一時限目 学園生活の始まり
kaito改め邦継の新作でございます。
「刀と魔法で異世界ハーレム」の方は徐々に更新していきたいと思っております。
この国には”龍騎士”と呼ばれる騎士たちがいる。龍騎士とはその言葉の通りに龍と共に生き、一緒に戦場を駆ける騎士の事だ。なぜ龍騎士と呼ばれるものたちができたかというと、この国”セルヴィク王国”が誕生する以前にさかのぼる。
当時、この国の領土は龍たちが支配していた。様々な小国がその周りを取り囲むように領土を広げ、戦を繰り返していたそうだ。
その小国の一つにセルヴィクという青年が住んでいた。その青年は人々の争いにひどく心を痛め、龍に力を貸してくれるように願った。龍は人々の戦になど露ほどの興味を持っておらず、自らの力を振るうをことを拒んでいた。過去に龍が国を滅ぼし、それを人々が恐れていたことを知っていたからだ。どんな小さな命も尊いものだと考えていた龍たちからしてみれば、その願いはかなえることはしたくはなかった。
しかし、そのような龍たちの考えを覆すようなことが起きた。龍の力を悪用しようと、小国の一つが龍たちの住んでいた土地へ進軍してきたのだ。当然龍たちは無用な争いはしたくはなかったので、最低限の抵抗しかしなかった。だが、その時に龍たちを屠るほどの力が人々の間で使われ始めたのだ。
――魔法だ。
古代の石碑や資料を調べ、世界を征服できるような力を人々が手にしてしまったのだ。流石の龍たちも抵抗むなしく次々と同胞たちが亡くなる姿を見ることしかできなかった。
そこでセルヴィクが立ち上がった。実は、彼は魔法を使う小国の出身だった。
魔法と龍。
この二つが合わされば、敵はない。
「私は龍たちと接するたびに、龍と共に生きていきたいと思うようになった。しかし、他の人はそうは思わないらしい。私は人であることを誇りに思うと同時に、悲しくもある。私たちよりも長い時を生き、様々な知恵を持ち強靭な強さの龍たちを恐れてしまう。それでも私は龍たちと共に生きたい」
そう言いセルヴィクは自らの故郷を捨て、龍たちの味方になったのだ。
そこからは一気に状況を覆すことになった。魔法を扱えるということはその対処の仕方も知っているということだ。龍たちはセルヴィクの指示により魔法をはねのけ、その小国を追い出すことに成功する。
その功績により、周りの小国も龍たちに手を出さなくなった。そして小国同士の争いが沈静し、いつしか龍たちの住んでいた土地に一つの国ができた。
その初代国王の名はセルヴィク。国の名もセルヴィクと名乗るようになった。
龍たちも人と手を取り合うようになり、いつしか龍と共にある騎士。
セルヴィクは龍騎士と呼ばれるようになり、セルヴィクのように龍と共に生きる者たちを”龍騎士”といつしか呼ばれるようになった。
――――龍騎士の誕生及びセルヴィク王国発祥の記録より抜粋
「というのが龍騎士の由来だな。ここテストに出るぞ」
黒板に説明文を書き、腰まであろうかと思われるポニーテールを揺らし、茶髪のクール系美人が話を終えた。
ここはセルヴィク王国にある龍騎士を育てる学園。”セルヴィク龍騎士育成学園”そこの一年生の教室である。
「龍騎士を目指すものならセルヴィク初代国王の話は知っていて当然だろうが……。知っていたとしてもあえて復習することにより新しいことが見えてくることもある」
その説明を聞いて、俺は日本の言葉を思い出す。
「温故知新だな」
「……何それ?」
「うん? 知らなくてもいいよ」
「そう?」
隣の少女が話しかけてくる。
セルリア。この国のお姫様だ。
つまりセルヴィク初代国王の血を引く、この国で誰もが尊敬する人物である。
「そういや、なんで俺がここにいるの?」
「それは……私が無理を言ってここに入れてもらったのよ。あなたを」
「なんでそんなことを……」
「あなたとっても特殊な龍騎士じゃない。なんでそれを隠しているのかはわからないけど、この国始まって以来の人物を私のそばに置いておきたいからよ」
「そうですかい」
俺の名前はセイヤ。日本での記憶を持ついたって普通の少年だ。
ひょんなことからこの国のお姫様に気に入られて、このセルヴィク王国にある学園へ通うことになった。
それ以前にこの世界に転生させられた。
うん、まずはその話をしよう。
あれは確か……3か月前の話になる。
☆
俺がこの世界に来て初めて見たものは、真っ白な竜だった。
日本でもなじみのある翼や足のない蛇のような姿をした竜だ。
「おはよう。私の名は”白ノ竜”。あなたをここに呼んだ張本人よ」
「あぁ、おはよう。俺はセイヤ。ところでここは?」
俺の最後の記憶は病院のベットの上だ。
日本の企業に勤め、定年で退職。妻や娘・息子に看取られ、77歳で死んだ。
天寿を全うしたというには少し違うかもしれないが、十分満足のいく人生を歩んだと思う。
