<第五句> 《秋の空 夢に出でにし 昇り龍 宝抱へる 春の紫》
アメジストと、こころの繭。永萌の伝えたかったものとは。そして、二人は!?
第五句 《秋の空 夢に出でにし 昇り龍 宝抱へる 春の紫》
「にしてもアメジストか、まったく紫つながりでようやるようやる」
「あー……」
「どうした? 浮かない顔して。」
「そんなんじゃないって。聖兄が異常に反応してるだけ。凛はそんなの気にしてないって、な?」
「むー」
「(ありゃ……相当気にしてるぞ)」
「(これ、ネタとしてつつくと色々とアブナイのでは)」
「(まあ、場所によっては感度のレベルってもんが)」
「二人とも? 親しき中にも礼儀ありですよ。」
「そ、そうだよ聖兄、俺にその、感度とかそういうの話すのはいささか問題かと」
「!>!!!!>!>!>」
「お、おい透! せっかく小声でわざわざささやいてたってのに」
「あ」
「私って、そんなに紫、似合います?」
「り、凛、アメジストには真実の愛という意味が込められててだな、愛の守護石なんだ、だからその。あれだ、」
「アレとは?」
「あ、あ、愛してr……へっくしょん!」
「…………」
『…………』
「つ、次は一色の……(履いて)きます。」
「は?」
「……はいてきます」
「お、おい凛! ちょ、ごめっ」
「お互い風邪だな。」
「風邪?」
「《恋の風 凛とニイニの恋敵 それを名付けた 契るアメジスト》」
「お、永萌、おはよう。」
「おはよー。ニイニもおはよ。」
「お、おはよう。」
「なかなかいい歌だったぞ永萌。」
「へへへー」
「ただな、冒頭部分は「あいの風」の方がいいかもしれん」
「そうなの?」
「あんまり同じ単語を繰り返すのは短歌としては味が悪い。掛詞というテクニックがありながら、あえて同じ単語を複数使うのは、実はあまりよくないんだ。」
「あ、英語でいうところの代名詞使うみたいな感じ?」
「そーそー! さっすが我が永萌!!」
「やったー!」
「(恋敵 それを名付けた 契るアメジスト)」
「……どうした、透」
「俺、アメジストと知らずに買ってた。アメジストがどんなものかは知ってたし、それについての知識もあった。だからとっさに凜の前で真実の愛だとか愛の守護石だとか言えたんだ。でも、結局のところ、アメジストだと知らずに買ってた……。」
「それであんな顔してたんだな。」
「俺……俺もう」
「ニイニ、それはニイニの愛の感覚がアメジストを選んだんだと思うよ?」
「感覚? 愛の?」
「たとえその場その時なにも知らなかったとしても、感覚はちゃんと知っていて、ニイニはそれを無意識に選んだ。そして、指輪を買う決意をしたってわけ。」
「まさに、愛だな透よ。」
「……俺にはよく分かんねえ。」
「世の中は論理だけじゃ回らんさね。そりゃあ透は論理的ではあるけど、凜に対するお前の態度は焼き切れたコイルだぜ。」
「その喩えも、俺にはよく分からん。」
「灰色の繭」
「萌?」
「ニイニの心は今、灰色の繭だよ。」
「灰色の、繭。」
「ニイニは聖兄の冗談を交わしきれなかった。そしてその名残りと真面目さで、あんなことを口走ってしまった。それは灰色の繭だから。」
「萌……」
「でも、ニイニの繭のなかに、まだアメジストあるよ。断言する。」
「も、萌……俺……おれ……」
「朝から泣かないの! ほら、凛の部屋いこ?」
「あ、ああ……」
「永萌。」
「? 聖兄、腕掴んでどうしたの?」
「透だけ、透に行かせてやれ。」
「……そだね。」
「よーーし、俺たちはせっかくの休日を満喫するため、まぜそばくいに行くぞおおおお」
「れっつごー!!!」
「ったく、あいつら、まぜそばは昼と夜だっつーの」 「……………………はぁ」
(「ニイニの心は今、灰色の繭だよ。」 「でも、ニイニの繭のなかに、まだアメジストあるよ。断言する。」)
「アメジスト、愛の守護石、真実の愛…………か。」
「り、凛。その……今いいか?」
「…………」
「か、鍵、開いてたら、あ、開けるぞ。」
「…………」
「……開ける、からな……ってあれ、凛? 凛! どこだ、どこだ凛!」
(「おかしい、凛が部屋にいない、ここにいないってことは、まさか俺の部屋?」)
「……いや、まて。」 「………………まさか、いやそんなまさか……」
(「なんで、なんで聖兄の部屋という可能性まで考えてる……俺は一体なにを……何を考えて……」)
「…………くそっ」
「透?」
「!?!?!?!?」
「ひゃっ!」
「びっくりしたぁ」
「びっくりしたのはこっちですよ。なんで勝手に私の部屋、入ってきてるんですか!」
「こ、これはその……市場調査」
「は?」
「そんなことよりどこにいたんだ。し、心配したんだからな。」
「…………」
「??」
「顔、洗ってました。」
「え?」
「兄さんこそ、なんでそこにいるんですか。」
「え? 聖兄いるのか?」
「あっ>>!!>」
「す、すみませんっ。透、トオルはどうしてここにいるんですか?」
「ま、まあ凛のことが心配になって……ま、間違えることはよくあるって、俺と聖兄は似てるって周りからよく言われるし、聖兄の方が抜けてるところあると俺は思ってるけど、俺も、…………俺もいろいろと抜けてた。」
「透……」
「実は……」
「……そんなことが。」
「気づかずに買ってた。ただ単に凜に似てた、というか、俺と凛に似てた。」
「私と、透に、ですか?」
「俺たち、どっか真面目なところあるだろ?」
