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Tanka! The Battle of Short Song!   作者: 《み》
1/9

<第一句> 《Yes, we could. Don’t love me by yourself. If you have to, I need you, too.》

・短歌はすべて作者のオリジナルのものです(うたよみんやツイッターなどで公開はしてます。)

・この物語はフィクションです(以下略)。


・現時点では人工知能はそこまで出てきません。当分、恋愛が中心になります。

・物語全般は登場人物のセリフで構成されています。ナレーションはほとんどありません。

 


《語るるは 虚しき定めと知りなれど 我が血に眠りし そなたの月日は》



すべてのうつ関係者に捧ぎたかった、そんな物語です。



第一句 《Yes, we could. Don’t love me by yourself. If you have to, I need you, too.》



 茜坂(あかさか)家・進藤(しんどう)家共同住宅二階 晴れ晴れとした春一番


「兄さん、兄さんってば、起きてください。」

「ん~。」

「あと五分なんて言わないでくださいね。もう遅刻寸前なんですから。」

「今何時!?」

「嘘です。」

「あーびっくりしたー。ていうか今日休みじゃん。」

「でも時間がないのは本当ですよ。早く起きてください。」

「へい、へい。」


「おはよう(ひじ)(にい)。」

「聖兄おはよー!」

「おお、(とおる)(もえ)ちゃん、もう外か、おっすおっす。」

「もうみんな支度できてるんですからね。」

「すまんすまん、今着替えるから(りん)、先行っててくれ。」

「はい。」

「うむ、今日もいい笑顔だぞよ?」

「お世辞言いながら着替えてくれると嬉しいのですが?」

「ふむふむ。はてさてどこから着替えたものかな……。」

「なっ!?」

「凛、聖兄! 早くしないと萌が」

「おうすまんな、凛がどうしてもと言うもんで」

「もう! 先出てますから早く着替えてくださいね!」

「あっ、忘れてた。」

「何がです。」

「トイレ」


「まったくもう……。透のいる前でああいうのは困ります。」

「何があったんだ?」

「別に! 何も!」

「まあ聖兄のことだからな。何もないことは分かってるけど、凜がそこまで怒るのはよっぽどだな。

「別に……怒ってないです。」

「???」

「怒ってないです!」

「そんなホッペ膨らまして、凛姉ひょっとして……ツンなの?」

「永萌までそんなこと言って!」

「春なのに顔赤いよー? ニイニの前でそんなんじゃニイニが焼いちゃ」

「お待たーせっ!」

「意外と早かったな。」

「まあ、着替える服だけは決まってたからな。」

「おお、聖兄カッコいい!!!」

「もう、なんだかんだで……素敵です。」

「……ニイニ」

「ん?」

「焼かないの?」

「餅は餅屋。」

「は?」

「さぁて、お前ら行くぞー、今日は混雑日だからな。」

『はーい!』


「んで、透、短歌の調子はどうだ?」

「やっぱり自分には才能ないのかなーって、聖兄には全く敵わないし。」

「《Tanka! Macina!》 は短歌だけじゃない。心の問題もある。凛とはうまくやれてないのか?」

「それは違います。透は頑張ってます。私の力不足で……。」

「凛……」

「はぁ、そんなんじゃ当分日本のE-スポ代表は夢のまた夢だぞ。俺はもう引退しそうな勢いで実力落ちてるから、人のことは言えた身じゃないが、世代交代のためにも俺はまだまだ現役勢のつもりだ。」

「ただの高等生部門から抜けただけじゃないですか。まあ確かに大学部門で参加するなら個人になるんでしょうけど。」

「でもあと一年経てば、またニイニと聖兄がタッグ組めるんだよね?」

「ああ、萌も短歌やればいいのにと思うがな。」

「アタシはそれこそ、才能ないし、……ギャルだし?」

「透もそうだが、リズムの問題だ。問題はリズム。『To be or not to be.』これぐらいのリズム感出せないとな。萌は音楽よく聴くから、透よりはリズム感ある短歌詠めそうなところはある。」

