第11話 やっと来たみたいやで?
トリア達やらシーレ達、果てには憲兵やらなんやらと、今までも何かといろんなヤツらがおっさんの部屋に来たり来なかったりしていたワケだが。
とうとう、この国の冒険者ギルドのトップまでやって来たか……。
……なんつーかこう、来るとこまで来たって感じだな。
対面のソファに腰掛ける統括様を眺めながら、そんなことを考える。
そのうち人どころか魔物や魔王なんかもひょっこり顔出しにくるんじゃないの?
そうなったらもう、おっさんの胃には穴どころか蜂の巣も視野にって話よ?
牛さんかな?
「にゃふふふ~? あれあれフーねぇ、なんだかいつもと様子が違いますなー?」
「な!? 何を言うてますのんや、おほほほほ……」
「ほれエテリナ、意地悪するんじゃないっての。あーっと、そんでですね……」
「敬語でなくても結構ですよ。確かに私は、冒険者ギルドにおいては統括という立場を任されていますが、その立場がそのまま冒険者の方々にも適用される、という訳ではありませんので」
「っと、しかしそういうワケにも……いや、そうか。そんじゃあお言葉に甘えて、メイズ、だったよな? 『いずれこうなっていくと思っていた』っつってたが……あれはいったいどういう意味だ?」
「ご想像の通りです。――『不落の難題』、私はそれらが、ただのおとぎ話では無いことを知っています」
「……!」
「さらに言えば……いずれこうして解き明かされていくことを危惧していました。消えてしまった『大陸の楔』の一本、そして……貴方がたの持つ、『夢幻の箱庭』のように」
眼鏡のふちに指を当てながら、淡々とした様子で答えるメイズ。
「……『夢幻の箱庭』、ね。俺達はよ、あの場所がそうだと断定する材料を持ち合わせて無かったんだが……どうにも、アンタは色々と知ってるみたいだな?」
例の紋様を見せずに、あえて曖昧な質問をぶつけてみる。
「……そうですね。その腕の紋様のことも含め、少なくとも貴方たちよりは情報を持っている、とでもいったところでしょうか」
『少なくとも』、か。
負けず劣らずに曖昧な答えだが、これは――。
「えっと、じゃあさじゃあさ! メイズさんはひょっとして、おっちゃんのコレについていろいろ教えに来てくれたってコト?」
「いえ、そうではありません。そのあたりについては、むしろ逆といっても良いでしょう」
「逆?」
「……私がそれを、この場で『夢幻の箱庭』だと断定したのは、いずれ貴方達ならその答えにたどり着くであろうと確信していたからすぎません。ですが……」
「……それ以上の情報を提供してくれるつもりは無いってことか」
「察しが良くて助かります」
だと思ったよ。
そうでなけりゃこの状況、まず最初に説明すべきことがある筈だからな。
「ならばメイズ殿はなぜここへ? よもやそれらの不落の難題について、『世間話を』という訳でもあるまいに」
そんな中で、クヨウが本題を切り出し始める。
おっさんとしちゃ、悪い話じゃあ無いことを祈りたいとこだが――。
「そうですね……まずはイルヴィスさん。当ギルドは貴方に『勇者』の称号を与えても良いと考えています」
「……………………は?」
――一瞬、思考が停止する。
いやいやまてまて、勇者だと?
「――うえぇぇえぇえ!!? おっちゃん、おっちゃん!! ゆーしゃ!! ゆーしゃだって!!」
「ええい、落ち着けっての」
お前が一番驚いてたら、当の本人であるおっさん驚きにくいだろうが。
逆に冷静になっちまうわ。
「条件は一つ。貴方が冒険者ギルドの『管理下』に入ることです」
「……管理下、ね」
「はい。……『夢幻の箱庭』、そして『スーパー大器晩成』。貴方の持つそれらはどちらも強大な『力』を有しています。それこそ使い方を誤れば、世界のバランスを崩してしまいかねないほどに」
確かに、制限のあるスーパー大器晩成はともかくとして、夢幻の箱庭は『あ、これヤベェな』ってぐらいの認識はあるが……。
「貴方もそれがわかっているからこそ、その力を公にはしなかったのでしょう? ……世界の秩序を、保つために」
「え? ………………そりゃあ、もちろんそうだとも、うん。秩序っつーのはほら、大事だからな、その……ものすごく」
決して、またあらぬ疑いをかけられたりしないように、なんて、そんな小さなことを気にしていたわけじゃあ無いぜ?
