二時限目 学園前の日常
ここからは少しだけお姫様に会う前の話が続きます。
目覚めると、見覚えのない小屋のベットにいた。どうやら白ノ竜の故郷である場所へと無事に来れたようだ。
見回すとなんの変哲もない木造の小屋だ。ベットと机と椅子。それ以外は何もない。窓からはかろうじて町……というよりかは少し大きな村のようなものが見える。小高い丘のような場所に建てられているであろうこの小屋は周りに木々が少しなっており、過ごしやすいという意味ではいい物件のようだ。
とりあえずは小屋を出よう。
そう思ってベットから出たのだが、ここで机の上にある手紙に気が付く。
たぶん白ノ竜からの手紙だろう。……手紙に白ノ竜をかたどった絵がかいてあるからな。
手紙の内容はこうだった。
「拝啓セイヤ様。
この度は私の願いを聞き届けていただきありがとうございます。
何も知らずに異世界を堪能するのも楽しいかとは思いますが、少しだけ異世界について説明させていただければと思います。
まずはこの世界の名前は”マグナ”と言い、あなたの小屋がある町の名前は”フォルサ”。その町がある国は”セルヴィク”です。
最初にわかりやすく申しますと、”中世”のような世界観であり、魔法というもので科学と同じようなことをしながら暮らしているということです。
生活水準は日本より少しだけ劣っているという所でしょうか。魔法というのは偉大ですね。
さて、セルヴィクで使われている通貨は一応ありますが、”マジックカード”と呼ばれる魔法で作られているクレジットカードのようなものが使われるのが一般的ですね。
ですので最初は町へ赴き、役所でマジックカードを貰うのが良いでしょう。
マジックカードは身分証明書にもなりますので損は無いはずです。
世界事情につきましては、私は長らく日本にいたので詳しくは話すことができません。
この世界に導くにあたり、外見などは10代後半に見られるようにしましたので、学校に通うのも一つの手ですね。
最後に小屋の外に私の分身を控えさせております。
今後はその子と共に私の同胞たちをお導きください。
敬具」
うむ……大体は理解できた。しかし分身?
最初のパートナーのようなものか。まるでポ○モンだな。
さて、外に出るか。
「おぉ……」
小屋の外は清々しい風が吹いていた。周りは奥が見渡せる位の感覚で木々が生い茂っており、草を踏む感覚でさわやかな気分になる。
日本でも緑の多いところに晩年は住んではいたが……それも追いつかないような自然の雄大さが感じられる。
……さて、その小屋の裏手というか、その小屋以上の大きさであろう白いドラゴンが見え隠れしている。
「君が白ノ竜の分身か?」
『はい。分身とは言いますが、本体とは別物と考えてください。いわゆる白ノ竜のクローンという存在ですので』
「そうか……ちなみに名前とかはどう呼べばいい?」
『そうですね……名はありません。お好きなようにお呼びください」
うーむ。飼っていた動物たちにはきちんと名前を付けてきた身としてはちゃんとした名前を付けてあげなければ。
それにしても白ノ竜とは違って西洋の龍の姿をしているのだが……。真っ白なドラゴン……白色……ホワイトは違うな……ドイツ語……ヴァイス!
「今日から君の名前は”ヴァイス”だ! 俺の育った国の言葉ではないが、白色という意味がある」
『ヴァイスですか……よい名ですね。今後そのように私のことを読んでください』
そういうとヴァイスは嬉しそうに鳴き始める……というよりかは唸りを上げるといった方が適格だ。
あれ? そういえばここは町が見えるくらい近いのではないか……ヴァイスの声が聞こえるのはまずいのでは?
「町が近いのだろう? あまり騒ぐのは良くないのではないか」
『それは心配ありません。ここは本体が龍騎士の夫婦が住む場所として確保しておりました。その夫婦のパートナーである龍がいるということで納得してくださるでしょう』
「龍騎士?」
『はい。龍騎士というのは龍をパートナーとし、国や冒険者組合などに所属する戦士や魔導士たちの事です。セイヤ様はその夫婦の息子という設定で行けば問題はないでしょう』
設定とは……白ノ竜はそこまでおぜん立てしてくれていたのか。どうやら俺は変に言い訳を考えることなく過ごしていけそうだ。
「了解した。……しかし、良いのか? 俺は77歳の老いぼれだぞ? いくら夫婦の息子というには……」
『あれ? お気づきにならなかったのですか? 今セイヤ様はこの世界にいる人間の外見で17歳くらいになっていますよ』
「え!?」
それを聞いて俺は慌てて自分の姿を確認する。
そういえば話していて少し声が高いなとは思っていたのだが……皺だらけの手ではなく年の若い少年の手をしている。少し曲がって背筋を伸ばせなかったのだが、今はちゃんと姿勢を整え立つことができている。
……若返るというのは良いことだな。
『今お気づきになられたのですね。……自分のことは気になさらないのに、他の者たちには気を配るとは』
うれしいような悲しいような声色のヴァイス。
生前も自分のことは二の次で他人優先の人生を送っていたな。そうでもなきゃ10匹以上の動物たちを飼ってはいなかっただろう。
『まぁ、良いでしょう。これからは自分のこともちゃんといたわってくださいね』
「あぁ……善処する」
それから少しだけ世間話をして、俺たちは異世界初の人が暮らす町へと探索に出かけた。
要約
異世界のベットで目覚め、白ノ竜の手紙を読み小屋を出るセイヤ。
その小屋の外の風景は日本では味わえないほどの自然に満ち溢れており、そこで白ノ竜の分身だという白いドラゴンと出会う。
セイヤはそのドラゴンに”ヴァイス”と名付け、ともに町へと繰り出すのだった。
今回はちょっと短めでしたかね?
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