<第四句> 《迷い道 霞んだ言葉の行先を 掴んだ頃には 消えて我が手に》
お祝いパーティの最中、ちょっと幸せの、ちょっと深刻な、そんな物語。
第四句 《迷い道 霞んだ言葉の行先を 掴んだ頃には 消えて我が手に》
「お疲れ様でーす!!!」
『かんぱーい』
「なんだかんだで、優勝、おめでとー!!!」
「二人三首、したかったですね。」
「まさかの相手からの棄権だったからなー。ストレート勝ち狙ってて準備してなかったらしい。」
「逆に私たちは二人三首ばっかりやってましたね。その分、準備してきた相手が上手でした。」
「それだけTanka! の競技は敷居が高く、同時に国内のレベルが低い。」
「で、そこの有頂天になってる透よ。凛と二人三首できた自信は?」
「もちろん、できた。もうできるからな。」
「ほぅ?」
「あの後、どうしてもしたかったので、大会の後に挑戦したんです。そしたら。」
【女句】
《まきつつむ 風は身体の絹糸か 時もとりまく 腕となれりか》
【結句】
《迷い道 霞んだ言葉の行先を 掴んだ頃には 消えて我が手に》
【男句】
《通り過ぎ 過ぎた通りの その先に 手を差し伸べては 風の恋人》
「ほほう。」
「できました!」
「紫の濃度も悪くないってAIが評価してくれた。」
「なるほどなぁ。」
「ニイニ、凛姉、お疲れー!」
「ありがと、永萌。」
「萌には感謝にたえんな。うん、威張っていいぞ。」
「えっへん!」
「テーマは「風」、か。もしかして春一番! 横紫! そういやこの結句の方の濃度も! もしや」
「……兄さん……?」
「り、凛、お箸は人に向けるものじゃないよ?! しかもグーで掴んじゃってまたー……。」
「ハハハハハ」
「はは、は……はあああああああああごごごごめんよぉぉぉぉりいいいいいいん」
「許すかああああああああああああああああ」
「ニイニー、アタシのから揚げとってー。」
「ほい。」
「ありがとー。ニイニ大好き!」
「俺もだよ、萌。」
「でへへー」
「あ、そうだ。凛、ちょっといいか?」
「は、はい。どうかしましたか?」
「透よ、グッジョ……ぶっ」
「聖兄ダウン! カウント! わん!」
「あ、あの、これ……渡そうと思って。」
「え? も、もう?」
「ツー!」
「あ、いや、その、実は。」
「すりー」
「既に買ってた。」
「ええ?」
「フォー!」
「優勝の自信はあったから、先に前借りしてたんだ。」
「ふぁーいゔ」
「……なあ凜。」
「は、はい。」
「お、おれと」
「シーックス!」
「俺とけっこn」
「せぶん!!!」
「俺と結婚してくれ!!! 凛!!!」
「えーいと……聖兄にレフェリーが白いタオル。聖兄、棄権!」
「う、うん。喜んで……。」
「凛姉もダウン!」
「そ、その、不束者のじゃじゃ馬ですが、よろしくお願いします!」
「必ず幸せにする。断言する。」
「透………とおる!」
ぎゅうううううう
「ああ、で、でも、け、結婚式……どうしよう。」
「別にいいだろ。ここで」
「聖兄復活!」
「俺たち孤児生は、そういう間柄だ。逆に言えば、そういうしきたりに縛られないといういい面もある。」
「聖兄……。」
「ほいじゃせっかくだ。《俺たち》も祝ってくれ。」
「俺たちって、ま、まさか……」
「ニイニ、凛姉、おめでとう。そして、よろしくね。」
「永萌……」
「ひ、聖兄。」
「おう。」
「も、萌を、よろしく頼みます!」
「こちらこそ。凜のこと、頼んだぞ。ほらほら、頭あげたあげた。」
「萌……。」
「アタシ、短歌がんばる。」
「萌?」
「ニイニや凛姉、聖兄に負けないくらい、いい歌人になる!」
「ついでに受験勉強もな。」
「ううう……」
「お、おいまさか萌が聖兄と同じ大学に!?」
「のつもりだそうだ。まだ高等2年だから、まだ間に合うだろ?」
「……苦労するかもだぞ。いいのかそれで。」
「ううん、大丈夫だよ。ニイニも聖兄も、凛姉もいるから。怖くない!」
