第7話 ぱんつの攻防
「――指名クエスト?」
「う、うん……。お、おっちゃんたちに依頼したいことがあって……」
突如現れたダウナー少女。
どうやらそのネルネとやらは俺たちを指名して、何やらクエストを引き受けてほしい様子なんだが……。
「つってもなぁ、俺はもう冒険者は引退を考えてて……」
「え……? で、でもこれ……」
ん、なんだこれ? 手描きの……クエスト受付書?
俺の名前と……。
「……おいトリア? なんかお前の名前も書いてあるんだが?」
「おお! やったねおっちゃん! ボク達パーティの初クエストだよ!」
やっぱりお前の仕業かい!
「あーネルネっつったか? すまんな、これは……」
「――あ、あの、な、何とかお願いしたいんだ……! も、もちろんわたしもその……ちゃ、ちゃんとぱ、ぱ、ぱんつを見せる心の準備は出来てるから……! だから、こ、この通り……!」
ネルネがぺこりと頭を下げる。
「いやしかしだな…………ん? おいちょっと待て? なんだそのちゃんとパンツを見せるってのは……」
その言い方だと、まるで俺がパンツを見せろと要求してるみたいなんだが?
そんな話は一切身に覚えがないんだが?
「お、おっちゃんの部屋ってここから東の、あ、あの赤い屋根のトコの二階だろ……? そこの子……と、トリアっていったけ……? その子ぱんつを見せるって言ったら、へ、部屋に入れてもらえてたのを見てたから……」
よりにもよって最悪のタイミングかよ!?
そんでやっぱりコイツが原因か!!
「いやアレはちげーよ!? トリア! お前からもちゃんと説明しろ!!」
「そうだよ! ちゃんとおへそも触らしたげるって言ったもん!」
「トリアアァァアァアァッ!!!!」
コイツにふった俺がバカだったぁ!!
「イルヴィス……。君だけはそんなことをしない男だと思ってたんだけどね……」
やめろウリメイラ!
その冷たい視線を俺にぶつけてくるんじゃない!
……つかお前は分かってて言ってるだろ!?
完全に面白がってやがる、コイツはそういうヤツなんだくそう。
「あ、あの、流石にここではその、は、恥ずかしぃから……で、できれば別の場所でお願いしたいんだけど……」
「そうだよおっちゃん! こんなとこでぱんつ見せろだなんて……このえっち! けだもの!」
「いや俺なんも言ってないからね!?」
ホントマジで勘弁してくれって……。
……
…………
……………………
「――へ、へぇ……! じゃ、じゃあトリアは勇者を目指してるのか……。すごいな、そ、尊敬する……」
「ふふん! まぁね?」
結局その後、俺はネルネと……あとまぁついでにトリアもつれて自分の部屋へと帰ってきていた。
あの場でごちゃごちゃ言ってても話が終わらなさそうだったからな……。
「ネルネ、あんまソイツを持ち上げん方がいいぞ? ……おいトリア、お前なんで勇者目指してるんだっけか?」
「え? だって勇者になれば、みんながボクを尊敬して、ちやほやして、甘やかしてくれるでしょ?」
「え……」
「それにこんなに可愛くて強いボクが勇者になったらみんなも喜ぶだろうし……まさに『うぃんうぃん』ってやつだよね!」
「……な? コイツはこういうヤツだ」
「な、なるほど……。あ、そうだこれ……て、手ぶらで来るのもなんだったから、お土産に……」
「お、いいのか、悪いなぁ。せっかくだ、開けさせてもらってみんなで食おう。ちょっと取り分けて来るわ」
そう言い残してキッチンへと向かう。
流石にもらった本人の前でガサガサ開けるってのもアレだしな。
「ねぇ、ネルネも冒険者なんだよね?」
「う、うん……わ、わたしはもっぱらサポート専門だけどな……。でも、あ、ある程度の回復や強化系のスキルなんかなら、ひ、一通りは……」
「え、すごい! ね? ボクこの前、頭ぶつけちゃってさぁ、たんこぶできてるんだけど……」
「そ、それくらいなら……」
「やたー!」
……あいつは遠慮ってモンを知らんのかまったく。
聞こえてくるやりとりにそんなことを思いながら、ネルネにもらった箱を開封すると――。
――そこには色とりどりのスライムがぎっしりと詰まっていた。
……ひとまずぱたん、とフタを閉じる。
んん……? あれ俺疲れてるのか……? なんか変なもんが見えたような……?