「ほんと!」

「ああ、心の思うままに詠む。それが短歌ってもんだ。」

「さすがタンカマキナ三連覇王座! 玉座も凛とこれからだよ!」

「……ありがとな。萌。」

「永萌はいつも通り、そうでないとですね。」

「でもでも、なんで二人うまく行ってないの。こんなに仲いいのにぃ?」

「ああ、それは……」

『キャッ!』 『あ』


「透ヨ、ソウ言エバ今日ハ春一番クルンダッタナ」

「忘れてた。平手打ち二人分はさすがに歯にくるものがある」

「凛トキタラ素手デ殴ッテキタカラナ。素手デ。」

「聖兄には棘付きのナックルだったなぁ、いてて。」

「ンデ、」

「?」

「ナニイロダッタ?」

「……横紫と白」

「!? モエチャンガ白トハイガイナ」

「え、なんで……」

「自称ギャルッテイウノモナカナカニ儚イモノダナ。純白ノ心。」

「いやそれもそうだけど、なんで分かったの?」

「タダノ推理ゲームだよワトソン君。最モ、タダの確定情報ヲ持ッタ必然避けらレヌ運命ダが!?」

「聖兄、さすがにそれは焼くぞ……。」

「モチはモチや。」

「……」「やられた。_| ̄|○」


「そういえば春一番だったねぇ、凛姉。」

「……忘れてました……。」「もう透のお嫁にいけないです……。」

「いや、ニイニはそこまで思ってないかと。」

「私、やっぱり合わないのかもしれません。」

「凛姉、それは違うよ。」

「永萌?」

「お互いに好きだから、互いに譲り合ったり、互いに主張し合ったりするんだよ。そういうもんだって。」

「そ、そうですかね。」

「アタシからしてみたらだよ? ニイニと凛姉はやきもちレべルの大カップルだよ。傍から見たら眩しくて見てらんないくらい。」

「そ、そんな大げさに言われましても。」

「ううん、アタシが保証するよ、ニイニと凛姉は絶対うまくいく。断言する。」

「……ありがとう……永萌。」

「凛姉、泣かないの、まだ朝だよ?」

「うん、」

「じゃあ行こ?」

「はい。」

『キャッ』 『お! 逃げろ逃げろ! いやー、遠目もいいもんだ!』

『もー!!! この馬鹿一番!!!』


「さぁ着いたぞ、これが《Tanka! Macina!》だ。」

「えええ? ……ニイニ、見た目ただのゲーム機だけど。しかも箱型。派手だけど、なんか地味ぃ。」

「まずはコインを入れるんだ。はい萌、500円だ。入れてみな?」

「500円!? 100円とかじゃないの?!」

「俺と凛の練習するのはちょっと特殊なやつなんだ。」

「二人三首と言って、二人で三つの短歌を詠むんです。」

「へー、二人三脚みたいな?」

「そうですね。そんな感じで、二人で協力して詠むのですが、このモードの難しいところは、ちゃんとゴールまでたどり着けるかどうかもそうですが、ゴールしてもちゃんとした短歌じゃないと採点してもらえないんです。」