「と言いたいところだがな、萌ちゃん。」
「え?」
「実は俺、来月から引っ越す。」
「……やっぱりか。」
「ここの俺の部屋は自由に使っていいから、萌ちゃんも来るようなら二部屋自由に使っていいぞ。」
「で、でもそれじゃあニイニと凛姉は……」
「まあ、バス経由で会いに行けば」
「……やだ。……やだ! やだやだ!」
(「『この関係が、ずっと、ずーっと続きますように。』、そう思ってたのに。))
「ニイニと凛姉も一緒じゃなきゃやだ! やだ!」
「……永萌。」
「萌……まだ、癒えてなかったんだな。」
「癒えるわけないよ……、寂しいよ……。寂しいよ。寂しいよ!」
「萌ちゃん、会おうと思えばいつでも会える。大丈夫、大丈夫だから。」
「ディスプレイ・フォンという手もありますよ。話したくなったらいつかけても」
「そんなんじゃないもん! ネットなんかヤダ! ネット嫌い! 大嫌い!」
「萌! おい萌ちょっと!」
ばたん!! がちゃん
「……聖兄、来月って確か」
「あと三日だ。」
「……そうか。それまで、萌がどう判断するか、か」
「すまなかった。」
「聖兄が謝ることじゃない。もちろん萌も悪くないし、誰も悪くないよ」
「永萌、大好きなから揚げ食べずに残してる。」
「もしかしたら、相当ストレスだったのかもな。俺と凛が上京していったの。」
「永萌、何も言わなかった。むしろ音楽くれたし、応援してくれてた。なのに。」
「萌は結構かかえるタイプなのと同時に、発散が得意なタイプだから、発散がうまく行かないと、ああなって閉じ籠ってしまう。」
「今までそんなこと」
「なかった。なかったのは、俺たちがそばにいたからさ。たぶん、萌はスクーリングのクラスメイトともうまくいってない。」
「だから学校行きたくないって言ってたんだな、萌ちゃん。」
「兄さんに言ってたんだ。私には一度も。」
「アイツの得意技は、甘えながらも気遣うことだから、たぶん凛の練習の邪魔したくなかったんだ。」
「あれ、兄さん?」
「萌ちゃん説得しに行く。」
「聖兄。俺も」
「いや、俺一人でいい。これは俺と萌ちゃんの……永萌の問題だ。」
「ひ、聖兄」
「それじゃ。」
「兄さん。」
「さっきはすまなかったな。本当は俺も寂しいのかもしれん。もしかしたらこんなことするのも最後かもしれんからな。」
「? 聖兄、それはどういう意m」
「透、料理片づけるの手伝って。」
「お、おう。」
「から揚げもったいなかったなー。結構たくさん作ったのに。ってあれ、聖兄。なにして……」
「いま永萌に言われて分かったよ。俺、短歌を道具にしてた……。短歌を愛してなかった。歌人失格だ……」
「ちょ、聖兄、萌になに言われt」
「なんであの時に短歌で説得できなかったんだって。何のための短歌なんだって。」
「!!!」
「たしかにそうだよな。永萌のことで頭一杯になって、短歌で説得することなんて一ミリも意識になかった。」
「そんなこと言ったら俺も凜も同じこと言える。気にすることない。」
「……お前ら二人は玉と短歌宝刀だが、俺は王。王座だ。王座は片時も短歌のことを想わなかったことなどないものなんだ。それなのに、それなのに……。俺は歌人失格だ……。」
「聖兄、……」(ほんと言うと、少しムカッと来た。でも、それ以上に、聖兄の王に対する責任感の強さに、俺は感情を露わにできなかった。王座失格でなくて、歌人失格とまで言われたら、俺は何も言うことができなかった。)
「すまない、しばらく独りにしてくれるか。」
「……」
「すまんな、また一緒に食卓囲もう。」
「そんなことが……。」
「確かにそうなんだよな。完全に意識から逸れてた。」
「もしかしたら永萌、私たちと短歌でコミュニケーションとりたかったんじゃ……。」
「短歌で、コミュニケーション?」
「メッセージを57577の31に込めて、もっと楽しく、面白くやり取りしたかったんだと思う。」
