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少女はテンプレ公爵令嬢に転生したようです

作者: 暁 銀花


その直前まで。1人で歩道を歩いていた。沈みつつある夕日を眺めながらも特になにか思い悩んでもおらず、しいて言うならスーパーの袋を片手に夕飯の献立は鶏の唐揚げとソテーならどちらが良いだろう、とぼんやり考えていた程度で。

学校でいじめられていて悩んでいた訳でも、ニートで家を追い出されかけたり逆にチートなほど順風満帆な人生を送っていた訳でもない、普通に一人暮らしの女子高生として存在していて。小さな紆余曲折はあれどそれについてはなんとも思っていなかったから、本当の本当に現状に不満など無かった。髪を切りたいな、と思ってはいたけれど、それさえも時折ある日常のひとつであり不満とは呼べない。いつも通りただ家に帰る道をてくてく歩いているだけの、繰り返している生活の一つだった。


突然の事だった。信号を待っていた私の前で、隣をすり抜けて女の子が車道に飛び出した。随分走っていたようだし、急いでいたのかもしれない。女の子は信号も見ていたか危うく、当然車にも気付かなかった。

横からトラックが来る事に気付いて、ほぼ同時に危ないと女の子の手を掴んだ。

小さな手を引っ張って、安全な所へ…私がいた場所へ女の子を投げ出すように場所を交代して、急ブレーキやクラクションの音がうるさいと感じた時にはもうトラックが目の前にあった。文字通り、目と鼻の先にだ。軽自動車ならまだ怪我で済んだだろうに、と考えても詮無い事を思った所で記憶は途切れている。

あの可愛らしい女の子は、無事だっただろうか。目の前で人が車に轢かれるなんて出来事にトラウマを残していなければ良いが。散らかった思考の中、死んでいるのかも分からない揺蕩うような状態であっても自分に興味なんて湧かない。

こんな所で死ぬなんて、予想もしていなかった。だけどその後、もっと予想出来ない事が私に降り掛かった。


__________



私の想像は、ある意味では間違っていたしある意味では合っていたのだろう。

日本にいた頃であれば目を輝かせていただろう豪華な部屋を見回して、居心地の悪さにため息をつく。

確かに、つい先日までこの部屋で普通に過ごし、くつろいでいた記憶がある。しかし、それは「私」が目覚める前の話だ。

一週間前、「わたくし」は熱を出した。

流行り病にかかったせいだ。死ぬ確率もそれなりにあったようで、五日前目が覚めた時に、傍にいた乳母やお母さまがホッとしたように涙ぐんだのを覚えている。

その後、ゆっくりと回復していたわたくしの体は再び高い熱をだした。こうなったら80%の確率で死んでしまうと言われ、お母さまは泣き崩れお父さまは仕事が手につかない状態だったとか。

それでも残りの20%にかけてくれたお医者さまは凄いと思う。おかげで、わたくしは今微妙な気持ちを抱えてはいるけれど、病気を引きずることも無く生きている。

わたくしを死のふちから救ってくださったのはうれしいけれど、前世の記憶に目覚めたのは正直に言ってうれしくない。


「私」が日本人女性であったこと、それからヲタク、腐女子、某掲示板を徘徊するという三重苦を背負った喪女で、恋人もおらず乾いた人生であったことを言えば理由を察してもらえるかもしれない。

漫画、アニメ、ゲーム様々なものを如何に周囲にバレないようにプレイするか、それに命をかけていた。漫画もアニメもゲームも、すべてパソコンにダウンロードされ、ファイルの見た目はカモフラージュしてあり、その上でパスワードをかけてある。グッズは買わない主義だし、本当にパソコンさえ見なければ家宅捜索を食らってもバレないようになっていた。ただ一人だけいたオタク友達にはそのパソコンのパスワードを教えてあるので、きっと遺品として楽しむか完膚なきまでに破壊して処理してくれていることだろう。