「――おっちゃん……」
「……トリア? どうし……おわああぁぁああぁ!?」
なんでコイツ頭からスライムみたいなの被ってんの!?
「おっちゃん……。とってぇ……これとってぇ……」
「おま!? これ、え!?」
「ぞわぞわする、ぞわぞわするよぅ……。たすけて……たしゅけてぇ……」
助けてって言われても……。
いやホントこれどういう状況!?
「だ、大丈夫だおっちゃん、も、問題ない……」
「ネルネ!? いやそうは言うが……」
どう見ても問題あるだろこれは……。
絵面的にも、相当キてるビジュアルだぞ……。
「こ、これはわたしが作った『回復スライム』……。ち、治療に即効性は無いけど、や、役目を終えれば自然に消滅する……」
そう説明しながら冒険者カードを取り出すネルネ。
「わ、わたしの恩恵は『夢中工房』……。じ、自分が好きなものの精製スキルを底上げしてくれるんだ……」
「好きなもの……? あーつまりその……なんだ、お前はスライムが好きで、このスライムもお前のスキルでってことか……?」
「う、うん……。正確にはスライムもどきだけどな……。わ、わたしのスキルは基本、それを介してしか発動しないんだ……」
なんてはた迷惑な……。
「じゃああの箱の中身は……」
「あ、あれはちゃんとお店で買った『銘菓スライムまんじゅう』だ……。あ、味は笑っちゃうぐらいマズいけど、か、体には何一つ影響は無い……。え、栄養もないけど……」
「じゃあソレもうただの苦行か嫌がらせだろ!?」
なんでうちに来る奴は、こう尖ったヤツばっかりなんだよ!
「たしゅけて……たしゅけてぇぇぇ……」
……………………
…………
……
「お、おっちゃんはエルダースライムって知ってるか……?」
「エルダースライム? そりゃまぁ知ってはいるが……」
トリアの頭にへばりついていたスライムが消滅した後、俺達は改めてネルネの話に耳を傾ける。
エルダースライム、有名な魔物だな。
「そ、それが今『ビジレスハイヴ』の三十二階層に現れたらしいんだ……」
「『ビジレスハイヴ』に? あそこにスライムが出るなんて聞いたことねぇぞ? つーかそもそも……」
「う、うん……え、エルダースライムはランクS……。『ビジレスハイヴ』みたいな中級ダンジョンじゃ、さ、三十二階層で現れるような魔物じゃない……」
だよなぁ。
「普通はランクSの魔物なんて、それこそ最上級クラスの冒険者がいけるとこじゃないと出てこないよねぇ?」
「そ、そうなんだ、だからこんなチャンスはめったにない……。た、倒そうっていうワケじゃないんだ……! ただその、ひ、一目見れるだけで……それで……」
なるほどな、それが俺達に頼みたいクエストってワケだ。
どうやらコイツのスライム好きは筋金入りのようだが……。
「……すまんなネルネ、どうにもそのエスコートは引き受けてやれそうにない」
「え!? おっちゃんなんで!? いいじゃん引き受けてあげれば!」
「お前にゃさんざん言ってるだろうが。……俺はもう冒険者は引退する、そんな半端な状態で無責任に危険なクエストを引き受けたりはできねぇよ」
ランクSの魔物が関わってくるとなれば尚更だ。
二つ返事で安請け合いをするわけにはいかん。
「あ……。…………そ、そうか……。わ、わかった……」
よかった、分かってくれたか。
まぁ心苦しさが無いと言や嘘にはなるが……。
「やっぱり、ぱ、ぱ、ぱんつを見せなきゃダメなんだな……!?」
「……………………は?」
言うや否や、ネルネはおもむろに立ち上がると、スカートの裾をゆっくりとたくし上げ始める。
「いやいやいや! なにやってんの!?」
思わずネルネの両手をがしっとつかんで制止する。
「だ、だってもう、もうこれしかないんだぁ……! き、『気持ち悪い』ってパーティから追い出されて……わ、わたしの力じゃ一人で三十二階層になんて……」
「いや、だからって……」
「く、クラスの高い冒険者にお願いするだけのお金もないし……さ、酒場でお願いした人には『ぐへへ、身体で払うか?』なんてこと言われるし……」
いやあいつら同じことしか言えんのか!?
