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Tanka! The Battle of Short Song!   作者: 《み》
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<第七句> 《Put up with. Don’t forget to put up with. If so, you’ll have the peace of true heart.》

あなたは短歌で、人を救うことができると思いますか?

第七句 《Put up with. Don’t forget to put up with. If so, you’ll have the peace of true heart.》



「凛。」

「は、はい。」

「……聖兄のところ、行ってやれ。」

「透……。」

「俺はもう、聖兄に顔向けできない。」

「透!?」

「本当は引退のこと、聖兄には黙っておくつもりだった。でもこれじゃ、黙るどころか、打ち明けたら聖兄に申し訳が立たない……。でも、俺は短歌に……E-スポの短歌に世界を救えるほどの力があるとは思えない。」

「……」

「短歌で癌が救えるなんて、そんなの、ありえるか?」

「そういうのとは違うと思います。」

「凛……俺は」

「短歌は、メッセージです。手術道具とは役割が違います。」

「凛……」

「確かに手術道具で命は救えます。でもそれは、万人の心の薬にはなりません。心を切開して、縫合して、心の腫瘍を取り除くのは、それこそ言葉であり、短歌じゃないですか?」

「…………」

「確かに、今の時代の短歌は、戦争時代の人々の身体的な傷も心の傷も癒えぬままに、ただ娯楽の方に向かって詠まれている傾向が強いです。だから王と玉の短歌は理解されない。時代が、もうその方向に行きたくないと言ってるんです。」

「じゃあ、なんで今さら戦争なんだ。なんで戦争ゲームのE-スポに短歌なんだ!!」

「透、それは透自身が分かってるはずです。」

「……俺自身が?」

「透はなんで、短歌してるんですか?」

「……きっかけは、その、凛だ。」

「わ、私!?」

「せ、正確には幼いころ、凛と一緒に遊んでた時だ。凛、短歌好きだったろ?」

「は、はい。」

「凛の短歌、キレイで、素直で、ちょっと純粋すぎてストレートなところもあったけど、真っすぐだった。今の凜も、あの頃とほとんど変わらない。変わったとすれば……」

「変わったとすれば?」

「大人になった」

「?!」

「あ、いや、その、ひねくれたとか、そういうのじゃなくて、大人としての純粋な凜を見ることが、できるようになった。」

「透……。」

「凛の短歌ってさ、幼いころのはグサッと心に刺さる歌だったんだ。でも今は、弓矢で的の真ん中を得た時の、あの感覚。あれに近い。」

「……透の場合は、的の周囲をギリギリ射抜く感覚に似てます。」

「へ?」

「危なっかしくて、真面目過ぎて、ときどき不安になるんです。独りで、何か抱えてないかって。私には話せない、独りだけの何かがあるんじゃないかって。」

「そ、それは人間だれしも」

「そういうのはあります。ですが、話さなかったら……聖は死んでました。何も気づけず、何もできないまま、ある日突然。」

「……凛、俺は」

「言わなきゃ、ダメなこともあるんですよ?」

「……」

「永萌の歌。あれは、言わなきゃわからないことを言い尽くした。その後の結果とも受け取れますが、言われなくても分かるだなんて、そんなの、言葉にできない力なんて、そんなの、分かるわけ、ないじゃない……。」

「凛……」

「聖、言ってましたよ。」


「進藤透、か。あいつなら。」

「兄さん?」

「あいつとなら、できるかもしれないな。」

「……」

「凛、その、俺が先立つ頃にはさ、たぶんあいつと凛は結ばれてるよ。」

「!?!?!」

「俺には分かる。あいつ、お前の兄さんだ。」

「!!>!>>!>」

「凛、ひょっとしてお前、気づいて」

「ました。」

「……」

「そりゃあ、妹ですから、気づいてましたよ。でもなんで今更そんな」

「できれば、俺の意志、あいつと一緒に継いでくれはしないか。」

「……」

「俺のためと思ってさ。だめか?」

「……その聞き方、卑怯です。」

「卑怯、か。もうじき死ぬ人間には分からん言葉だ。」

「私、E-スポの理念が理解できません。競技として争って、そこでなんになるんですか。ただワーワーキャーキャー、叫んで楽しむ娯楽じゃないですか。」

「それは違うな」

「どこがですか!あんなの、野蛮じゃないですか!」

「エンターテイメントってのは、ただの娯楽じゃない。命張ってる、闘いだ。野蛮なんかじゃない。そりゃあ観客からしたら娯楽かもしれない。でもな、分かるやつには、分かってくれるもんなのさ。」