「え? 誰が採点するの?」

「愛だよ。」

「愛!?」

「冗談だ。」

「もう、兄さんったらこういうとき変なこと口走りますよね。」

「くちばしがそう言いやがったからな。それはそうと、このゲームにおいては採点者はAIだ。」

「エーアイって、人工知能だよね。最近はやりの。」

「たぶん萌ちゃんも音楽アプリでお世話になってるはずだ。たしか写真加工とかにも使われてる。」

「あ、この前ニイニの顔にケーキパイじゃすとみーとさせたやつ!」

「そそ、ああいう加工もAIなら楽勝だし、自然なパイフェイスが出来上がる。」

「パイフェイスて……」「なんかちょっと違う気がしますが……。」

「まあそんな感じで、AIはいろいろと便利なところがある。しかもデータに基づいて柔軟よく機械的に思考するから、客観性も保たれる。」

「へー、AIも考えてるんだ。」

「考えるとはちょっと違いますね。思考と考えるは、出来上がったものを使うか、これから使うものを作るか、そういう微妙なニュアンスの違いがあります。」

「ん~?」

「つまり、名詞で止まってるか、動詞で続いてくか、かな。」

「ニイニそれ、もっと分かんない。」

「要するに、AIは過去しか頼れるものがないが、俺たちは夢を借りて現在(いま)を生きてるわけだな。」

「すごい! なんか聖兄かっこいい!!!」

「AIだってシミュレーションで未来を見渡すじゃないですか。」

「でも夢は見れない。未だに……おそらくずっと。」

「まあ、そうかもしれないですけど。」

「とりあえず、かっこいい聖兄が調子乗ってきたところで、五〇〇円入れてみよう。」

「ニイニもしかして、焼いてる?」

「モチハモチヤ」

「それ聖兄が言うんだ!? ニイニ形無しだねぇ。(にやにや)」

「凛、五〇〇円貸して。」

「はい。」

「分かった! 分かったから! 入れるよ入れるってば!」


「もう、なんでこんな話になったかなー。」

「萌の愛のせいだな。」

「ですね。透の言う通りです。」

「ぐぬぬぅ」

「二人とも、オコなのか?」

「どちらかと言えばツンでした。兄さんにそれを言われるまでは。」

「右に同じ。」

「ま、このあと二人は嫌でもデレなければならん。ほら、始まるぞ。」

「へー、なんも設定要らないんだ。」

「最近のAIは忖度(そんたく)できるようになってきたからな。ほら、あの台に手を置くと指紋認証で参加人数を推測して、しかも過去のプレイ履歴もそれで管理されてて、二人が今どんな難易度をプレイしたいか、確率で判断するんだ。まあ、ほとんど一〇〇に近い99パーセントだがな。」

「ふーん。」

「あとはまあ、脳波を使って互いの同調率をコンピュータがリアルタイムで計算して、短歌を画面に表示させるための文字の出力条件というのを満たさないといけない。」

「うーん?」

「例えば、どれだけパートナーと仲が良くても、その仲良さゆえに同調率が崩れることだってある。案外、仲悪い人同士の方が同調率が高い場合もあるそうだ。」

「へー! なんか意外。」

「そうだろう? 同調というのは、感情的な側面よりも、能力的な側面の方が大きく占めるんだ。最終的な調律には愛の力が欠かせないとは言うけれど、その愛さえも、練習さえすればってところなのが現実だ。」

「うんうん。」

「……まそれだけあの二人が二人三首をやり込んできたってことを言いたかったわけなのだが、しかしなぁ。」

「……うーん。」

「やっぱり厳しいですね。」

結句(けっく)がどうしてもうまくいかない……。」

「聖兄、結句って?」

「最後に詠む短歌のことさ。とはいえ、やろうと思えば結句から詠むこともできなくはないが、互いに残りの二句を示さないまま結句に行くのはかなりのリスキーだ。ああ、二句ってのは男句(だんく)女句(じょく)。そして三首の結句だから協力して紡がなきゃならん。」

