<第二句> 《「食べてね?」と 恥ずかしながらも 誘っては ホオズキ見抜いた 藍色の恋》
E-スポ短歌《Tanka! Macina!》の国内大会にて難なく決勝まで勝ち進んだ透と凛。決勝まで翌日というところで、少し息抜きに周囲を散歩している二人と、大学でいろいろと話す聖と永萌。いろいろあって、いろいろいい。
第二句 《「食べてね?」と 恥ずかしながらも 誘っては ホオズキ見抜いた 藍色の恋》
「聖兄! 聖兄!」
「お、おうどうした萌ちゃん、こんな朝早くから。」
「新聞見た!? ニイニと凛姉がE-スポ決勝まで行ったって!」
「う、うん。まあ、知ってる。」
「え? なんで?」
「二人とも決勝のために上京してっからここにはいないし、それに萌ちゃん、昭和の主婦じゃないんだぜ? ネットじゃ大騒ぎってやつさ。」
「ネット……ネットかー。」
「萌ちゃんあんまりネット好きじゃないよね。珍しいというかなんというか。」
「うーん、あんまりネットは使わないかなー。だって音楽あればそれでいいし!!!」
「そこに短歌も入れてみないか?」
「短歌は、ニイニがやってるから……。」
「ああそういや、透が短歌始めたのって、たしか俺が無理やり玉座に上げさせたのがきっかけだったな。それ見た凜がホの字になって、熱心に短歌宝刀まで登ったんだったな。凜はもともと短歌好きだったけど、マキナやってたわけじゃなかったからなー。懐かしいなぁ。」
「アタシは、聖兄好きだよ?」
「お、嬉しいねえ。」
「……でも、聖兄の短歌、なんかすごすぎて、時々よく分かんない、ていうかわかんない。」
「ま、王座ってのはそういうもんだ。」
「そうかなー。なんか裸の王様みたいな?」
「ほう。」
「腹筋割れてるのに胸筋は普通みたいな?」
「い、言いたいことは分からんでもないが……。」「萌ちゃん、毒はそこまでで……。」
「あ……ごめん。最近わたし、こういうので嫌われちゃってて。」
「いや、いいんだ。本音は大事さ。自分の感性が出てくるからね。」
「う、うん。」
「それより、嫌われてるって、どうしたんだい?」
「聖兄、実はアタシ……スクーリング行きたくない。」
「えっ」
「高等学校なんて行きたくない! アタシ……聖兄の大学行きたい!」
「……一ついいか?」
「うん。」
「俺の通う大学に行きたいのか、俺と大学行きたいのか、どっちかな?」
「両方!」
「どっちかな?」
「……聖兄と」
「よっしゃ決まりだ。今から行こうか。」
「え? だってアタシまだ高等生だよ?」
「いいか萌ちゃん、大学はな、自由なんだぜ?」
「自由?」
「萌ちゃんなら十分大学生に見える。あ、いや、年齢とかじゃんくて、なんていうかな、雰囲気……みたいな?」
「で、でも、今日スクーリングだし……」
「学校、行きたくないんだろ?」
「あ……、うん。」
「よし、じゃあ私服に着替えて。とびっきりの自信作、期待してるよ。」
「自信作?」
「あ、いや、その……あれだ、ああなんていうかな、言葉が出てこん!」
「冗談だよ聖兄、ちゃんと分かってる。聖兄にキュンって言わせる格好してくるね!」
「あ、あんまりド派手なのは目立つから……」
「大丈夫、大丈夫これでもアタシは高等生なんだから!」 「じゃ、先に外で待ってて!」
「お、おう……」 (「……後ろパジャマも悪くないな。」)
「あ、………あ…………」
「ど、どうかな?」
(「こ、これは……そしてこれに加えて白なんだろ? こりゃもう反則中の反則」)
「聖兄?」
「きゅ、きゅん」
「は?」
「キュンって言わせられた……言わせんな恥ずかしい!」
「そんなこと言ったかなー?」
「ふん、まあいい、とりあえずその恰好はホワイトカードだ。」
「ホワイトカード?」
「白鳥の湖」
「ここ道路なんですけどぉ。」
「そういうのいいから! ほら行くぞ。」
「ちょ、ちょっと急に腕掴まないでってば」
「うっさい! そんな胸キュンホワイトカード見てしまったら、こっちだって気が気でいられん!」
「聖兄ぃ……。」
「……。」
「ありがとう……。」
「ど、どいたしました」
「ました?」
「ありがとうございました!!!」
「なんで聖兄がお礼言うの? ってうわもうちょっと歩くペース落としてってば、この服高いんだから。ちょっと聖兄ってば聖兄ぃ!」
「これが都会の喫茶店ですかー。なんか憧れますね!」
「こっちの方がはるかに賑やかな分、だだっ広いな」
「透、やっぱりそのサングラスカッコ悪いですよ。」
「逆に凛はおばさんくさくなった感あるな。」
「もう! 透のバカ!」
「でもその分、サングラス外すと胸が苦しくなる、そんな凛が、すぐそばにいてくれてる。それだけで幸せだ。」
「……その割には、紅茶がぶがぶ飲んでます。」
「相変わらず、観察眼が鋭い。しかしだ、これは落ち着きのないことの表れであって」