「でも、そんなの、少数じゃないですか……」

「それでいいんだ。そういう人々が、世界を支えてるんだからな。」

「兄さん……。」

「戦争はな、彼らにとっては思い出なのさ。忘れられない、憑りつかれた亡霊だ。」

「亡霊?」

「そいつらを、短歌は責任もって成仏させなきゃならん」

「それが、E-スポの理念、ですか?」

「きっと、彼らがいなかったら、こんな短歌ブームはなかった。そういう意味でも、彼らに感謝なのさ。俺がもうじきいなくなるのも、きっと何か意味があるのさ。」

「そんなの、そんなのないですよ……そんな意味……見出したくないです。」

「まあ、そういうのは、大人になればわかるってやつさ。」

「もう、兄さんは大人なんですか?」

「それは、聞かれると困る質問だが、そろそろ大人になる頃合い、かもな。潮時でもある。」

「……すみません。」

「気にするな。運命はいつも、そういう感じで申し訳なさそうにしてるものなのさ。俺は確かに無力だった。あの人に比べれば。でも、世界は俺に、いったい何をしてくれたっていうんだろうな……。」

「………」

「……すまんな、悲しい想いさせちゃって。」

「《Put up with. Don’t forget to put up with. If so, you’ll have the peace of true heart.》」

「……凛。」

「あの人の、言葉でしたよね?」

「《忍ぶこと 忍ぶことさえ忘れねば ありのままの 平和得られん》」

「……はい。」

「やれやれ、今の俺にはきついな。運命をしのぶほど、もう時間なんて」

「あります。」

「凛……」

「運命は、忍ぶ人に微笑む。そうでしたよね?」

「……そうだったな。………………ありがとう、凜。」


「運命、か。」

「あの人はもう戦争でいないとされている。噂だと心だけは《Tanka! Macina!》にあるらしいとされている。聖も、もしかしたらAIで生きられるかもしれない、と。」

「でも、現代のAI技術では、能力をアップロードするのがせいぜい。」

「聖の短歌を詠む力、それはたぶんアップロードできます。ですが、聖自身が詠む短歌は、もう、二度と、できないでしょう。」

「…………」

「それが生きる者の定めだと、聖は言いました。」

「なるほどな、聖らしい。」

「あ、ほら、透。もう朝ですよ。」

「ああ。」

「……」

「萌も、聖兄のこと」

「知ってると思います。」

「…………つらいだろうな」

「永萌のことですから。きっと透と同じで抱えちゃうと思います。」

「そだな。でも、凛、それ言うなら。」

「はい。私達、独りで、生きてきましたから。」

「……りん、凛も本当に今まで、」

「大丈夫ですよ。聖がいましたから。」

「でもそれまでは」

「ううん。大丈夫でした。だって、おにいちゃん……いたから。」

「……」

「この胸の奥に、あなたがいるんですよ、透。」

「え、ちょ、凛、手、俺の手そこに……。」

「このみぞおちのあたり、交感神経と副交感神経が眠ってる、ここに、おにいちゃんがいるから。」

「ああ、そういえば……」

「はい、胸の傷跡、覚えてますか?」

「ああ。俺にもある。」

「かつて、自律神経が異常をきたす病が流行ってました。」

「そして、俺の神経の一部を移植した。」

「その時の、思い出の傷です。」

「……」

「どうか、しましたか?」

「聖兄、いつ倒れてもおかしくないんだよな。」

「……はい。」

「だったら、行こう。今すぐに。」

「……そのセリフ、待ってましたよ。」

「そ、その前にさ。」

「?」

「む、胸の傷、ちょっとだけ見せてくれないか?」

「!??!?」

「あ、いや、べ、別にそんなやましいことじゃなくてだな。」

「むー……」


ふぁさっ


「……ありがとう。」

「お礼を言われるのは、困ります。こっちがお礼を言わなければならないんですから。」

「へ?」

「ずっと言えませんでした。」

「な、なにを、また何か」

「救ってくれて、ありがとう……おにいちゃん。」

「!…………」

「てへっ」

「……い、意外と傷跡小さくて、正直ほっとした。」

「もう、照れ隠しー。」

「そうか、ナノ手術、本当にうまく行ったんだな。」

「むしろ透の方こそ、神経切り取るのに傷大きいじゃないですか。こんなに、大きかったんですか……。」

「ま、まあな。で、でも今はピンピンしてる。今はその、苦しさでいっぱいだ。」

「透……。」

「まったく、困ったな。ここ最近、本当に胸が苦しいことばっかりだ……本当に、ほんと……


キュ


「ひゃ!?」

「凛。愛してる。」

「へ?ちょっと、今から聖のところ、会いに行くって」

「………」

「あ………」

「…………………」

「………わ、私も、ですよ。透。」


 キュッ


「透の羽のような包み方、優しく誠実な抱きしめ方。透にしかできない、そんな抱き方が、私は大好きです。」

「やっぱ照れるなそれ。」

「透だってこんな感じで私を何度も照れ屋さんにさせてきましたから、たまには仕返しもありかと。」

「……いい笑顔だ。」

「もう! それです!」

「なはははははー!」


「透。」

「うん?」

「行こ?」

「あ、ああ……。」

「どうしたんですか、まだ浮かない顔してますよ?」

「……行くぞ!」

「はいっ!」


(「聖は子供が望めない。そして結局は、俺も同じか……。」)


いかがでしたでしょうか。聖、すまない。君には犠牲のピエロになってもらう。そんな感じです。

では、次へどうぞ。

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