「紡ぐ?」

「短歌はな、(まゆ)なんだ。自由な分、最終的には一本の糸として引っぱり出さなきゃならん。」

「なんか……髪の毛みたいだね。」

「お、なかなかいいところ目につくな。」

「そ、そうかな?……」

「いいこと考えた。せっかくだ、奥の実機様に失礼してっと。」

「え?」

「凛、透、《俺たち》もやるぞ。」

「ええ?」

「俺たちって、まさか兄さん……。」

「俺と萌ちゃんでダブルスだ。」

「えええええ!?」


「開いた口がふさがらないって、こういうことを言うんですね。」

「まったくだ。聖兄のことだからなんか考えがあるんだろうけど、本当にできるんかな。」

「とりあえず、モードはこれで、と!」

「なっ? オンラインモード?!」

「兄さん、よりにもよってなんでオンラインなんですか!?」

「バトルは観客がいる方が盛り上がる。そういうもんだろ?」

「あーあー、外野が騒ぎ出したぞ。」


「おい! あの(おう)(ぎょく)が二人三首で《ダブルス》だそうだ!」

「別にあの二人のタッグなんて珍しくないだろ。」

「ちげえよ馬鹿、王と玉が互いにパートナー組んでやるんだよ。」

「パートナーって誰さ。」

()の方は()の妹の《Rin(@短歌宝刀)》だが王の方がわからねぇ。だがおそらくは女だろう。同性vs異性なんてするはずないからな。」

「確かに、E-スポの練習ならそれはありえん。」

「ただの遊びじゃねえの?」

「遊びでオンライン公開なんかするかよ。これは見物だぜ。拡散だ!!拡散!!!」


「そんなこんなで、観戦者が500万ですか……」

「ご、ごひゃくまん!>!!>」

「ひ、聖兄、短歌ってこんなに人来るの?……」

「ネットだからな。」

「な、なんか怖い。」

「案ずるな。なんなら手でもつなぐか?」

「え?!」

「さっき見てたろ? 二人も必死だ。なんせ王の俺と初心者の萌ちゃんに負けないよう、全力で向かってくるはずだからな。こちらも生半可な覚悟はできんよ。」

「う、うん。で、でも……。」

「お?」

「う、腕組で我慢して! 手つなぐのは……聖兄でもちょっと恥ずかしい……。」

「……うむ、分かった。だが案ずるな。観客はゲーム画面しか見えてない。」

「え?」

「オンラインだからな。」

「なーんだー……。……あっ……。」

「どうした周りなんか見渡して、……ああ、今日混雑日なの忘れてた。」

「聖兄ぃ……」

「ま、500万に比べたらこんなの何でもない何でもない。」

「そうですね、オフラインですからね。」

「聖兄、負けねえぞ。」

「当たり前だ。負けたら引退レベルだ。」

「ですね、先ほども言ってたみたいですが、せっかく練習してきてこの組み合わせで負けるわけにはいきません。」

「火ぶたは切られたな。……いくぞ!」


「聖兄ぃ、アタシ、どうしたら……」

「二句、二句だけ頭に思い浮かべるんだ。」

「二句だけ?」

「萌ちゃんが最初に知った短歌は?」

「えっと……まだ孤児院にいて小さかったときの、ニイニが詠んでくれたやつ。それで」

「よし、その返歌をまず頭に浮かべて。……それから俺に向けてなんか適当なのでいいから一句。」

「て、適当でいいの?」

「俺が合わせる。これはピアノの連弾だ。ピアノの演奏会あったろ? 透との連弾、あれを思い出すんだ。」

「ニイニとの……うん、やってみる。」

「よし、じゃあちゃんと俺と腕組みな。」

「う、うん。」


「凛、いつも通りいくぞ。」

「ですが透」

「ここで作戦立ててもしょうがない。いつも通り、練習してきた通りのリズムで……ま、まあ一度も成功したことないけど、ここでさせるつもりでいくぞ!」

「……わかりました。」

「凛……」

「……」

「凛、萌をみてみな。」

「永萌を? あっ……」

「あの緊張の中、集中しようと必死だ。まだ《Tanka! Macina!》知って20分と経ってない。あの萌が必死になってるんだ。歌人として、俺たちもそれに応えないといけない。」

「透……。」

「むしろ500万を1000万にするくらいの勢いで行かねえとな!」

「…………はい!」


≪Ready……Tang!≫


「お、王と玉の対戦かい? 相変わらず仲いいねー。」

「て、店長! 今回は見物ですよ! なんせ初心者が王とタッグ組んで玉と短歌宝刀に挑むんですから!!」

「ほほう? ……って永萌ちゃんじゃないか。なるほどねぇ。こりゃ確かに見物だ。」

「状況はお互いに芳しくないですね。互いの同調率が文字出力条件を満たしてないので、お互いに白紙です。」

「まあ、王の方」は厳しいだろうなぁ。お、玉の方が動いた。」

「青色ということは男句ですかね。」

「いや、違うな、あれは女句だ。」

「ええ?」

「よく見てみなさい。玉側の方にはまだ歌がない。おそらくお互いにあらかじめ詠んだ歌を交換して詠んでるんだろう。凜ちゃんがなかなか動き出せないでいるのはなぜだ?」


(「集中、集中しなきゃいけないのに、なんでまだ文字が……。いつもは半分まで順調なのに……。」)