「確かに、ここ最近そんなことせずに、ひたすら二人三首の練習ばかりしてて、肝心の短歌の本質を見失ってたのかもしれない。いや、見失ってたんだ。実際、萌の紡いだ結句と女句、素直でちょっと工夫があって、まるでカメラで撮った映像をそのまま自分なりにアレンジしたかのようだった。」
「きっと永萌は、短歌の芸術性に触れたんだと思います。」
「凛。」
「はい。」
「詠むぞ。」
「……もう、いつ言ってくれるか待ってたところです。」
「ごめん、話の流れで切り出すタイミングが。」
「そうですよね。切り出すタイミングなら、あの時いくらでもありました。持ち歌でなく、即興で詠んで人の心にまで沁みわたって癒すような、そんな歌。」
「イメージだ。」
「透?」
「あの人も言ってた。短歌はイメージから始まる。そして出来上がるにつれて、リズムが芽生え、論理がやってくると。」
「リズム……音楽」
「人生は音ゲー」
「そういえば言ってましたねそんなことも。」
「!? っしゃあ来たぞ!」
「……私も、負けてられません!」
「聖兄のバカ、ニイニのアホ、凛姉の、凛姉の、凛姉ぇ……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
がさっ
「凛姉!?」 「……封筒? なんで扉の隙間から? ……そうか、凛姉とニイニが、聖兄のないけど、たぶん、落ち込ませちゃったから、独りにしてくれって言ってたし。うん。許す。…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「《即興で つくってみたから 荒々し 許してくれよな ニイニと凛より》……すごい! 短歌になってる!」
【ニイニ】
《カタカタと 肩が凝るまで お疲れさん そう言う彼女の 肩は灰色》
【凛】
《先立ちの 八つ打つ鼓動が 四つ晴れて 午後の小雨も 肩を慰む》
「追記、あの時、肩の天秤ってあったので、テーマを「肩」に、隠しテーマとして「リズム」を用いました。気に入ってくれると嬉しいな。 凛」
「………うまく行ったかな。」
「あとは萌のみぞ知る、ですね。」
「そだな、全力は尽くした。こっからは、祈るばかりだ。」
「ニイニの、分かりやすい。私の心、灰色だったんだね。きっとニイニも灰色なんだ。凛姉のは、四つ打ちのリズムなのかな。たぶん先立った人と合わせて八つ打ちなんだ。鼓動が四つに戻って晴れた。午後の小雨はきっと、成仏したその人の涙なんだ。アタシの肩、慰めるために。」
「……」
がちゃ
「永萌!」
「凛姉……ニイニは?」
「透は兄さんのところでお話し中。ちょっと抵抗されたけど、ちゃんと中に入れてもらえた。」
「……ごめんなさい。」
「永萌、いいんですよ。永萌のおかげで、みんな短歌するようになったんですから。」
「本当!? じゃあ一緒に、ずっと一緒にいられる?」
「それは、兄さんが短歌で答え出すそうです。」
「聖兄が?」
「あ、それ、永萌も詠んだんだ。」
「こ、これは、聖兄宛の。り、凛姉とニイニのはまだ考え中だから。」
「うん、大丈夫、大丈夫だから。ただ、それ明日でいいかな?」
「明日?」
「今日はもう遅いし、聖兄も疲れてるし、私も正直、大会の疲れがピークで、」
「むー。」
「どうしても、今見せたい?」
「むん。」
「わかった。じゃ、行きましょう?」
「むん!」
「……そうか、萌とそういう話が」
「俺たちの短歌が読まれてないのは、たぶん孤児ってのもあるんだが、それはあえて言わないでおいた。」
「差別は心のはけ口、か。」
トントン
「ニイニ、聖兄、いる?」
「聖兄。」
「覚悟は決めた。これでだめなら、俺はもう。」
「おう、萌、入っていいぞ!」
「失礼します。」
「凛も一緒か。」
「はい、兄さんの容態が心配なので。」
「病気扱いするなって。俺はただ」
「……」
「ま、まあ間違っちゃいないが」
『??』