……だからトリア?
そんな『おっちゃん嘘ついてるー』みたいな目を俺に向けてくるんじゃないよ。
「――大きな力は適切に運用することが必要不可欠……私ならば、いいえ、私達のギルドならば、それが可能です」
その為に、『勇者』としてギルドの管理下に入れってことか。
言っていることは、まぁ分からんではないが……。
「ちなみに、仮にそいつを断ったりしたら……どうにかされちまうのかね?」
「……いいえ、もちろん強制はできません。また『管理下』とはいっても、今までと同じように活動をしていただいて結構です。有事の際には、こちらの指示を優先していただくことにはなりますが」
「有事の際、ね。……なるほどな、話は分かった。しかし……」
「分かっています。こちらとしても、今すぐこの場でお返事をとは言いませんので。……近いうちに、また顔を出させていただきます。それまでに、どうかお返事を――」
「……ぶはー!! あー、息どころか、息の根ぇまでつまってまうかと思ったわ」
「んな大げさな……」
「むぅ、アンタはギルドの人間やないからそないなコト言えるんや! ウチからしたらやなぁ……!」
「わかったって、悪かったっての、ほらよーしよし……」
むくれるフーの頭を軽く撫でてやる。
「で、でも、フーさんの言うこともちょっとわかる……。め、メイズさん、わたし達とあんまり変わらない歳なのに、す、すごくしっかりしてたしな……」
「あ、ハクもわかります! えと、ちょっとだけハクも、なんだか落ち着かなかったっていうか、そわそわしたっていうか……」
まぁ確かに、威圧感っつーとアレになっちまうが、こう……空気が引き締まるような、そんな雰囲気をもってたな。
伊達に大本部の統括を任されちゃいないってワケか。
「でもさぁおっちゃん。『勇者』の称号、くれるって言うなら貰っとけばよかったのに……。そしたらおっちゃんの評価も一遍してー、ボクもいい思いができたかもしれないのにさー」
「……お前なぁ、のっかってくる気をもう少し隠せっつの。そもそもまず先に、疑問に思うことがあるだろうが」
「疑問?」
「にゃふふ! たとえばー、ウチらがオジサンのソレを手に入れたこと、なんであの人は知ってたのかなー、とかね?」
「あ! そういえば……」
エテリナの言う通り、俺があえて曖昧に質問をしたのもそのためだ。
もしかしたら、カマをかけてきてる可能性もあったからな。
結果として、知らないフリなんかをするよりは正解だっただろう。
『意図的に隠している』とか思われちまうってのは、こっちとしても旨みはないからな。
「で、でもほんとに、なんでメイズさんはそのあたりのことを、し、知ってたのかな……?」
「そもそもの話、上の連中は誇張でも何でもなく、『不落の難題』ーなんてもんはおとぎ話やと思っとるはずや。……それは、ギルドに所属しとるウチが一番良く分かっとる」
「となると……直接この部屋をたずねて来たことと合わせ、今回の件は彼女の独断による行動とも考えられるという訳だな」
「えと、じゃあおじさまのことを知ってるのは、メイズさんだけってことですか?」
まぁそうなるか。
あくまでも、可能性の話だが。
「でもさ、メイズさんってこの国の冒険者ギルドじゃ一番偉い人なんでしょ? 『不落の難題はホントにあるよ!』って言っちゃわないのはなんでなんだろ?」
「にゃーん、『開示禁止』の件といい、まだまだお尋ねしたいこと尽きませぬなー?」
とはいえ恐らく、あの場でそのあたり話を切り出したところでまともに答えちゃくれなかっただろう。
いや、仮にそうでなくても――。
「ひとまずあれだ、どう返事をするにしても、もっと情報を集めねぇと……」
「まぁそれが賢明やろな。……っと、そうやイルヴィス。ここに来たついでっちゅーワケやあらへんけど、アンタに伝えとくことがあったんやったわ」
「伝えとくこと?」
「一昨日な、やっと来たみたいやで? ――ケイン・マクラードの面会者がな」