様々なゲームの中でも私は、乙女ゲームと言われるものをプレイするのが多かった。可愛い女の子が見目麗しい男達と仲良くなるのを1番近くで見ることが出来る事が嬉しかった。誰にもバレないようにひっそりと、二次元の世界を楽しんでいた。その中の一つに、『ローズ・ガーデン』という名前のものがあった。ありふれたゲーム名だが、ヒロインは可愛らしく男前で、攻略対象もそれに負けないくらいかっこよく幅広い種類が取り揃えられ、乙女ゲームには珍しく大きく話題になり、人気も出たゲームだった。

アニメ化、コミック化もされたそれに私自身がハマり込む事はなかったが、ネット上では自力で好きなキャラクターの等身大フィギュアを作り出す猛者までいた。3Dプリンターがそれなりに普及していたとはいえ、すごい情熱だ。


そこまで人気が出た理由は2つある。一つは、声優が豪華でゲーム内容がとても充実していたこと。これが主な理由だ。一人の攻略対象に対して五つ程エンディングが分岐していたと言えばわかってもらえるだろうか。

もう一つは話題になった理由だが、主人公を含めた全キャラクターの名前が薔薇の名前であったために物珍しさがウケたのだ。薔薇の名前は実在の人物から来ている事も多いらしく、それを人名として逆輸入したらしい。題名もそこから来ている。

敵である悪役令嬢の取り巻きや、名前が1度しか出ない同級生までもが豪華に薔薇の名前をつけられていた事で、名前の無駄遣いとか攻略対象を増やしてそちらに回せとか色々言われていた。主に某掲示板で。


まあ、それはもう良いだろう。なにせ私は死んだのだ。

そして、転生した。シャーロット・オースチン…『ローズ・ガーデン』の悪役令嬢に。

わたくしは、オースチン侯爵家の長女として生まれてきた。優しいお母さまに、厳しいお父さま。そして、大きなお家。お父さまに仕える人はたくさんいて、全員の名前を覚えるのも難しいほどだ。

わたくしに付いている人の名前はかろうじて分かる。

表向きは10人いるかいないかだけど実は他にもいる。時々天井から感じる視線や、お庭で遊んでいる時の視線。忍者。こちらの世界での名前は変われど同じものだろう。彼らは密やかにわたくしを守っている。わたくしだけではないけれど、1番幼いわたくしをお父様さまと同じくらい厳重に守っているのだろう、というのは分かる。お父さまに、その事について聞いたら名簿を見せて貰った。履歴書のような個人情報がびっしり書かれていて驚いた。

それにしてもお父さまはわたくしに対して本来なら見せては行けない情報のガードが緩いような気がするけれど、ご令嬢ってそういうものなのかしら。悪役令嬢補正?


話が逸れてしまいました。

とにかく、前世では平凡な部類であった私が、上位何%かの貴族の世界にいる。

わたくしとして、転生した。

異世界に転生した事も、それを思い出したことも、…よく分からないけどなるようになるだろう。泣いても笑っても変わらないのだ。

ただ、現在は問題がある。由々しき問題だ。前世を思い出してしまった大きな弊害ともいえる。

眠れないのだ。高級ホテルも泣き出すレベルの豪華な部屋に、わたくしが5人は寝転がるっても大丈夫そうな大きなベッド。そして、これまた豪華な天井を通していても熱い視線。以前は生まれた時からのものだからそのどれにも慣れていた。

しかし、人から見られていない狭い所での睡眠、という快適な経験を思い出してしまった今は眠れない。

私もわたくしも、気配には聡いのだ。天井裏に何人居るかまでは分からずとも、居るという事は分かる。

それで眠りにくいだけでなく、部屋と布団も豪華なせいで余計眠れない。私は枕が変わると眠れないタイプだった。変わってないけど。変わったのはわたくし…いや、私の方だけど!

おまけに、まだ体調も悪い。熱は下がったものの微妙なだるさがある。睡眠不足なのだろう。

前世ではずっとこの重だるい感覚に支配されて、結局運動のうの字も無かった。MMOの世界で素材集めに走り回ってはいたが。あのキャラクター、魔法使いだったけど間違いなく私より健康体だっただろう。と、また話が逸れた。

とにかく、今朝方思い出した時にはなんともなかったのにこんな所で弊害が出て焦るなんて。

ほんと、どうしましょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] (^^)ノシはじめまして 何だか、長編のプロローグのような気がする♪
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