<第六句> 《好きな人 すてきなすてきな恋桜 また逢いに来るから また逢い戻るから》
ついに4人の関係が明らかになる。4人の決意とその先はいかに。
第六句 《好きな人 すてきなすてきな恋桜 また逢いに来るから また逢い戻るから》
透の夢の中
(「兄さん、」)
(「だ、誰・・・萌? いや、違う、君は……誰だ?」)
(「兄さん、寂しくなるけど、またいつかきっと逢えるから。逢えるから! だからこれ・・・(忘れないで)」)
ガバッ!
「……また君か。忘れようと、してたのに。……ってあれ、凛、やけに早いな。トイレかな。」
凜の部屋 電話中
「凛、そろそろ本当のこと、言った方がいいんじゃないか?」
「兄さん……」
「その言葉も、本当は俺にはふさわしくない。」
「……」
「偽り続けるのは、苦しいだけだぞ?」
「兄さんこそ。その、言わなくてもいいんですか?」
「……」
「兄さん……。」
「……そうだな、そろそろ潮時かもな。」
「あ、透。……起きてたんですね。」
「ああ。ちょっと……夢、見ててな。まだ4時だから寝ないと」
ギュッ
「お、お、凛、どうした」
「………させてください」
「えっ」
「甘え、させてください…………今だけで……いい、(ですから)」
「り、凛?」
ギュゥゥ
「凛……」
「………」
「なんか……あったんだな。」
「透……ごめんなさい。私……私……」
「?……よく分かんないけど、今だけじゃなく、いつでも甘えていいんだぞ。俺たち、家族だろ?」
「!?……」
「だから、こんな時間に泣くな。」
(「そ、それがいけないんです。その優しさが……それが。だって私達……」)
「俺も凛に謝らんといかんことがある。」
「……透が?」
「それ聞いてから、凜の謝らなきゃならないこと、聞いていいか?」
「……はい。」
「聖兄ぃ。」
「うぉ! 永萌、お、起きてたのか。」
「誰と内通してたのかなー?」
「凛と。」
「案外素直ですねー。こんな怪しい時間に凛姉と?」
「ああ。」
「……聖兄、ごめん、ちょっと言い過ぎた。」
ぎゅっ
「!!?!??」
「永萌、俺はお前に言わんきゃならんことがある。」
「……??」
「たぶん、残酷な、永萌には許してもらえそうもない、それぐらい、ひどい話だ。」
「聖兄、何言ってるの? アタシ何がなんだか」
「癌なんだ」
「…………………」
「心臓癌だ。もう治る見込みがない。」
「どっちが。」
「え」
「ドッチガ。」
「あ、ああ。ええと、あ、そうか、凛の可能性もあったのか、俺だ俺。俺が……心臓に癌を患ってる。」
「…………いつから?」
「だいぶ昔だ。永萌や透と知り合う前、幼年辺りから、そういう腫瘍があったらしい。」
「そんな早くから……」
「場所が悪かった。取り除けば、確実に寿命は落ちる。しかも、取り除かなかった場合よりも。」
「…………」
「唯一の方法は、人工心臓で全部入れ替えることだった。」
「だった?」
「どういうわけか、この癌は転移しなかったんだ。それが、最近になって転移し始めた。まるで、移植手術のタイミングが分かってたかのように。」
「………どういうこと?」
「俺はE-スポの短歌で賞金手にして、人工心臓手術を受けるつもりだった。だが、今はもう、全身が癌の巣窟だ。」
「そんな……そんな……」
「永萌、いつか就職してって言ってしまったが、嘘じゃなかったんだ。だけど、嘘になってしまった。……すまない。」
「……いつまで、生きられるの。」
「余命はもう、数週間もない。」
「!!!」
「もう一つ、永萌に残酷なことを言う。凜のことだが」
「凛にも、何かあるの?」
「実はな、凜は俺の妹じゃない。」
「え!?」
「俺が中学の頃、凛と同級生だった。両親のいない凛、俺もある意味で両親がいないようなもんだが、境遇は似ていて、ある時そういうのを話し始めてからそのうち付き合うようになった。」
「凛姉と、聖兄、付き合ってたの!?」
「まあな。それで、告白もされた。本当は俺の告白を待ってたらしいんだが、待ちきれなかったらしいんだ。それで、理由を聞かれて、癌のことを話した。」
「……凛姉はどう思ったの?」
「凛は大泣きした。涙枯れるまで、枯れきるまで。俺は待ったよ。自分の運命と、凜を泣かせた罪を呪った。こんなんなら関わるんじゃなかったってな。」
「聖兄……。」
