空間が有るみたいだ」
「ゆ、床の下……? い、入り口なんかは見当たらないけど……」
ネルネの言う通り、めぼしい出入り口の類は見当たらない。
今の俺なら床をぶった切っちまうのは難しくないだろうが……そいつはメイドさんにも迷惑がかかっちまうしな。
そんなことを考えながら辺りを探っていると、近くの換気口の内側に、不自然にあいている小さな穴を発見した。
「コイツは……鍵穴か? それなら多分、どっかに鍵かなんかがあると思うんだが……メイドさん、なんか知ってる?」
「えっと、いえ、お役に立てずに申し訳ないっすが……」
まぁそうだろうな。
さて、どうするか……。
「お、おっちゃん……。そ、それならわたしが、な、何とかできるかもしれない……。ぴ、『ピッキングスライム』……!」
ネルネがそう唱えると、袖から一匹のスライムが飛び出してきた。
こいつは……?
「わ、わたしはみんなみたいに合鍵じゃなくて、す、スライムでおっちゃんの部屋を開けてるだろ……?」
「え? あぁ、そいつは知ってるが……」
「つ、続けていく内にコツなんかもつかめてきて、む、難しくないものなら型をとる必要もなくなったんだ……あ、も、もちろん悪いことには使ってないぞ……? た、ただダンジョンで、や、役に立つときが来るかもしれないと思って……」
そいつはまたなんというか……。
あれ? おっさんもうプライバシーとかないんじゃないのコレ?
「みんな……、合鍵……、男の人の部屋……。……あぁなるほど、『口が堅いかどうか』ってそういう……」
おっとー?
こっちはこっちでまたあらぬ誤解を生んでいるよ?
「いやまてまて、これはそういうアレとかじゃなくてだな……」
「はは、大丈夫っすよ。ロクでもない男の人なんてもう見慣れてる……じゃなくて、じょーだんっす、じょーだんっすから」
……じゃあ流れるように若干の距離をとったのはなんでなのかな?
おっさん地味に傷ついてるよ? 泣くぞ?




