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水精【蒼ノ章】  作者: 山芋娘
23/28

着物



 店に戻ってきた蒼たち。蒼は片づけていなかった布団に倒れこむように寝転ぶ。

――疲れたな……。あれだけしか歩いてないのに。

 そんなことを思っていると、創が掛け布団を掛けてくれた。

「少し、休んでいろ」

「うん」

 蒼はすぐに寝息を立て、寝てしまった。ムラサキが部屋の中をキョロキョロと、何かを探している。

「シキがいない」

「いるぞ、隣の部屋」

「え?」

 ムラサキは蒼のいる部屋の隣を覗くと、布団に包まりまるで自分の部屋のようにしているシキを見つけた。

「本当だ~」

 そうというと、ムラサキはシキの隣に座り、バシバシと容赦なく叩き始める。

「シキ、起きて~。帰ったよ~」

「ん~……」

 布団に潜り込もうとしているシキのことを、より強めに叩く。起きないな。そんなことを思っていると、ムラサキはより強くさらに激しく叩きはじめる。

「シキ~」

「ん~、痛い……」

「早く~」

「ムラサキ、痛い! 痛い!」

「起きて~」

「起きた、起きたから! 叩くな!」

「は~い」

 大きく手を挙げ笑う。ゆっくりと布団から這い出ると、布団を畳む。アイツは手加減を覚えない。と、心の中で呟いていた。

「なんか、言った?」

「別に。蒼は?」

「寝てるよ」

「夜まで体力を温存させてる」と、部屋を覗いていた創が答える。

「そうか」

 ムラサキはお手玉を見つけると、一人で遊び始めた。それを少し眠そうな目で見ているシキ。

――アイツのお手玉か。

「お茶でも飲んで、目を覚ましたらどうだ?」

 いつの間にか、創が三人分のお茶を持って部屋にやってきていた。ほんの少しの茶菓子もあり、食べ始める。


――ひとつ みずがうたってる ふたつ ほのおがあそんでる

みっつ かぜがおよいでる よっつ つちがしはいする

よっつ そろってかんせいだ まもりまもられめぐりくる――


 ムラサキは楽しそうにだが、どこか心がこもっていない詩を歌いながら、お手玉を続ける。

 もう少しで、日が暮れてしまう。

「そろそろ、夜だな」

「私も準備しないと」

「俺は、一度出る。ムラサキを頼んでいいか?」

「あぁ」

「じゃあ、俺は出る」

 シキはお手玉で遊ぶムラサキの頭を撫でると、部屋からでていった。

「では、ムラサキ離れに行って着替えよう」

「は~い」

「蒼も起こさないと」

「ムラサキが行ってくるよ」

「シキみたいに叩かないでくれよ」

「分かった」

 ムラサキはそういうと、蒼の寝ている部屋へと向かう。創は飲み終わったお茶などが載ったお盆を持って、料理場へと向かう。ひと段落したのか、裏方の者たちが、休憩をしていた。

「結、これ」

「はい」

 お盆を結に渡す。結はしっかりと受け取ると、奥へと持っていく。戻ってくると、創がまだいるのを見て、「創くんそろそろ準備したら?」と、声を掛ける。

「あぁ、これから行ってくる」

「蒼……は?」

「今、起きてるはずだ。大丈夫」

「え?」

「そんな心配そうな顔をするな」

「うん」

 創が頭を撫でると、結は笑顔を見せる。創に頭を撫でられると、結は自然と笑みを浮べてしまう。良き兄のように感じ、創といると安心する。

「そうだね。心配しすぎると疲れちゃうから、やめた」

「あぁ」

「蒼は強い子だもんね」

 すると、表口を叩く音がした。二人は表口へと向かう。戸を開けると、蒼の常連客の二人、ヒトエとイツムがいた。

「創さん! これ蒼に……」

「さっきの」

「えぇ、私たちから蒼への贈り物」

「いつも、いい歌を聞かせてもらったから」

「また、蒼の歌が聞けると思うと嬉しくて」

「今日の仕事は全部、後回しにして仕上げちゃいました」

「……ありがとうございます」

 結が客から受け取る。中には綺麗な蒼い着物が畳んであった。結は二人に頭を下げる。

「結」

「寿さん」

 すると、寿も外に出てきた。その姿は、店主としての威厳を放つ、美しき主人。

「どうした?」

「お客様が蒼に着物を……」

「そうか」

 結が着物を見せると寿が、客へ頭を下げた。深々と頭を下げる寿の隣で、結と創も深々と頭を下げる。

「私からもお礼をさせていただます」

「まだ時間ではないのでご案内は出来ないのですが、お時間になりましたら是非」

「はい」

「では、またあとで」

 「ありがとうございました!」と、結が声を出して、二人を見送る。二人は手を振りながら、店を後にした。

「創、準備をはじめろ」

「分かっている」

「結は何人か連れて、着付けをしに行け」

「分かりました!」

 創と結は、店を抜け離れへと向かっていく。

「綺麗な着物……蒼に似合うんだろうな」

「早く見たいか?」

「うん。これから、蒼お気に入りになるだろうな~」

「……」

「これから」という言葉を聞いて、創は言葉を失った。

 ほとんどの者が復帰記念ということで、今日の店を開けると思っているからである。嬉しそうに笑っている結を、悲しそうに見ている。

「最後くらい、笑うしかない、か……」

「ん? どうしたの、創くん?」

「なんでもない」

 創は笑いかけ、結に疑問すら与えないようにした。創の願いは、ただ結には笑っていてほしい、それだけだから。



続く


第二十一話

いよいよ終盤に差し掛かりました。最後までお付き合いくださると、嬉しい限りです。

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