(「聖兄に聞くの忘れた、これどうやって短歌読み込むんだろう……。合わせるっていうからアタシが何もしなかったら白紙のままなんだよね。……あ、目つむってる。そうか! 今こうやって心の声で詠むんだ!!!」)


「脳波で短歌詠むっていうのもなかなかすごいですよね。テレパシーの先駆けみたいな。」

「独りだけならたやすいらしいが、二人の脳波が絡み合う(・・・・)と複雑になる。だがコンピュータも計算できなくはないから、一応ゲームとして成り立つわけだが。難易度が高すぎる。」

「て! 店長! ()の方が!」

「おお!?」

「綴ってる! 結句に合わせて女句が追いかけてる!」


(「凛、大丈夫だ。俺もちゃんと合わせてみせるから。」)

(「焦っちゃダメよ私。焦っちゃ。」)

(「凛、来てくれ、俺はここにいる、今度こそ、今度こそ!」)

(「……ダメ……もう色々とあちこちテンパって……ああ」)

≪(お互いに好きだから、互いに譲り合ったり、互いに主張し合ったりするんだよ。そういうもんだって。)≫

(「……永萌?」)


「お、おいRinも動いたぞ!」

「にしても、なんで互い違いの歌交換して詠むんだよ。自分の詠んだ方が楽じゃね?」

「客観性が保たれるからとか、お互いの気持ちを知るためだとか、結句につなぎやすくするためだとか、色々あるけど、まあ、愛だろうな、なんだかんだで。」

「ああ、おれもRinとダブルスしてえぜ!」

「それ、ずっと白紙に終わるやつ!」

「言うな。」


(「これは、凛……ひょっとして……」)

(「透。もし私の声が聞こえるなら、心の声が聞こえてるなら、これが、私の気持ちです!」)


(「萌ちゃん、意外とじゃじゃ馬だな。だが素直でいい子だ。ちゃんと短歌してるよ。」)

(「なんだろうこれ、マーマレード? なんか心地いいかも…………ニイニに贈った返歌、それを聖兄に贈るとしたら……こう……なのかな? ……ああもう! 適当でいっか! えいっ!」)


≪Finish.≫


「……マーマレード。」

「? 萌ちゃんどうした?」

「聖兄と腕組んでたら、マーマレード色の光が見えた。」

「???」

「聖兄は見えた? アタシの色! なんだった!?」

「い、いや、俺には全く見えなかったが。そうか、そういうのもあるのか。」

「えー、王座がなんで見えないのー! むうぅぅぅ。」

「王座も一人の人間だからなー。」

「あーそれ、アタシのこと人間扱いしてな」

「ささ、萌ちゃん、短歌の時間だ。」

「短歌の時間?」

「AIの採点中にみんなで短歌の評価をし合うんだ。まずは透と凛の方だな。」



【女句】

《大丈夫 私はちゃんとここにいます あなたの心も 私の心も》

【結句】

《》

【男句】

《そうかもな 無理して愛さんでいいからな 必要なときには 俺も呼ぶから》



「ほう? これは面白い。」

「聖兄、これ……結句が」

「たしかにない。そりゃそうだ。男句の方が、示し合わせた短歌じゃないからな。」

「え? じゃあニイニが?」

「いや、あの二人は透が女句を、凛が男句を詠むようにしてる。現に女句には青色が、男句には赤色が多いだろ。ときどき紫色があるのは二人が互いに詠んだとする部分だ。男句を見ると、透は「な」と「から」で結んだ部分で濃い紫色を出してる。特に「から」は濃い、いや、濃すぎるくらいだ。」