「……永萌、ちゃんと学校行ってるかな。」
「? どうした急に。」
「最近、永萌の様子おかしいと思うんです。兄さんがいるうちはたぶん大丈夫なんですけど、もし兄さんが独り暮らしし始めたら、透、ちゃんと護ってくれますか?」
「守る護らんも、俺は萌の兄だ。兄として、妹護るのは当然だろ?」
「じゃ、じゃあ透も気づいてたんですね。」
「当たり前だ。だからこうして凛と喫茶店に行って気分転換してるところに、この話だから、正直ちょっと驚いてる。」
「どういうことですか?」
「なんだかんだでみんな同じこと考えてんだなって。」
「みんな、どこかで見て見られてって感じですよね。」
「もしかしたら誰かに監視されてるかもな。なんせ決勝進出者のティータイムだ。ハイエナ記者がやってこんとも限らん。」
「一応、サングラスで誤魔化せてると祈りたいのですが。」
「急ごう。」
「どうしました?」
「男の第六感」
「?」
「ほら」
「は、はい!」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
「そんなにうまかったのか? 学食。」
「うん! このハンバーグ、なんか聖兄の腹筋に似てる!」
「その喩え、嬉しいような? 悔しいような?」
「誉め言葉だよ?」
「お、お褒めに預かります。」
「うむ、よろしい。」
「ねえ聖兄。」
「ん?」
「サークルってあるんだよね? 短歌サークルもあるの?」
「あるっちゃあるが、俺はいかない。」
「え? なんで?」
「ま、まあ、一身上の都合ってやつで。」
「なにそれー」
「と、とにかくだ、俺は」
「あ、見てみて! 短歌サークルここから近いよ! ちょうど展示会やってる! 行こ行こ!」
「……は、はーい。」
「あ、あの、男の第六感は今どちらに向かってるのでしょうか。」
「徒然なるままだな。」
「徒然ですか? 確かに今日はこれと言って予定はないですが」
「なあ、凛。」
「と、透、サングラス外しちゃ」
「せっかくだ。都会の風景満喫しよう。ほら、凜も外して。」
「……ハイエナ、来ますよ?」
「任せろ。俺が凜を護る。だから、俺のそばから離れるな? いいな?」
「…………。」
「返事は!」
「ハ! ハイ!」
「《どっち若い? お前の方がキレイだよ どっちか答えて! お前が好きだ!!!》……ふーん。」
「どうだ萌ちゃん、色々あるだろ?」
「ほんと、いろいろ……でも、なんかこう」
「こう?」
「王と玉がいない」
「ま、まあ、そりゃそうだな。」
「匂わない」
「匂わない?」
「ここにニイニと聖兄のような匂いがない」
「そりゃまあ、透も俺もここにはいないから」
「そうじゃなくて、ニイニも聖兄も、短歌はトップクラスなんでしょ?」
「おうよ! 王座三連覇とはこの俺!」
「なのに、なんでニイニと聖兄の匂いがしないの?」
「萌ちゃん、さっきから何言って……!」
「気づいた? ここの人たち、ニイニや聖兄のような短歌、まったく参考にしてないってことだよ。影響受けてるわけでもなければ、たぶん、読んでもいない。」
「……」
「ニイニと聖兄の短歌って、ちゃんと読まれてるの?」
「萌ちゃん、それは」
「答えて。」
「……場所、変えようか。」
「あ、うん。……ごめん。」
「あ、あのバッグ、かわいい!」
「……」
「ねえ透みて、あれとこれ、どっちがいい?」
「凛の方がキレイだよ。」
「と、透? 今バッグの話して」
「凛の方がキレイだって。」
「もう! お世辞はいいです! どっちのバッグがいいか聞いて」
「お前が好きだ!!!」
「…………」「ちょ、ちょっと透、そんな大声で言うから目立って」
「行くぞ!」
「あ、ちょっ透! トオル待って、待ってってばー!」
「ちょっと透。さっきのは一体。」
「ほら……。」
「こ、これ……」
「バッグは盗まれるけど、指輪は大泥棒じゃない限り盗まれない。」
「透……」
「今はガラスの指輪だが、優勝したらもっと立派なやつ買うから。そしたらずっと凛を幸せに」
「いやそうじゃなくて」
「??」
「う、嬉しいです、嬉しいですよ? 嬉しくて、胸が詰まりそうで、たぶん、いま実際に詰まってて、でも、ちょっとお腹も痛くって……」
「だ、大丈夫か、今探して」
「ど、どうして人差し指に指輪なんですか! 普通薬指ですよ! しかも左手!」
「あ……ああああああああああああ」
「もう、バカ。嬉しいんだから」
「実はな萌ちゃん。俺たちの短歌はE-スポにおける短歌なんだ。」
「E-スポって、ゲームをスポーツにしてるあれだよね。」
「あれ見てどう思う?」
「うーん、よく分かんないけど、人撃ったり戦争したりするの嫌。だって第三次世界大戦からようやく立ち直ったばっかりなのに、またそんなゲームするの、信じらんない。」
