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咲夜修行中!~火傷娘と先輩の。退魔師修行、ことはじめ~  作者: 弓弦
第二章「神守の少女と少女の刃」
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エピローグ「未来を察し笑う者」


(りん)様……その、今回の一件は一体……? いくら分家とは言え、影喰(かげはみ)を授けるなど……」


 朝の光が差し込む座敷で、強面(こわもて)のスーツ姿の男が冷や汗を垂れ流しながら、髪を二房緩く垂らした幼い少女に向かって問い詰めていた。その表情は『決死の覚悟』を決めて天子に奏上する家臣のようであり、よく見れば、正座した膝の上に乗せられた男の両手はカタカタと震えていた。


「――ええやんええやん。どうせ、あんなもん霊力不足で誰も使われへんガラクタなんやさかい。……むしろ、今回使って見せた咲夜ちゃんに、積極的に使こて()ろた方が、よっぽどええわ」


 しかし、それに答える少女はとりつく島も無い様子で、ケラケラと笑っている。その無邪気な笑いに、諫めようとしていたはずの男は表情を絶望に染めた。


 ――顔を伏せ、震える手を握りしめて。

 ――男が再び顔を上げた。


「しかし……」


 なおも男が反抗しようとした時――少女の瞳がすっと細くなった。

 瞬間、室内の空気が重くなり、鋭さを増す。


「――一応、ウチがあれの管理者なんやさかい、文句言われる筋合いはあらへんよ?」

「――はっ! 申し訳御座いませんっ!」


 ――折れた。


 少女に睨み付けられた男は、平伏するように畳の上に頭を擦りつけた。全身を(おこり)のように震わせて、ただ――助けを求めるように。容赦を求めるように頭を下げ続ける。


 目の前で、額を畳に擦りつける五十代ほどの男をみて、少女は軽くため息をついた。話題を切り替えるように、細く息を吐き出すように言葉を続ける。


「……まあ、これで、うちらは能力が未知数の人造神器の使い手と、高天原(たかまがはら)の住人に並ぶ神さんを引き入れたっちゅうわけや。後は――あちらさんの術を使えるかやな」

「……『石』を使われるのですか……?」


 少女の怒気が弱まるのを感じたのか、男が顔を上げながら問い掛ける。


「せや。まあ、一月あればなんとかなるやろ」

「――しかし、それだけの存在を野に放ったままというわけには……」


 男が眉を寄せながら、深刻な様子で懸念を口にすると……

 少女は――ニィっと唇の端を吊り上げた。


「――せやなぁ……ええ事言うやんか? あんな(、、、)弱々(、、)しい(、、)妖魔(ようま)一匹にも苦戦するような、二人だけ。――力与えて、放っとく訳にはいかへなな?」

「は、はぁ……」


 なぜか、弾むように、愉しむように。愉悦の響きを込めて語る主人の姿に、戸惑いを浮かべる男を見て、少女は無邪気に顔をほころばせた。


「なあ、ウチが着るんやったら、セーラー服とブレザー、どっちがかわええと思う?」


 そう言って、少女はどこからともなく冊子を二冊取り出した。


「――一体何の……」


 男は、軽く身を乗り出すように少女の手元を覗き込み、その内容に顔を引き()らせた。

 二冊とも、表紙で学校の制服に身を包んだ見目麗しい少年少女達が、写真映えを意識したポーズをとっている。


 二冊の違いと言えば、それぞれセーラー服かブレザーかという所だろうか。


 いずれにせよ……それは――『学校案内』と呼ばれる(たぐ)いの物だった。


「いやー、それだけの存在の様子をみるんやったら、ウチが行かなしゃあないやろ? 一応、そうなったら名目だけでもウチも学校に通わなあかんよってになー? 取りあえず近場で見(つくろ)ってんけど、最後二校で迷とってなー」


 片手を振りながら薄笑いを浮かべている少女を見つめ、呆けていた男の顔に段々と理解が広がっていく。


 ――男は動揺を示すように、はっとした表情で畳の上に両手を強く打ち付けた!


「――まさか! 今回の一件初めから――ッ! ――そもそも妖魔を見逃したのも、咲夜様が影喰を起動するまで手出しされなかったのも――すべて、すべて――それだけの(、、、、、)ために!?」


 少女は、ともすれば責められているようにも思える状況の中、片手を品良く口元に当てながら喉の奥をくっくと鳴らした。


「――さて、何のことやろか? ウチは、ただ――神守(このもり)の利益のために動いとるだけやで?」



 そう言って、少女は――再び妖しく。

 ――愉しそうに笑うのだった。



***



「――まあ、言うても、ほんまはどっちの学校にするかはもう決めとるねんけどな……」


 呆然とした男が出て行った後、部屋の中で少女――お凜はそう言って一通の手紙を取り出した。

 そこには、お凜がある男に当てた手紙と――それに対する返信が書かれている。


 お凜はその中の一カ所を楽しそうに眺めていた。


【着るのが咲夜ちゃんなら、セーラー服とブレザーどっちが可愛いと思う?】


 流暢な筆文字で書かれたその文言の後には、書き損じでもしたのか、しばらく黒く塗りつぶされた文字列が続いている。そして、それに続くように、ボールペンか何かで書かれた几帳面(きちょうめん)な文字が次のように書かれていた。


【さっきの私の答え通り、君がもしセーラー服を着るのなら、ブレザーが良いのでは無いだろうか? そもそも、今の制服がブレザーだ。あまり、他の服装というのはイメージしづらい】


 お凜はその文字を見て、悪戯を試みる子供のようにふっと笑うと、手紙の上で手を振った。

 すると、執拗(しつよう)に塗りつぶされていたはずの黒ベタの部分がみるみる浮き上がり――消えていく。


 ゆっくりと、その下の文字が浮かび上がってきた。


【どっちでも。咲夜なら、どちらを着ても可愛いだ――】


 その文字を見た瞬間、お凜は笑いを堪えるように肩を振るわせた。

 ――しばらく耐えた後、ようやく大きく息を吐き出す。


「――何が『イメージしづらい』や……ばっちり想像しとるやんけ……」


 誰も居ない部屋の中で一人顔をニヤニヤと歪めながら、行儀悪く肘掛けの上にもたれかかり、お凜は呆れた声で楽しそうに呟いた。



「ほんまに、穂積の(あに)さんはむっつりやなぁ……」




それでは、『咲夜修行中!』第二章が終了です。次回更新は、およそ一月後の予定です。

また、詳細が確定しましたらお知らせします。

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いつも応援・ご評価ありがとうございます。

おかげさまで、ジャンル別日間ランキングで19位を頂くこともできました。
これからも、お付き合い頂ければ幸いです。

*******↓ 『もうひとつ』の物語 ↓******

「ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。」
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