待ち合わせ
「来ない…」
この前、次の約束をして別れた相手が来ない。
そういえば、その前の時も約束したのに、その日には来ないで、"あっち"の指定した日時と場所に行った。
しかも、"あっち"の指定した通りでも、かなり遅れてきた。
何をしていたのかと聞くと、
「ゲームをやっていた。出発まで少し時間が出来たので、思わずライトノベルも読んでいたら、約束した時間を過ぎていた。とりあえず、来たけど、居てくれてよかった。」
もう、何度繰り返したか分からないくらい。
いつも同じ返答。
"あっち"の部屋に乗り込んで、本当なのか見てみたいくらい。
こっちも仕事もあるし、将来のことも考えたいけど、無理だろうな。
でも、もう会えなくなるから最後に会いたかった。
でも、案の定、いつもと同じ。
こっちは指定した日時と場所に来たことがない。
これが最後という事は言っていない。
きっとショックを受けるだろうから。
"あっち"の両親には、このことを既に話してある。
うちの両親と"あっち"の両親は、高校の同級生同士の親友ということが分かったのは、つい最近だ。
両親は、いつか気づくと思ったと言っていたが、この段階まで気が付かなかった。
結局、仕事のことで相談した時に、自分の覚悟を話したら、両親が複雑な顔をして暴露した。
今の仕事を辞めて、新しい仕事をする。
しかし、この場所ではできない。
これから行く場所からは、逃げられない。
”ここ”に戻るという逃げの選択肢がある状態では、仕事の成功は望めない。
ある意味、両親を捨てて、友だちを捨てて、大好きだけどいい加減な"あっち"も捨てていく。
待ち合わせ時間から1時間経った。
待ち合わせ場所は、港を選んだ。
乗船する船は特殊な船で、乗客はいない。
自分すらも乗組員だ。
そう、船に乗った瞬間、仕事の開始だ。
船は目的地に運んでくれるだけではなく、そこでの仕事のサポートもしてくれる。
同じ乗組員は、仕事の同僚であり、先輩であり、上司でもある。
学ぶことは多く、目的地に着くまでに、全てを終わらせないといけない。
乗船時刻が来た。
結局、"あっち"は来なかった。
船に乗ったと同時に船が出航する。
見送る者はいない。
両親とは、自宅を出るときに別れを済ませた。
"あっち"…生まれてから大学まで一緒だった幼なじみの子。
大学生の時に、不可思議な絵と意味不可解な小説で小説家の仲間入りとした…と"あっち"は言っていたが、本当は違うだろ。スピリチュアル系に絶大な影響力を持つ、宇宙人を通り越した高次元人と言われているのを知っているぞ。
それでも、小さい頃から好きな子でもあった。
だから、性格は分かっていた。
待ち合わせには来ないだろうということも。
船は既に陸から離れ、出港した場所は分からなくなっている。
陸上では見えない、多くの星を見ながら、船は目的地に向かって進んでいく。
***
時々思うことがある。
"あっち"は、今、何をしているだろうと…
もちろん、それを知るすべはない。