「そう、あれは海外のメインスポーツとされている。日本だと短歌が主流になってはいるが、日本のE-スポのイメージの悪さが、俺たちの短歌のイメージを悪くしてる、と俺は思ってる。」
「じゃあなんでニイニも聖兄もE-スポなの?」
「俺たちは、いや透は分からんかもだが、俺はある人の想いを継ぎたいと思ってる。というか、実現させたい。」
「それって……」
「短歌で、世界を平和にする。」
「……聖兄。」
「笑ってくれて構わんさ。おそらく透もちょっと疑ってるところはあるはずだ。でも、仮に透が世界平和を別の形で実現させようと思っても、俺は短歌をやってくつもりだ。だからそのある人はE-スポという戦争に切り込んでいったのさ。」
「でもそれ、説明になってない。」
「萌ちゃん?」
「オンラインで500万人も見てくれて、新聞やネットでニュースになってるのに、なんでそれでもニイニと聖兄の短歌はみんな詠んでくれないの?」
「いるにはいるが、見えてないだけかもしれないな。」
「どういうこと?」
「短歌は基本自由。だからそのまま他人の受け売りをせずに、遠回り遠回りに表現してる。萌ちゃんのいうところの匂いは、きっと文体とかニュアンスからくる癖のことだよね?」
「……まあ、だいたいそんな感じだけど、聖兄はそれでいいの?」
「まあ、まだ萌ちゃんには見えてないところがある。今は萌ちゃんに何言っても分からんかもしれん。」
「どういうこと! ちゃんと説明して!」
「一句詠もうか。」
「聖兄! アタシは、アタシはみんなが自分の殻に閉じこもってて、それで、他人の意見を受け入れようとしてないんじゃないかって、だから」
「《好きなれど 認められぬは しのぶれど 忍び難きぞ 恋も花さじ》」
「……」
「誰も傷つけたくない。だからみんな黙るしかない。手を伸ばしても、無視して黙るがゆえに、結局誰にも分かってもらえず、認めてもらえず、理解されず、」
「聖兄ぃ……。」
「それでも努力をしようとした結果、恋の花もつぼみのまま咲かず、咲かそうとすればするほど、離れていくばかり。」
「……うっ……・」
「泣くな。これが短歌なんだ。これが俺たちの紡いできた短歌なのさ。」
「……」
「そしてこれからも、たぶん変わらずに紡いでいく。未来の人たちにさえ理解されなくてもね。」
「決めた!」
「??」
「アタシ、短歌やる。」
「も、萌ちゃん!?」
「短歌やって、聖兄の大学に行く!」
「おう! その意気だ!」
「それでね、その……これ」
「?」
「開けてみて。」
カサカサカサ
「…………お! 上手そうなチョコレート、ってこれ大学のか、いつの間に……それと……た、短歌?」
「これが、アタシの初めて、聖兄に贈る短歌。これが、アタシの気持ち。」
《「食べてね?」と 恥ずかしながらも 誘っては ホオズキ見抜いた 藍色の恋》
「……こ、困ったな、バレンタインデーはもう過ぎて」
「そんなの関係ない!」
「萌ちゃ」
「好きです!!!」
「…………」
「お願いします!!! これからも、これからも一緒に、付き合ってください!!!」
「……お褒めに預かります。」
「え?」
チュッ
「ええ?」
「い、今は手にキスするだけな。俺まだ就職できてないし、まだ養う力もない。だからその……」
「うん……」
「い、一人前の男として、一人前として成長するまで、待っててくれないか!」
「聖兄。」
「たぶん、これからかなり厳しい道を歩むかもしれない。それでも、それでもいいなら。」
「だぁめ。」
「えっ」
「待てません。」
「萌ちゃん!?」
「あなたと共に歩みたい。その道をあなたと共に歩みたいんです。」
「……」
「だから、一緒に居させてください。」
「萌ちゃん!!!」
「!………」
「俺も、好きだ。好きだ好きだ大好きだ!!!」
「へ? チョコレートは事前に買ってた?」
「実は、そう、なんです。」
「じゃ、じゃあ、初めから!? 最初から最後まで!?」
「ごめんなさい!」
「…………」
「…………」
「ひとついいか。」
「は、はい。」
「どこからどこまで計画通りだったんだ?」
「新聞から大学行くところまで、かなぁ。あ、短歌サークルは偶然! これはホントだから!」
「……策士だなぁ、やっぱ萌ちゃんには敵わん。」
「お褒めに預かりまーす!」
「まったく……。」
「…………み、三日寝ずに考えたんですから…………」
「へ? いま三日って」
「なんでも、ない!!」
いかがでしたでしょうか。井の中の蛙、お山の大将とはよく言ったものですが、どれだけ頑張っていい作品出しても、見られなきゃ、影響されなきゃ意味ないです。聖が詠んだ歌には、実はそういう意味も込められています。それでも普通の短歌ではなく《Tanka! Macina!》にこだわるのは、聖のどこか想いあってのことなのでしょうね。