「ということは、ニイニと凛姉は男句で同調できたってこと?」

「裏を返せば、そこで同調率を上げ過ぎて、走り切れなくなってしまったのさ。」

「それで結句を作ることができなかったんだ。」

「まあ、本当は結句こそ示し合わさないと作れないんだがな。」

「え? でも聖兄とアタシの結句あるよ?」

「俺は王だからな。玉もよく頑張ったが、凛の突然のアドリブに対応するのはちぃと難しすぎた。それじゃ、俺らの見てくか。」

「う、うん。」



【女句】

《寝静まり ひっそりニイニに 近づくと わざと崩した? 肩の天秤》

【結句】

《喧嘩して 別れたあとの 隣部屋 無線で紡いだ 恋のペアリング》

【男句】

《向けた背を 戻して崩した肩を抱き 》



「見ての通り、俺の方は途中で終わってる。」

「実は間違えちゃって、ニイニの返歌、結句にしちゃった。その、だから慌ててニイニにしちゃって。」

「え? てことは本当はこれ、俺だったの?」

「あ……。」

「おい、大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ。ちょっと集中しすぎたか?」

「ひ、聖兄も、こういうのはドンチンカンって感じで助かる……。ぐにゃぁ。」

「ま、まあともかく、あんまり関係性のない短歌が並んでしまったが、ちゃんと紫に紡がれてる。」

「あれ、そういえば同じ色の紫だ。これってひょっとして凄い?」

「ま、俺が合わせりゃこんなもん。」

「すっごーい! え? だって全部同じ濃さだよ! 男句以外は全部同じ紫!」

「やっぱり王はすごいな、聖兄。」

「ニイニ!」

「お疲れさん。玉は玉で大変だったろ。」

「ま、まあ結構今でも驚いてるんだけど、今まで一番長く詠めた。」

「ごめんなさい!」

「凛姉……。」

「凛が謝ることはない。すべては玉の力不足だ。」

「ちょ、さっきと言ってることちが……。」

「男なら、ちゃんと合わせてやれ。」

「……すいません。」

「謝る方間違えてるぞ。」

「……凛、ごめん。」

「私が悪いんです。勝手に、でも、どうしても詠みたくなって。だって、永萌が言ってくれたこと思い出してしまって。」

「アタシ?」

「(お互いに好きだから、互いに譲り合ったり、互いに主張し合ったりするんだよ。そういうもんだって。)って。」

「あ、たしかにそれ言った」

「だから、その、透、……………………好きだよ」

『!?』

「お、凛も言うようになったな」

「兄さん。」

「……すまん、確かにそういう空気じゃなかった。いやほんと、殻破ったよなって意味で言ったんだ。申し訳ない。」

「確かに、凛姉がデスマスの壁破ったの初めてかも。」

「え?」

「だよねニイニ、ニイニ相手でさえそういう壁あったもん。」

「え? あ、ああそうだっけかな。」

「ニイニ、もしかしてさっきの言葉聞き逃した?」

「いやちょっと待て、ちゃんと聞こえた。聞いたよ。でも、そこまで気が回らなくて。」

「いやー若いっていいねー。」

「て、店長!」

「店長、ご無沙汰しております。」

「うん、王もなかなか面白い催し物をしてくれたね。なかなかよかったよ。ほら、そろそろAIの結果が出るよ。」


《A win, B lose》


「Aってことは……」

「俺と凛の勝ち……」

「おめでとう!」


 パチパチパチパチ。


「え? なんで? 結句あるアタシらの方がよくない? 紫って難しいんでしょ?」

「そうだなー、このゲームは見えないノーツを踏む音ゲーみたいなところがあるから、互いに同じ濃度で紫色を出すというのは、相手のノーツを踏むタイミングをちゃんと狙って踏むことになる。王はそこら辺をうまく、本当にうまくやってのけたと思う。だけどAIは」

「俺と凛の《歌の》つながりを評価した……。」

「そう、男女の想いの同調よりも、短歌どうしの繋がりを意識して評価したのかもしれない。おそらく透君と凛ちゃんの歌には、なにか相当な意味があったとAIは判断したのだろう。」

「そ、そうなのか?」

「まあ、いずれにせよ、俺は負けた。王が負けたのはオンラインの連中も、オフラインの連中もあんまり気乗りしなかっただろうが、ま、これはこれでいいんじゃないかな? 透、おめでとう!」