「あの時、凜とは別れると思ってた。でも、別れようとはしなかった。」
「聖。私はあなたが命潰えるまで、あなたのそばにいます。」
「凛」
「私には、もう聖しかいない。だけど、運命がそういうのなら、私はその運命に抗います。」
「凛……」
「実は聖。私も言わなきゃいけないことがありあます。私があなたと付き合うきっかけになったのは、私の初恋の、あの人に似てたからです。」
「あ、あの人?」
「名前は進藤透。私の兄です……」
「兄!>」
「凛姉の、実の兄が……ニイニ!?」
「……」
「しかも初恋!?」
「……」
「俺と透は似てるらしい。」
「……見た目は似てないけど、中身というか、心というか、真面目度はニイニの方がはるかに上だけど、」
「はるかって、おいおい」
「でも確かに似てる。現に短歌の王と玉だし。」
「それ、関係ある?」
「大いに。」
「……ま、まあとにかく、そういうのがあってだな」
「ごめんなさい。こんなこと言うつもりなかった。なかったけど、そんな話するから……。」
「い、いや、いいんだ。わりぃのは俺の方だ。凜じゃない。」
「兄さん。」
「??」
「これからは、兄さんって、呼んでいいですか?」
「聖、死ぬか死なないか、どっちかはほとんど決まってます。だけど、関係は、私達の関係は変えられる。身勝手だと言われてもいい。私はあの人の、あの人のことを忘れられるなら、どれだけ幸せか。なのに聖、どうしてあなたがあの人に似てて、しかもこのような運命を突きつけるのですか!!!」
「り、凛……」
「《好きな人 すてきなすてきな恋桜 また逢いに来るから また逢い戻るから》」
「それが、聖兄に贈った短歌と同時に、別れの時にニイニに贈った短歌。」
「そう。」
「それで、返事はどうしたの?」
「返歌はしなかった。だけど、」
「お願いします。せめてもの間、兄さんって呼ばせてください!!!」
「……一ついいか。」
「は、はい。」
「俺のことが好きになったのは、その人に似てたから、だけか?」
「!?」
「本当に、それだけ、か?」
「……」
「あ、いや、野暮なこと聞いたな。俺が悪か」
「諦めてました。」
「?」
「逢えないって分かってたから、だから聖を選んだ。」
「……そうか。」
「だって、それじゃ私、恋しちゃいけないんですか!」
「……少なくとも、俺にはそういう恋はしてほしくなかった」
「!?」
「代わりはいくらでもいる。そうだろ?」
「聖……何言って……」
ぎゅっ
「聖!>」
「いくらでもいる。だけど、それでも俺を選んでくれた。ありがとう。」
「聖……」
「兄さんでいいから。これからも、よろしくな、凛…………」
「ま、そんなところだ。」
「凛姉に……そんなことが……」
「傍から見れば男を手玉として利用した悪女ともとれる。だが裏を返せば、一途過ぎた純粋な少女だ。俺は後者を選んで、そうした。」
「……自分の罪で?」
「半分それだが、もう半分は、凜を信じてた。」
「信じてた?」
「俺が好きになった女の子が、そんな悪女なわけがない。もしそうなら、俺の見る目がなかった。そして、それが俺の運命だったってな。ただ、もしもこの世の神様に少しでも情があるなら、俺の好きな人くらい、純粋な人であってほしかった。そういう……願望かな?」
「聖兄……。」
「永萌。」
「なんとなく、凛姉はそんな気がしてた。本当はアタシ。気づいてたのかもしれない。ニイニが好きな人でニイニの好きな人だったその人は、アタシの憧れだったと同時に、切ない気持ちにさせる、そういう人だった。
「永萌……」
「その人……凛姉のことを好きになればなるほど、透のことも好きになる。だけど、透のことを好きになるほど、凛姉のことが切なくなってくる。悲しくなってくる。悔しくなってくる。なんでアタシじゃないんだろう。なんでニイニはアタシじゃなくて凛姉なんだろうって。でも、ニイニはちゃんとアタシのことも見てくれてて、優しくて、本当に優しくて、優しすぎて……気遣いがずる過ぎて、それで好きになり過ぎて、それで苦しくなりすぎて、切なくなりすぎて、悔しさでいっぱいで。だからアタシ」
「なるほど、だからそれで短歌を」