ホントどうしようもないな!!
「か、身体で、その、ごにょごにょは怖いけど……せ、せめてぱんつなら……ぱんつぐらいなら……!」
「いや、それもたいがいおかしいからな!? トリア! お前もなんとか……」
その瞬間、背中に何かが乗っかるような衝撃と共に、何者かの手によって、首の向きと瞼が固定される。
……え、なにこれ?
「さぁおっちゃん!! 女の子の覚悟を無駄にしちゃだめだよ!!」
「お前、後で覚えとけよ!?」
コイツはホントにロクなことをしねぇなぁくそう!!
「だ、大丈夫……。わ、わたしはトリアみたいに可愛くないかもしれないけど、ふ、不快にならないように、ちゃんと新しいのを履いてきたから……」
「そう言う問題じゃねぇよ! いやそもそも俺コイツのパンツも見たことなんてねぇからな!!」
「え……!? そ、そうなのか……!?」
『あれ?』みたいな表情で、ネルネがトリアの方に視線を向ける。
よし、何とかこの方向で……!
「うん、実はそうなんだよねー? でも……」
……ん?
「おっちゃんこう見えて面倒見がいいし、ぱんつ見せたらきっと責任を感じて手伝ってくれるよ! だから頑張って!」
いやコイツ悪魔かよ!?
――ぐお!? 急に飛び乗られたせいで、やばい腰が……!
力が入らん……! このままだと……!
「あ、あ、み、見えちゃう、だめ、でも、見せないと、でも、でも……」
いやもう、顔も真っ赤で目の焦点もあってねぇじゃねぇか!?
どんだけアレなんだよ!?
「あ、あ、あ、もう……、もう――――!」
「……わかった!! 手伝う!! 手伝ってやるから!!」
俺がそう叫んだ瞬間、ふっと力が抜け、ネルネがぺたんと座り込む。
危なかった、もう少しで……。
「うんうんよかったねぇネルネ! こうしてぱんつの攻防は幕を閉じたのであった!」
「……お前ホント覚悟しとけよ。ダンジョン行ったらこき使ってやるからな」
「え!? ボクも行くの!? ボクがついていったら楽できないじゃん!?」
コイツ、全部俺におしつけるつもりだったのかよ……。
いいだろう。それならこっちにも考えがある。
「……別に嫌ならついてこなくていいぞ」
「え! ホント!?」
「ただし……これからお前に作ってやる料理には、すべてピーマンが入ることになるがな」
「やだーーーーー!!!!!!」
俺の言葉に即座に反応を見せるトリア。
「せ、せめて前みたいに……前みたいにおいしく料理してくれるんだよね……?」
「……いいや、輪切りだね。輪切りにしてそのまま突っ込むね」
「わーん! やだよぉ!! 輪切りやだぁ!!」
「わかったから! ボクも行くからぁ! だからおいしいの作ってよぉ!」
「あ、ありがとうおっちゃん……。このお礼はきっと、な、何かスライム的なもので……」
両腕に縋りつく二人の少女。
これがもう少し大人の、綺麗なオネーチャンだったらなぁホント、なんでこんなことになってんだか……。
……いや、スライム的なものってなんなん?
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