その釣り、ウナギ目当てにつき
一日早いですが、丑の日ネタです
ダンジョンのボス部屋の奥のプライベートエリアで、いつものように俺とシエルとロリサメが話していた。
いつも俺とシエルのふたりがいて、ロリサメかアドミラが来るというパターンが多い気がする。
まぁ、ロリサメは狩りで、アドミラは畑の手入れで忙しいのに対して俺たちがするのはほとんどがダンジョンの警備と内政系だからな。
今、王都の中級層で流行りの自宅警備員みたいな職業に似ている気がして嫌になる。
「ウサギ取り?」
「ウサギじゃない、ウナギだ」
シエルの本気のボケを俺はきっちり訂正した。本当にこいつは学校で習わないことに関しては無知だな。
まぁ、ウナギを食べる文化はこの大陸でも珍しいから仕方がないのかもしれないが。
「ウナギというのは魚の一種でな――夏にはそれを食べるのが東国の慣習なんだ」
と俺はロリサメに説明の続きを促す。
「はい。土用の丑の日にはウナギを食べて夏バテを解消しようと、かつて将軍のお膝元――王都のウナギ屋が宣伝をはじめたのがきっかけでして。詳しい日程はわかりませんが、そろそろそういう季節になりましたから、ご主人様にも召し上がっていただこうと」
「召し上がっていただこうって、精力の塊みたいなタードにこれ以上精力をつけさせたら、アドミラの身が流石に持たないと思うんだけど」
とシエルが失礼なことを言ってきた。
まぁ、その通りなので否定はしないが。
「そういえば、シエルって釣りとかはしないのか? なんかお前の学生時代はサバイバル生活だったと思ったんだが」
「釣りに行くと必ず滑って池に落ちるのよ――私って不幸だから」
「それって不幸じゃなくてただのドジだろ」
「あと、釣りって運の要素があるからほとんど釣れないし」
「あぁ……」
確かに釣りは実力もさることながら、運の要素も確かに強いよな。シエルには向いていないかもしれない。
「学校の近くの川で魔法を使って魚を獲ったら生態系が荒れるから二度と来るなって言われたし」
「それはお前が悪い」
シエルが本気になれば川の魚が全滅していそうだ。最近、ダンジョンの周りで見つかる山菜の数が減っているとアドミラから報告を受けてはいるが、それもこいつのせいではないだろうか?
……シエル、恐ろしい食い意地。
「それで、タード……ウナギってこのあたりにもいる魚なの?」
「いや、ロリサメの調べだとこのあたりの川や湖にはいなかったよ。ただ、今回もキラーアントの情報が役に立ってな――混沌の迷宮のキラーアントの巣の北に、ウナギらしき魔物がいる湖があるらしいんだ」
「……それ、実はウナギじゃなくて蛇だったってオチとかじゃないでしょうね?」
シエルがそんな風にジト目でオチを潰しに来た。もしも本当にそうだったらどう責任を取るつもりだ。
※※※
ということで、混沌の迷宮にやってきた俺たちは、キラーアントから教わった湖へと向かった。
「釣りなんて久しぶりだな……ん? 久しぶり?」
相変わらず変な記憶のせいで俺は混乱しながらも、釣竿片手……片触手に意気揚々と向かう。
「タード……私の帽子の上ばかりじゃなくてたまには自分で歩いてよ……それが嫌ならムラサメの頭に乗ってよ」
距離がちょっと長いからか、シエルがいつも言わない文句を俺に言ってきて、前を歩く、木の杭を持って歩くロリサメを指さした。
まぁ、俺の体重はなんだかんだいって五キログラムくらいあるから、しんどいとは思うけど。
「ロリサメの頭は小さいから安定しないんだよ」
それに、外見が大人の頃のムラサメも頭が固くて、まるで石の上に座っているみたいだったからなぁ。
「そういえば、タード。なんで私を連れてきたの? 私と一緒にいるとウナギが全然釣れないと思うんだけど」
「あぁ、それはだな――」
「ご主人様、湖が見えてきました」
と俺が説明しようとしたら、先頭を歩いていたロリサメが湖を発見したという報告をした。
そして、すぐに俺にもその湖が見えてきた。
「あれって湖というより沼だな……」
近付いて見てみると、緑色の藻が大量に浮かんでいて水の中の様子は見えない。
「シエル、敵探知を頼む。何もいない沼に釣り糸を垂らすのは嫌だからな」
「わかったから頭から降りてくれない? さすがに首が痛いのよ」
「わかったよ」
と俺はシエルの帽子の上から飛び降りた。
そして、彼女は魔法を唱え、
「いるわね。見た目ではわからないけどけっこう深い湖みたいで、水深十メートルあたりに三十五匹のパラライールの反応があるわよ」
「水深十メートルか……まぁいけるな」
俺は木の杭をロリサメに打たせた。
「タード、その杭は?」
「俺の場合、体が軽いから獲物が強いと体ごと持っていかれるだろ? だからこれに絡みつかないと危ないんだ」
ひとりで釣りをするのは少し命がけだ。
「……意外と不便なのね、スライムの体って」
「まぁな――じゃあ釣りを始めようぜ」
と俺が言って、全員で竿を振り、餌のついた針を投げ入れたその瞬間だった。
いきなりシエルの竿に当たりがあった。
「え? 嘘っ!? どうして!?」
「そんなことはどうでもいい、はやくリールを回せっ!」
とシエルは必死になってリールを回す。なぜか獲物はほとんど暴れる様子もない。そして、蛇のような魚影が見えると同時にシエルが竿を振り上げ、ウナギが見えた――その瞬間だった。
糸がぷちっと切れた。
ただの不幸な女ならば、きっとウナギはそのまま湖に落ちただろう。
だが、シエルは俺の予想通り一味違った。
糸が切れて自由の身になったウナギだったが、慣性の法則には逆らえなかった。
つまり、上へと大きく飛んだのだ。
そして、そのまますっぽりと入る。
シエルのローブの中に。
「ひっ――ひやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
涙とともに叫び、ローブの中に手を突っ込むシエルだが、ウナギは必死にローブの中をうねうねと動き、しかもその表皮はぬるぬると滑るのでシエルは捕まえられない。
「さすがはシエルの不幸気質――お約束を見逃さないな」
シエルを連れて来たのもこの展開が予想されたからだ。
「そんなことで感心していないで、タード! 助けて!」
「おぉ、わかった。今すぐ助けてやるぞ」
と俺が触手を伸ばすと、シエルの顔が引きつった。
「タード……やっぱり手助けは必要な……きゃぁぁぁぁっ!」
とシエルの言葉を遮るように俺の触手が――
【自主規制につき中略】
こうして、無事に大量のパラライールをゲットしたが、シエルはパラライールの麻痺攻撃のせいでその日一日身動きが取れなかったのはお約束であった。ただ、ひとつお約束でないのは――
「……おいしい……幸せ」
翌日元気になったシエルが残ったウナギを満足そうに食べていたことである。
この様子なら来年も釣りに一緒に行けそうだ。
触手描写が過激すぎるとBAN対象になるので、中略しています。
ご自由にご想像くだされば幸いです。
R‐18にする予定はありません。