「うん。短歌から離れれば、そういう想いなくなると思って、音楽に逃げてた。いろんな楽器してみたし、演奏も孤児院でさせてもらって、頑張った。だけど、ニイニの心は凛姉にあった。凛姉の熱心な、まっすぐな短歌が、そのまま透の心を射抜いてて、アタシの演奏は、あまりにもひねくれすぎてて、だからますます短歌が嫌いになって、演奏も嫌いになって、聴く側に回った。そして透が高校生になったときに、アタシも」
「凛と出会った。」
「うん。」
「ふたりっ子政策ってあるよな。」
「子供は二人まで、でも結婚したら必ず二人産むことっていう、アレですよね。」
「そう。幼年の頃。永萌と俺と、実はもう一人、妹がいた。俺とほとんど同い年だから、凛くらいかな。」
「!!!」
「あ、いや、別に、その……」
「続けてください。」
「あ、ああ。すまん。それで、両親のいない孤児院の人たちは、こっそり3人とも養ってくれてたんだが、あるとき急にバレてしまって。抽選でその人が選ばれてそれ以来って感じだ。今はどこで何してるやら。困ったことに、ときどき夢に出てくるんだ。今日見た夢も、それ。」
「……そ、そうなんですか。」
「なんか、聖兄を「兄さん」って呼ぶ凛を見てると、実はときどき、その人のこと思い出すんだ。」
「……………」
「初恋だったから。」
「!?」
「似てるんだ。雰囲気が。凛と、その人の、その感覚が。」
「………!>!!>!」
「あ、あんまりこういう話って、恋人と話すことじゃないのかもしれない。実際、初恋が妹ってのもなんかこう、不謹慎(?)だし。俺はなんていうかな。どうして人を好きになるのか、なぜその人なのかってのを結構考えちゃうんだ。」
「透……」
「聖兄も結構それ考えてて、そこかな。俺と聖兄が似てるってのは。」
「…………」
「お、おれの話は以上だ。り、凛の方は、、い、言わなくてもいいぞ? 無理すんなよ。全部受け切れるか分かんないけどさ、い、言ってくれると、俺は嬉し」
「《好きな人 すてきなすてきな恋桜 また逢いに来るから また逢い戻るから》」
「!?!?!?」 「り、凛、どうして……、ま、まさか」
「選んでください。」
「え、」
「私と過去の私と、どっちが好きか、選んでください。」
「え、選べって言われても、」
「むー。」
「わ、わかった、わかったよ」
「むん。」
「……オホン。そ、そりゃあ今の凜の方がいいに決まってる。過去の凜も過去の凜だけど、今の凜に過去の凜があるから。……そ、そりゃ俺は気づいてなかったさ? でも過去の凛の方がいいって言っても、そこに今の凜がいるとするなら、それは可能性でありポテンシャルであり、それが実際に実現して今の凜がいるわけだから……その、ああもう! ややこしい!」
「……ありがとう。(おにいちゃん)。」
「へ?」
「じゃ、じゃあ、実の妹と分かったところで、て、抵抗は、ないですよね?」
「あ……」(「そうか。凛は俺の実の妹なんだ。てことは……そういうことか……」)
「そ、その、実際にもう触れ合ってるわけですし、き、キスも何回かしましたし……。」
「……」
「実は、それともう一つ話すことが……」
「??」
「それで、ニイニと凛のこと、今はどう思ってるの?」
「俺の代わりに、俺の分まで幸せになってほしいと思ってる。」
「本当にそう思ってるの?」
「ああ。」
「悔しくないの!? いくら凛姉が純粋一途だからって、実際は聖兄をダシにして結局は透と出会ったらはいそうですかってしてるんだよ? 悔しくないわけ!?」
「……まるで、永萌は俺が凜と結ばれてほしいと思ってるみたいだな。永萌とではなく。」
「アタシは!」
「どのみち結ばれない身さ。だからいいんだ。青春も謳歌した。いい大学も入れた。いい想い出も、いい喜怒哀楽も味わえた。永萌とも出会えて、いい想い出もつくれたし、いい短歌も受け取った。もう、いいんだ。もう……いい」
「よくない!」
「俺が透の立場ですべての事情を知ってる身なら、俺は凛をとことん愛するし、死んだ人の無念を晴らそうとするだろうな。」
「……無念って、短歌で世界平和?」
「おっ、覚えててくれてたか。嬉しいねぇ。」
「茶化さないで。茶化されたくないのは聖兄の方なんだから」
「……」
「そうか、だから透に短歌教えたんだ。それで凛姉は余計に透を好きになった。だけど………決めた。アタシは応援する。」
「永萌……。」