死後の世界がどのようなものかはわからないが、いきなり竜が出てくるとはだれも思うまい。
「あなたは人としての生を全うされました。特に偉業をなしたということも無く、かといって悪行をしたということも無く、亡くなりました」
「俺の人生の評価をどうもありがとう」
こうして思い返してみても平凡な人生だったな。
「いえいえ、大体の人でしたら怒るところですよここ?」
「俺を怒らせたいの?」
「滅相もないです。私は感謝をしにあなたに会いに来たのです」
「感謝?」
「生前、あなたは様々な動物を飼っていましたよね?」
ああ、そうだ。自分が動物が好きということもあり、犬から始まり、猫や狐。多くの小動物たちを飼っていた。
そういえば、最後まで面倒を見れなかった子が一匹いたな。
「えぇ、そうです。あなたが亡くなる前に、多くの動物たちは天寿を全うしましたが、一匹だけ残されたものが居ました」
「そうだな。確か白い蛇だったと記憶している」
「はい、それ私ですよ?」
「え!?」
家の近くにあった山に山菜を取りに行ったときに、珍しく白い蛇がいたのだ。
最初は飼うなんて思っていなかったのだが、よくよく見たら怪我をしていたのだ。そのままではかわいそうと思ったので、家に連れていき看病をした。
それが気に入ってくれたのかはわからないが、妙に懐いたのだ。山へ帰そうと思ったのだが、いくら経っても俺のそばを離れないので、そのまま飼うことにしたのだ。
それがこの竜だったとは……。
「怪我をした私を甲斐甲斐しく世話をしてくれたあなたには感謝をしています。それを伝えたかったのです」
「そうか……最後まで面倒を見れないですまなかったな」
「いえ、それはしょうがないことです。命あるものはいずれ死が訪れるのです。タイミングが悪かったということだけですよ」
「……わかった。そういうことにしておこう」
「そういうことにしておいてくださいまし」
そうして二人して笑った。
死んだ後も穏やかな気持ちになれるとは、思わなかった。
「さて、俺はこの後どうなるのだろうか? 天国や地獄などあるとは思ってはいなかったが、そのような場所へ連れていかれるのか?」
「いえいえ、あなたには感謝と共にお願いをしたいと思っております」
「お願い?」
「そうです」
お願いとは……果たして。
「あなたの動物へ愛を、私の故郷でもふるっていただきたいのです」
「故郷?」
「はい、私の故郷は日本ではありません。というより、あの世界ではありません。別の世界から私はまいりました」
「異世界、またはパラレルワールドの様なものか」
「はい」
天国や地獄なんかよりもぶっ飛んだ話が出てきたな。
「私の故郷は龍……よりかはドラゴンといったほうがイメージしやすいでしょう。それらがいます。一度は人々と手を取り合って生きていました。しかし、最近になって人々を見下し、淘汰しようという勢力が出てきてしまったのです。私は龍も人も両方好きですからね。ひとえに悲しいのですよ。それをあなたに救っていただきたい」
その気持ちはわからないでもない。日本でも色々な事情で飼えなくなった動物たちを捨てたりする輩はいた。そういう動物たちも預かっていたこともある。
「しかし、俺よりも適任の者はいるとは思うが……」
「そうですね。いるでしょうね」
「ではなぜ?」
「私があなたがいいと思ったからです。なんせ龍の始祖である私が見込んだ人ですからね」
薄々尋常ではない存在だとは思っていたが、始祖であるとは。神様みたいなものだろうこの竜がそこまで言うのなら。
「そこまで見込まれてのことならば、承諾しよう。一度は死んだものだ。そのあとの生を君のために費やすのも一興だろう」
「ありがとうございます」
そういうと白ノ竜は微笑んだ気がした。
「それではよろしくお願いいたします」
「お願いされた」
そうして俺は光に包まれ、白ノ竜の故郷へと誘われたのだった。
人物紹介
セイヤ
この物語の主人公。
白ノ竜によって異世界へと誘われた。
動物を相手にするのが得意で、その力を異世界でもふるってくれと頼まれ転生。
セルリア
セルヴィク王国のお姫様。
幼いころから冷静に物事を判断するよう教育されてきた反動からか、気の抜ける相手となるとわがままなところが出てしまう。
今回、主人公の学園入学もこのお姫様のわがままによるところがおおきい。
要約
人の生を全うし、この世を去った”セイヤ”。
死後の世界へと行くのだろうかとお持っていたセイヤは目の前に白色の竜”白ノ竜”が現れ大いに驚く。
彼女が言うには、生前セイヤが最後まで面倒を見られなかった一匹の白蛇だったという。
その時に受けたセイヤのやさしさを見込んで、彼女の故郷で龍を救ってほしいという。
そしてセイヤは異世界へと転生するのであった。
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