「聖兄……。」

「もっとも、大会までにはちゃんと結句まで詠み切るこったな!」

「あ、そうだった。」

「もう、ニイニどうしたの。なんか抜けてるよぉ?」

「あ、ああ。」

「さ、今日は帰ってまぜそばだ! 今日は透のおごりな。」

「は?」

「お前まさか、凜におごらせるつもりじゃないだろな?」

「……わかった」

「よーい! ドン!」

「……一人で行っちゃいましたね。」

「待ってよ聖兄ぃ! まてー!!」

「私たちも行きましょう?」

「凛。」

「は、はい……。」

「気持ちは本当にうれしい。本当にうれしいんだ。今でも、その、涙こらえるので精いっぱいだ。だけど。」

「……」

「俺たちが積み上げてきたこと、積み重ねてきたこと、勝手に変えないでくれよな。」

「あ、ちょっと透、とおる! トオル!! …………透・・・。」


「おう、遅かったな。一番乗りで先に注文すませ……」

「……」

「……凛はどうした?」

「……」

「お、おいおい凜は」

「ごめんなさい!」

「ニイニ……?」

「たぶん、凜は来ない。」

「ど、どういうことだって」

「俺は、凛と付き合う資格がない。」

「????」

「い、いや待て、落ち着け、話し合おう。話せばわか」

「……これ」

「お、おう。」

「聖兄の好きな濃厚油そばだと思うから、3600円」

「ちょ、ちょっと待った!」

「それじゃ……」

「ニイニ待って!」

「……萌。」

「振り返る元気があるなら、食べてこ? きっと疲れてるんだよ。凜姉と何あったか分かんないけど、きっと来るよ。私分かる。断言する。」

「萌ちゃん」

「聖兄、連絡しちゃだめだよ。凜姉は絶対に来るから。」

「わ、わかった。でもなんで」

「女の勘! それ以上しゃべらん!!!」

「はい!」

「ニイニは……こっち空いてるよ?」

「……萌、おれ」

「いいからいいから」

「萌ちゃん、意外と手厳しいね……」

「聖兄、両手に男ってなんて言うの?」

「両手に……はちみつ」

「じゃあ、いま貢いでるのどっち?」

「萌ちゃん、申し訳ない!」

「どっち!!!」

「……透です。」

「はい、濃厚油そば、左の方からトッピングどうぞ」

「……ニンニクマシマシマヨマシマシ」

「ちょ、透それ、腹壊しちゃ」

「お客様は」

「私も同じで」

「萌ちゃん!?」

「お客様は」

「……同じで」

「最後の一丁なんですが……」

「俺が食べます。」

「透、おま」

「トッピングは……同じでよろしいですね?」

「はい。」

「お、お前、凛と何があっt」

「いらっしゃいませー。」

「凛姉!」「凛! お前、そのまぶたと頬、どうしt」

「そのまぜそば、私のですよね。もらいます!」

「お待たせしました。」

「り、凛……」

「お客様に申し上げなければならないことがあります。」

「は、はい。な、なんでしょう」

「実は今の時間帯は貸し切りになってまして、私たちが間違えてお客様をお迎えしてしまったわけなんですが、どういうわけか急に予約キャンセルが入りまして。2時間ほどお客様の貸し切り状態になりますが、それでもよろしいでしょうか?」

「は、はあ。」

「はいはーい!」

「萌ちゃん……。」

「それでは、ごゆっくりどうぞ。」

「よかったねぇ聖兄! まぜそばゆっくり食えるよ! ゆっくり!」

「あはは……」

「凛姉、どっち座る?」

「どっちって、あ……。」

「両手にみつみつだよアタシ。どうしよっかなー」

「私は、ど、どっちでも……」

「凜姉ぇ、まぜそば伸びちゃうー。」

「……」

「(なに迷ってんだ! 俺のこたいいから早く透のそば座れ! 早く!)」

「……」(「透。私を見てはくれないのですか……振り向いては」)

「いただきます。」

「ま、待って!」

「……」

(「やっぱり、振り向いてはくれな……」)

((「お互いに好きだから、互いに譲り合ったり、互いに主張し合ったりするんだよ。そういうもんだって。」))