「アタシは聖兄がニイニに似てるから好きになったとかじゃないよ。確かにニイニが初恋だったし、凛姉に負けちゃったけど、気持ちでは負けてないと思ってる。今でもそう。でも聖兄、アタシはあなたと共に運命を歩みたい。」
「!!!>」
「アタシは、死ぬまで聖兄の、聖の妻だから。絶対に捨てたりしないから!」
「永萌……とも?!」
「んっんっん……ぱぁぁ」
「まった、永萌、んー!!!」
ぎゅっぅぅぅ
「待った! ほんとに待った! 誤解してる!」
「……この期に及んで何を」
「凛も、おんなじこと言ったんだ。たった今、永萌が言った。絶対に捨てたりしない。」
「え?」
「俺が、俺から断ったんだ。俺が、いつでも、いつでも捨てていいって言った。そして透と出会って迷いに迷って、葛藤に悩まされて、悩みに悩んだ挙句、俺の言葉に甘えるわけでもなく、拒んでわがまま言うこともなく、透を選んだんだ。」
「凛姉が……そこまでして、透を選ぶまでにそこまで……」
「本当に凛は純粋一途さ。…………永萌。」
「……なに?」
「凛は、その時の凜は、永萌のこといじめてたのか?」
「……」
「たとえ妹どうしでも恋のライバルになるかもしれない。そんな相手に凜は冷淡になってたのか?」
「…………」
「透との想いが強まるにつれて、透が永萌に気遣うようになって、それで凜は永萌に嫉妬して、妬いてひどいことしてきたのか?」
「違う! そんなこと全然してない! むしろ優しかった。凛姉はいつも強くて、カッコよくて、憧れのお姉ちゃんで。凛姉はいじめられてた。アタシもいじめられてた。透も。だけど、みんな笑顔で、アタシも……そうだよ……全然してない。そんなのしてない! みんな優しすぎて、優しすぎて、優しすぎる。…………優しすぎる優しすぎる優しすぎる優しすぎる優しすぎる!!!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「……………」
「聖! 聖!!」
「分かってる。もう、なにも言わんでいい。ただ俺の胸の中で泣いてくれれば、俺は……」
「そんな……聖兄が、そんな……。」
「もう、全身に広がってて。子も望めません。」
「な、なんで……子供まで」
「癌の遺伝子異常がコピーされて、胎児に異常が起きる可能性が非常に高いそうです。ですから、体外受精も望めません。」
「いくらTanka! 王座という名声を手にしても、名門大学に入っても、ふたりっ子政策の前では非国民扱い……。」
「こんなの、残酷すぎて……。もう、……」
「……なんで、俺、そんなの知らずにここまでのうのうと生きてるんだろう。」
「透」
「なんで、こんなに幸せな、幸せだった空間にいたのに、いたはずなのに、そんなの全然知らなかった。気づけなかった。どこで気づけた、どこで、どうやったら気づけたんだ俺は!!!」
「透、こういうのは気づけるものじゃ」
「俺、バカだ……引退なんて、まだ聖兄には言ってないけど、たぶん気づいてる。気づいてる。でも俺は、聖兄のことも、凛のことも、萌のことも、みんな、みんな気づけてない!!!」
「透! 違います! 違います!」
「凛……」
キュ
「違いますよ。」
「凛。その抱きしめ方。」
「えへへ、真似しちゃいました。」
「凛……」
「みんな優しいから、言い出せなかっただけです。」
「みんな優しいから、」
「そう、みんな優しくて、助け合ってきて、だから、言えなかったんです。ただ、それだけなんですよ。」
「………リン、凛、おれ……おれ……」
「男だから泣いちゃダメなんて、誰が決めたんですかね。」
「……」
「……泣いてください。」
「!!>>」
「泣いて、思いっきり泣いて、思いっきり泣いて、思いっきり、生きましょう。私の、胸の中で、泣いてください。それだけで私は……しあわせです。」
キュッ
「透?!」
「男は、胸の中で号泣なんか似合わないんだぜ? んなことできるわけ……できるわけ、ねえだろ。ちくしょう。ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「透……」
「聖兄ィ、聖兄ィ……聖兄ぃいいぃぃぃぃいぃぃぃぃいい」
「透、とおる…………………おにい……ちゃん」
いかがでしたでしょうか。正直、書いてるこっちが辛くなってきました。ああ、やっぱり書くんじゃなかったと、今更後悔してますが、反省はしてません(逆)。それでは次へ・・・どうぞ!




