そのベビースライム、使用上の誤りにつき
登場人物
タード:ダンジョンボスのスライム。変態。元人間。人間の頃の記憶なし
シエル:ダンジョンフェアリー。タードには絶対服従の制約。ちっぱい。不幸属性。
「シエル、お前バカだろ」
俺の――スライムの目に映った彼女の姿に、俺は思ったまま言った。
「タードのバカっ! 部屋に入る時は扉のノックくらいしなさいよっ!」
冷めた目で言う俺に、シエルは顔を真っ赤にして叫んだ。
ノックって、そもそもここは俺のダンジョンだから全部俺の部屋のようなものなんだし、ノックの必要なんてないだろうが。
「というか、本当にそれ、虚しくなるだけだろ」
と俺はシエルを改めてみた。
相変わらず、獣耳のようなものが生えた形の黒い帽子に黒いローブ、そして眼鏡という地味な姿。ただ、いつもと違うことがあるとすれば、胸に大きな膨らみがあるということだけだ。
そこにある膨らみというのは、女の子が持つ特有の膨らみではない。シエルの膨らみがそんなに大きいわけがないのだから。
「胸にベビースライム詰め込むってどういう神経してるんだ?」
「言わないでっ! ちょっと、ちょっと魔が差しただけなのよっ! そうよ、全部悪魔が悪いのよ。悪魔ドドクンデ様が」
「ドドクンデ様のせいにする十八歳はお前くらいだぞ」
悪魔ドドクンデとは、伝承の中にのみ登場する悪魔だ。子供は生まれたときは全員いい子だ。最初に悪いことを覚えるのは悪魔ドドクンデ様がそそのかすからだ。
その話が広まると、今度はこんなことをいう子供が現れた。
「僕が悪いことを言うのは悪魔ドドクンデ様が僕にそうしろって言ったからだ。僕は悪くない」
と。当然、そんな言い訳が親に通用するはずもないのだが、その言い訳だけは瞬く間に世に広まった。
「確かに、胸のサイズだけで言えばお前は子供だけどな」
「……だって仕方ないじゃない。牛乳を飲んだら胸が大きくなるんでしょ? だからいつ胸が大きくなってもいいように、予行練習をしていたのよ」
「予行練習? 俺にセクハラされる予行練習か?」
「そんな予行いやよっ! っていうか、それを予行練習するっていうことは本番がある前提じゃない」
「安心しろ、胸が大きくならなくてもセクハラくらいはいつでもしてやるよ」
「しなくていいわよっ! 私がしたいのは、胸が大きい人が言うセリフの練習よ」
「ほぉ……面白そうだな。やってみろ」
「え? それはいや――」
「命令だ」
俺の命令という言葉に、シエルは逆らえなくなる。
羞恥心で目に涙を浮かべて立ち上がると、
「……お、おっぱいが邪魔で足元が見えないわね……注意して歩かないと」
――ぶはっ。
思わず吹き出しそうになる。
「……あぁ、胸が大きいと肩が凝ってしかたないわね。誰か肩を揉んでくれないかしら――でもタードに頼んだら絶対肩だけじゃなくて私の魅力的な胸を揉んでくるのよね」
笑いをこらえるのも限界に近づいてきている。
「……タード、胸ばっかり触らないでよ。そんなに触られたらまた大きくなっちゃうじゃない」
「はははは、もう限界だ。っていうか、きっちり俺にセクハラされる予行練習してたんじゃねぇか、お前っ!」
「もう、笑わないでよっ! ってきゃぁぁぁぁっ!」
「今度はどうした?」
「べ、ベビースライムが私の胸を――本当の――」
「本当のちっぱいをどうしてるんだ?」
「ちっぱいって言わないで……ってもうやめてっ! お願い、吸わないで……」
「――生きてるベビースライムを胸の中に入れるからそうなるんだぞ」
と俺は触手を二本伸ばし、シエルの服の中に入れるとベビースライムをぐるぐる巻きにして引きずりだした。
そしてシエルは胸を押さえて頽れた。
「……タード、今どさくさに紛れて触ったでしょ」
と俺を睨みつけてきた。
「そんなに触ったらまた胸が大きくなるかもな」
「それを言わないでぇぇぇっ!」
当分シエルをからかうネタには尽きないな。