その新入生、目が死人につき
この章はシエルの学生の頃の暗黒時代を描きます。
ダンジョン学園。そこはダンジョンフェアリーが一人前にダンジョンの運営及びその補助をするための基礎を学ぶ学校であり、毎年五十名あまりのダンジョンフェアリーが入学するが、三年後卒業できるのは平均的に片手の指で数えられる程度でしかない。
そんなダンジョン学園の入学式が、今日執り行われていた。
ダンジョン学園の入学式は生徒と教師の他は、特別に招待された卒業生のダンジョンフェアリーのみが参加を許されるため、千人は入る講堂にも拘わらず集まっているのは百人足らずであり、生徒たちは全員黒いローブに黒い帽子を被って長い椅子に座っている。
壇上では、黒い狐の仮面を被った男――校長の長い話が続いているが、誰もかれも真剣な眼差しでそれを聞いていた。特に新入生は気付いていた。上級生、つまり自分よりもひとつ、ふたつ上の先輩の数が自分たちの数の半数にも満たないことに。入学は誰でもできるが卒業が困難――上級生の数がそれを物言わず伝え、彼らを緊張させた。もう勝負は始まっている――と。もちろん、そんな緊張も一カ月もしないうちに消えてなくなるのだけれども。
「校長先生、ありがとうございました。続きまして、新入生代表挨拶――シエル・フワンフワン・シャイン初等生どうぞ」
と校長が壇上から去り、生徒会長の女性が新入生を壇上へと誘う。
新入生はゆっくりと階段をあがり、壇上の中心に行く生徒を見る。新入生の代表ということは、入学時に行われた試験において最も優秀な成績を収めた生徒ということになる。即ち、もっとも卒業に近い位置にいる女性ということだ。
壇上にあがった、見た目十歳程度でしかない眼鏡をかけた黒髪の少女――帽子も服のサイズもぶかぶかで、見ていて危なっかしいが、それでも彼女を心の内で揶揄するものなど誰もいない。
少なくともそこにいる新入生全員が、彼女に劣っているのだから。
(いまはまだ)
誰もがそう思った。
「本日より私たちダンジョンフェアリー新入――」
そして――シエルが口を開いたところで、
――バキッ!
変な音とともに、シエルの体がそのまま落下して、首から上だけが壇上に残される。床板が割れたのだ。
((((((うわぁー、悲惨っ!)))))
笑い出す者がいなかったのは奇跡としか言いようがない。顔だけが壇上に残っている絵が逆にシュールで、どうせなら全身消えたほうがわかりやすかっただろう。
だが、ここから新入生たちは度肝を抜かされることになる。
「ダンジョンフェアリー新入生五十名、ダンジョン学園の一員となりました」
((((((続けたぁぁぁぁぁっ!?)))))
何事もなかったかのように新入生代表を挨拶を続けるシエルを見て、助けに行こうとした生徒会や職員たちも足を止めてしまう。そして、三分にも及ぶ新入生代表の挨拶は本当に滞ることなく終了したのだった。
挨拶終了後、生徒会の役員によって救助されたシエルに、生徒会長は言った。
「大変でしたね。怪我はありませんか?」
「はい、怪我はありません。それに、いつものことですから」
そう呟くシエルの目は、希望に満ちているはずの新入生とは違いとても暗く沈んでいた。
生徒会長はそれが挨拶の時に床が抜けたからだと思ったのは無理もないことだろう。彼女は知らなかったから。
壇上に上がるその前から、彼女の目は今のように死んだ目をしていたことを。
この物語は、不幸と貧乏に愛されたシエル・フワンフワン・シャインの涙無しでは語れない物語である。
尚、この物語は検索除外のままにする予定です。
裏設定は裏にいるべきですから。
ギャグテイストの短編は割り込み投稿で追加していきます。