着物
店に戻ってきた蒼たち。蒼は片づけていなかった布団に倒れこむように寝転ぶ。
――疲れたな……。あれだけしか歩いてないのに。
そんなことを思っていると、創が掛け布団を掛けてくれた。
「少し、休んでいろ」
「うん」
蒼はすぐに寝息を立て、寝てしまった。ムラサキが部屋の中をキョロキョロと、何かを探している。
「シキがいない」
「いるぞ、隣の部屋」
「え?」
ムラサキは蒼のいる部屋の隣を覗くと、布団に包まりまるで自分の部屋のようにしているシキを見つけた。
「本当だ~」
そうというと、ムラサキはシキの隣に座り、バシバシと容赦なく叩き始める。
「シキ、起きて~。帰ったよ~」
「ん~……」
布団に潜り込もうとしているシキのことを、より強めに叩く。起きないな。そんなことを思っていると、ムラサキはより強くさらに激しく叩きはじめる。
「シキ~」
「ん~、痛い……」
「早く~」
「ムラサキ、痛い! 痛い!」
「起きて~」
「起きた、起きたから! 叩くな!」
「は~い」
大きく手を挙げ笑う。ゆっくりと布団から這い出ると、布団を畳む。アイツは手加減を覚えない。と、心の中で呟いていた。
「なんか、言った?」
「別に。蒼は?」
「寝てるよ」
「夜まで体力を温存させてる」と、部屋を覗いていた創が答える。
「そうか」
ムラサキはお手玉を見つけると、一人で遊び始めた。それを少し眠そうな目で見ているシキ。
――アイツのお手玉か。
「お茶でも飲んで、目を覚ましたらどうだ?」
いつの間にか、創が三人分のお茶を持って部屋にやってきていた。ほんの少しの茶菓子もあり、食べ始める。
――ひとつ みずがうたってる ふたつ ほのおがあそんでる
みっつ かぜがおよいでる よっつ つちがしはいする
よっつ そろってかんせいだ まもりまもられめぐりくる――
ムラサキは楽しそうにだが、どこか心がこもっていない詩を歌いながら、お手玉を続ける。
もう少しで、日が暮れてしまう。
「そろそろ、夜だな」
「私も準備しないと」
「俺は、一度出る。ムラサキを頼んでいいか?」
「あぁ」
「じゃあ、俺は出る」
シキはお手玉で遊ぶムラサキの頭を撫でると、部屋からでていった。
「では、ムラサキ離れに行って着替えよう」
「は~い」
「蒼も起こさないと」
「ムラサキが行ってくるよ」
「シキみたいに叩かないでくれよ」
「分かった」
ムラサキはそういうと、蒼の寝ている部屋へと向かう。創は飲み終わったお茶などが載ったお盆を持って、料理場へと向かう。ひと段落したのか、裏方の者たちが、休憩をしていた。
「結、これ」
「はい」
お盆を結に渡す。結はしっかりと受け取ると、奥へと持っていく。戻ってくると、創がまだいるのを見て、「創くんそろそろ準備したら?」と、声を掛ける。
「あぁ、これから行ってくる」
「蒼……は?」
「今、起きてるはずだ。大丈夫」
「え?」
「そんな心配そうな顔をするな」
「うん」
創が頭を撫でると、結は笑顔を見せる。創に頭を撫でられると、結は自然と笑みを浮べてしまう。良き兄のように感じ、創といると安心する。
「そうだね。心配しすぎると疲れちゃうから、やめた」
「あぁ」
「蒼は強い子だもんね」
すると、表口を叩く音がした。二人は表口へと向かう。戸を開けると、蒼の常連客の二人、ヒトエとイツムがいた。
「創さん! これ蒼に……」
「さっきの」
「えぇ、私たちから蒼への贈り物」
「いつも、いい歌を聞かせてもらったから」
「また、蒼の歌が聞けると思うと嬉しくて」
「今日の仕事は全部、後回しにして仕上げちゃいました」
「……ありがとうございます」
結が客から受け取る。中には綺麗な蒼い着物が畳んであった。結は二人に頭を下げる。
「結」
「寿さん」
すると、寿も外に出てきた。その姿は、店主としての威厳を放つ、美しき主人。
「どうした?」
「お客様が蒼に着物を……」
「そうか」
結が着物を見せると寿が、客へ頭を下げた。深々と頭を下げる寿の隣で、結と創も深々と頭を下げる。
「私からもお礼をさせていただます」
「まだ時間ではないのでご案内は出来ないのですが、お時間になりましたら是非」
「はい」
「では、またあとで」
「ありがとうございました!」と、結が声を出して、二人を見送る。二人は手を振りながら、店を後にした。
「創、準備をはじめろ」
「分かっている」
「結は何人か連れて、着付けをしに行け」
「分かりました!」
創と結は、店を抜け離れへと向かっていく。
「綺麗な着物……蒼に似合うんだろうな」
「早く見たいか?」
「うん。これから、蒼お気に入りになるだろうな~」
「……」
「これから」という言葉を聞いて、創は言葉を失った。
ほとんどの者が復帰記念ということで、今日の店を開けると思っているからである。嬉しそうに笑っている結を、悲しそうに見ている。
「最後くらい、笑うしかない、か……」
「ん? どうしたの、創くん?」
「なんでもない」
創は笑いかけ、結に疑問すら与えないようにした。創の願いは、ただ結には笑っていてほしい、それだけだから。
続く
第二十一話
いよいよ終盤に差し掛かりました。最後までお付き合いくださると、嬉しい限りです。