「そ、そうですね。透は特に、真面目で、でも優しくて、」
「その優しさと真面目さが、萌は灰色の繭と形容した。」
「永萌が?」
「でも萌は言ったんだ。アメジストはあるって。その繭の中に、ちゃんとアメジストはあるって。でも俺、わかんねえよ。わかんねえ……。」
「透、きっと永萌が言いたかったのは、アメジストの方じゃなくて、繭の方ですよ。」
「???」
「兄さんの心に、灰かぶりのお姫様がいるみたいですね。」
「!…………」
「たぶん、それは私のこと、じゃなくて、永萌の方。」
「萌の、萌の心なのか?」
「兄さんの……じゃない、透の心に、私と永萌の心、そして兄さんの心が宿ってるんです。耳をすまして。それがあなたの本当の……」
「本当の?」
「ここからは謎かけです。透、あなたならアメジスト色の繭にできますよ。」
「凛……。」
「頑張ってください。それがあなたの本当の……」
「本当の……」
「はい。」
「……ありがとな、凛。おかげでアメジストな笑顔が見れた。」
「ど、ど、どういたしまして。」
「そうやってすぐに恥ずかしがるのも、凛の真面目さだな。」
「な、わ、私は別に! そのっ……!?」
きゅ
「……またそれ……」
「凛には、こういうのがいいかなーって前々から考えててさ。」
「や、やめてください。」
「え?」
「やめてください! そ、そういうの、困るんです……(せつなくて)」
「ご、ごめん、よく聞こえなかっt」
「バカ……。」
「凛、ごめん」
「優しすぎるんです。」
「凛……」
「これは誉め言葉じゃないですよ。女の子の優しすぎるは、誉め言葉じゃないです。」
「……」
「とおる、…………私はその……もっと」
「《憧れの 外に隠れた紫を 俺は見つけた 見つめられたから》」
「透?!」
「見つけた、気がするだけかもしれんが、アメジスト、見つけたよ。」
「透……。」
「あ、あのさ凜」
「縦と横、それか斜めか単色、どれがいいですか?」
「へ?」
「お、女の子も、いろいろと大変なんですから。」
「凛、それってもしかして」
『ただいまー!』
『!>』
「と、透、はやく部屋戻って!」
「へ?」
「はやくっ!!!」
「あ、ああ、ご、ごめん。」
「謝らないで!!! いいからはやくっ!!!」
「し、失礼致しました!!!」
数日後、そして引っ越し後 ネットサーフィン
「凛……」
「な、なんですか。」
「夏は二か月後だぞ?」
「は、早いに越したことはないです、から。」
「その……水着を選んでくれと言われたときから察してはいたんだけども、」
「真面目に似合う模様選んでくださいね。」
「き、着てみないとわからないっていうか、そだな、着ないとわからん!」
「……わかりました。二か月後、また検討します。」
「お、おう。助かる。」
「……それにしても、二人とも本当に行ってしまいましたね。」
「そだな。この家は、俺らには広すぎる。」
「透。」
「うん?」
「あ、ありがとう。」
「な、なんだ急に、どした」
ぎゅ。バタンッ。
「ちょ、ちょっ、凛、りん!」
「押し倒されても、分かりませんか?」
「?……」
「お、鬼の居ぬ間に、せ、せ、せっ、せっ」
「あああ!!!」
「!?!?!?」
「そんなこと言うから、洗濯物わすれ……んんっ。」
「……………」
「…………」
「…………」
「………」
「………」
「……」
「…」
「……結局、俺のアメジスト、どこにあるんだろうな。見つけたつもりだったのに。」
「……」
(「俺、本当に凛の守護石になれるんだろうか。」)
「《迷い道 霞んだ言葉の行先を 掴んだ頃には 消えて我が手に》」
「凛……?。」
「触れなきゃわからないこともあります。すべてを知る必要も、理解する必要もありません。ですが、」
「すべてを知り尽くして理解しようとする心でなければ、相手の心は得られない。……誰のことばだっけ。」
「それを知ろうとするのも、です。」
「………………そうだなー。」
「本当に、引退するんですか?」
「一応、そのつもりだ。」
「……少し寂しいです。」
「俺はここにちゃんといる。」
「透の短歌、もうあの場で見られないのが寂しいです。」
「凛……。」
「透の、トオルの気持ちは…………短歌を通して知ってきたから。」
「……」
「短歌がないと、……不安なんです。」
「引退するとは言ったが、短歌を詠まないなんて言ってないぜ。」
「透。」
「これからは凜だけの、いや、俺ら家族に向けた歌も詠んでみたい。」
「透……。」
「よし、一句できた。」
「え?!」
「《秋の空 夢に出でにし 昇り龍 宝抱へる 春の紫》」
「……」
「どう?」
「…………」
「ど、どうかな?……」
「秋は半年後です。」
「そこ?!」
「次は秋までお預けですね。」
「う、ううう、それは男として世知辛いものがある……。」
「透が言い出したんですから。責任、取ってください。」
「凛……。」
「その間は、そ、その………い、引退許可、出しときます。」
「!……」
「べ、別に私は引退が嬉しいなんて思ってないですから。」
「そ、そうさ! そのために引退は休憩期間であってだなー。り、凜こそちゃんと育児休暇とっとけよ? お、お、俺も頑張るからな!」
「……………(バカ。おにいちゃんの…………バカ)」
いかがでしたでしょうか。じわじわと来てます。じわじわと。実はこの句の中のセリフが、最終句へと結ばれていきます。では、次へどうぞ!!!