「……」

「そういうもんだよ、凛姉。」

「永萌。」

「(はーやーくー!!!)」

「……し、失礼します。」

「??!!」

「(も、萌ちゃん。結局ちゃんと座ったけど、これ、どうなるん?)」

「(ここからは私も分かりません。二人に任せましょ。それより聖兄、ニンニク食べて?)」

「(……もえちゃんには敵わんなぁ……。)」

「(これでもニイニの妹ですのでぇ。)」


「透。」

「……」

「私……張り合い、ないかな。」

「……」

「張り合い、ないのかな」

「……」

「私がんばるから。頑張るから、だから……。」

「……」

「……透」

「食べなよ。……伸びちゃうぜ」

「!……」

「食べないなら、俺が」

「お互いに好きだから!!! 互いに譲り合ったり! 互いに主張し合ったりするから!!」

「!……」

「そう、永萌に言われた。」

「……萌のやつ。俺の言葉を」

「え?」

「まったく。俺は本当に……どうしようもないな」

「そ、そんなことは」

「歌も余も 詠まるる頬紅 憧憬の 先々観へぬも 其方と読みしか。」

「……!」

「10年前、5年間も()座に居続けた歌人の短歌ならしい。E-スポに認められるために奔走してく過程で詠んだ歌だそうだが、どう考えても恋歌にしか見えない。」

「……」

「別にE-スポにこだわる必要はなかったはずだ。短歌なんてコミュニティ、ざらにあり過ぎるほどだ。当時でさえ、そんな感じだ。」

「……」

「きっと孤独だったんだ。世界に短歌広めようなんて無茶して、しかも国内でも過疎ってた短歌なんて世界に広がるはずないのに、それでもやろうと、やり遂げようとして、結局今の世の中さ。海外はおろか、日本でさえも、和歌じゃない限りは俗な川柳と揶揄されてきた。」

「透……」

「それでもその人はやり遂げた。なんで戦争が主流タイトルばかりのE-スポの世界で、しかもたかが短歌なんかにそんな情熱注いできたんだろうな。誰にも理解されず、誰からも認められることもなく、下手したら散ってしまってたかもしれないのに。」

「透きいて!」

「なんで、こんな世界作っちまったんだろうな。ああ全く、ほんと……無くなってしまえb」

「Yes, we could. Don’t love me by yourself. If you have to, I need you, too.」

「…………凛……それ。」

「あの時の英訳です。むしろこちらが先でした。たぶん、知ってたんですよね。あの歌も、この歌も。」

「……ああ。」

「あっ……もうこれニンニク効きすぎですよ。マシマシにしましたね?」

「ごめん、俺がトッピングして、つい……。」

「Yes, we could. Because already can.」

「そ、それも?」

「そうです。私たちはできたのです。なぜなら、もう既にできるのですから。」

「凛……。」

「さっきの短歌の元ネタみたいですよ。」

「……」

「さ、食べましょう。永萌も兄さんもそろそろ食べ終わりそうです。」

「あ、ああ。そだな。」


「……なあ、凛。」

「はい。」

「俺たち、結局どっちだったんだろうな。」

「お互いに譲り過ぎたと、私はそう思います。」

「……やっぱりそうだよな。」

「ごちそうさまー!」

「萌ちゃんはっや!」

「ニンニクないから楽勝らくしょー!」

「お、俺も負けてられん! うぇっぷ」

「に、兄さん大丈夫ですか?」

「案ズルナ凜ヨ、俺ハモウジキ、がはっ」

「なんだかんだで食べきれそうで、何よりでした。」

「イ、イカナイデ! 置イテカナイデーー」


『ごちそうさまでした。』

「恐れ入りまーす。」


(「……Yes, we could……か……」)


「さぁて、みんな、走るぞ!」

「??? 兄さん、この後どこか向かわれるのですか?」

「あのな、みんな自分のお腹のこと気にした方がいいぞ。」

『……』

 ぎゅるるるるるるるるぐぎゅうううるるるるる

『ぬあああああああああ』

「ほぉれみろ、言わんこっちゃない。」


いかがでしたでしょうか。現時点では第七句まで書き溜めておりますが、そのうちどこかで失踪するかもやしれませんので、できる限り早く完成させて、全句投稿を目指したいと思っています。


小説の執筆経験は学校の課題でやらされたくらいで、ほとんどありません。

至らないところ数々あるかと思いますが、それでも面白いと思って読んでもらえたらこの上なく嬉しい限りです。

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