「とにかく、短歌、詠みに来たんだろ?」
「王座様に、どぞ。」
「うむ、拝見いたす。」
【永萌】
《時の飴 甘鹹辛苦になりなれど 微笑む聖よ 夜空は美味かや》
「こ、これって」
「俺の短歌……。しかも王座を最初に獲得したときの」
「いや、よく見ると妻子が聖になってる。」
「なるほど、永萌、まさかそうくるとは。なら俺はこうする!」
「え、兄さん、今詠むんですか?」
「凛……聖兄が本気になってる。」
「聖兄、手が、手が震えてるよ?」
「兄さんは、本気になると腕も手も震えてしまうんです。」
「……で、できた。」
【聖】
《手塩掛け 賭けより懸けたり 愛娘 心の鹹味ぞ 未だ残さず》
「こ、これが王座の、聖兄の短歌……」
「ま、まあ要するに、永萌、お前の鹹味は、俺がもらい受ける。」
「聖兄、でも。」
「だから、一緒に来ないか?」
「……やだ、」
「永萌……。」
「でも、やだけど行く! 一緒に行く!」
「萌、いいのか?」
「アタシ、短歌の女王になって聖兄と同じ大学行く! 凛姉もニイニも超える!!!」
「と、永萌?……」
「よく言った! それでこそ玉の妹君!!!」
「……ごめんね、ニイニ、凛姉。」
「大丈夫、俺たちも会いに行くから。必要になったら、俺たちも、な?」
「はい。 If you have to, I need you, too. ですね!」
「ようし、今からから揚げk」
「もう片付けましたよ、兄さん」
「はぐぁぁぁ」
「もう、聖兄のバカ」
「ぐああぁぁぁ」
「さて、そろそろ寝なきゃな。凛、俺のところで寝るか?」
「え? ええ!?」
「じょ、じょうだん……でもないぞ?」
「じゃあニイニぃ、アタシも入るぅ。」
「萌、お前は聖兄のとこな?」
「はぐぁぁぁ」
「それじゃ、二人とも、おやすみな。」
『おやすみー ぐふふ』
「最後、あの二人変な笑み浮かべてったな。」
「なんだかんだであの二人は意気投合してますからね。いろんなところで。」
「……なあ凜。」
「は、はい。」
「今もその……横紫なのか?」
「っ!!>!」
「あ、いや、そのだな……聖兄がそういうの知ってるのがちょっと俺としては焼くところがあるというかなんというか、その、ちょっとだけなんだが……正直嫉妬してる。」
「……」
「凛。」
「兄さんとは、そんなんじゃありませんよ。ただ単にみられちゃっただけです。」
「……そうか、それならいいんだ。」
「べ、別に兄さんとは今はそういう関係じゃないですから。」
「え?」
「はっ!?」
「いまなんて……」
「な、何でもないです! で、電気消しますからね!! おやすみなさい!!!」
「あ、ちょっ。あー。」 「真っ暗だ。これじゃあ何も見えな……!>!」
「んっ、んっ、っーー!!!」
「ぷはぁ」
「……ごめんなさい。」
「凛、どうして、どうして急にキスなんか」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
「凛……」
(「『この関係が、ずっと、ずーっと続きますように。』、そう思ってたのに。))
「辛かったんだな。」
「透……。」
「大丈夫だ。ちゃんと俺みて、落ち着いて、大丈夫。大丈夫だから。」
「とおる……私……」
「何も言うな。もう、しゃべるな。」
「透? ん! んっ、んっ!!」
キュ
(「透の、優しいキス。優しく包んで、繊細に抱きしめてくれてて、温かくt……」)
「凛、本当に、大丈夫だから……ってあれ」
すー、すー
「…………お疲れさん。優勝…………おめでとう。」
(「『この関係が、ずっと、ずーっと続きますように。』、そう、ただそれだけを願って。)
いかがでしたでしょうか。二人三首対決できなくてすみません・・・。まだAIについては、まだまだ先なのです。こっから、どんどん物語がシリアスな方向へと向かっていくことだけは言っておきます。
では、次回をお楽しみに!!!




