表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水精【蒼ノ章】  作者: 山芋娘
20/28

調合

 時が流れ、日にちも流れた三日後の昼。

 シキは、ムラサキとともに薬問屋に顔を出していた。

「凄い人……」

「丁度、人の来る時間だったみたいだな」

 店の中は賑わっており、店の者は客の対応に追われていた。シキとムラサキは、店の端の方に座り壱佳を待つことにした。

「どうぞ」

「おう、流麗」

「ありがとう」

「いえ」

 相変わらず水精に対しては愛想のない流麗。しかし、ムラサキは気にせずどんどん話し掛けていく。

「流麗の淹れるお茶って、美味しいよね」

「はぁ……いい茶葉は使ってますけど」

「茶葉のせいもあるけど、流麗が淹れると美味しくなるんだよ」

「そう、ですか……」

「流麗、ちょっと来てくれ」

「はい!」

 流麗は一度頭を下げると、二人の前から去っていく。シキはお茶を飲みながら、店の中を眺めている。

「流麗、お仕事出来るからいっぱい頑張ってるね」

「あぁ、そうだな」

「……お腹すいた」

「もう少し待ってくれ」

「えぇ~」

「壱佳が来るまでもう少しだ」

「ん~」

「先にどこかで食ってきてもいいぞ」

「それは嫌だ」

「なら、我慢してくれ」

「は~い」

 少々不満そうにしているが、それでも一緒に待つムラサキ。シキは懐から、紙に包まれた飴を出す。

「ほら、これでも舐めてろ」

「は~い!」

 ムラサキはとても美味しそうに口に含む。すると、壱佳が二人の前に現れた。

「申し訳ありません、お待たせいたしました」

「いや、忙しいんだろ? 俺たちは後ででも」

「いえ、一刻も早く渡したかったので」

 壱佳は、手に持っていた紙の包みを開ける。中には蒼く輝く小さな薬が、一粒だけあった。

「すいません、これだけですが」

「いや、十分だ」

「よかった……」

「目の下に隈が出来てる。すまないな、無理させて」

「いえ、これで誰かが幸せになるなら」

 ムラサキは壱佳の手の中にある薬を見つめる。

「これが薬?」

「えぇ……調合するのに手間取りましたよ。上手く合わさってくれないので」

「凄いね。あとはムラサキが歌えばいいの?」

「あぁ、頼む」

「分かった」

 ムラサキは笑みを浮べる。

 壱佳から薬を受け取り、大切に懐にしまう。代金を払おうとすると、壱佳に断られた。

「金は受け取れ」

「いえ、涙の欠片を多くもらったので、また調合に役立てます」

「それは、それだ。金はしっかり受け取れ。店が潰れるぞ」

「……分かりました」

 紙に包まれた金を壱佳に渡し、店から出ていく。

 福屋に向かおうとしたが、ムラサキが無言で裾を引っ張ってきたので、とりあえず昼飯を食べさせてから向かうことにした。



 歌癒屋―福―

 店の中は大騒ぎになっていた。裏方の者たちは、客間の模様替えに勤しみ、料理を担当するものたちもいつも以上に気合を入れていた。

 シキとムラサキは裏口から、入るがすべての者が走り回っていた。

「シキ、どうする?」

「入って平気だろ」

 そう言うと、シキとムラサキは蒼のいる部屋へと向かう。

「おい、シキ」

「ん?」

「蒼のところか?」

「おう」

 創が合流する形で、一緒に蒼のいる部屋へと向かう。いつもの庭を眺めることの出来る部屋。蒼は部屋に敷いてある布団でぐっすり眠っていた。

「起きるペースは?」

「お前が来たっていう三日前から起きてない」

「そうか」

 部屋の中に入る。

「創、水を持ってきてくれるか」

「そこにあるぞ」

「置いてある水じゃなくて、新しい綺麗な水がいい」

「分かった」

 創は部屋から出ていく。

 シキは蒼の近くに座り、眠っている顔を覗く。ムラサキは、庭に面した障子を開け空を見上げる。

「今日は月が出るね」

「そうか」

 しばらくすると、創が新しい水を持って入ってきた。

「他の水精は?」

「離れの方にいる」

「うるさいからか」

「あぁ。私は平気だからこちらにいるがな」

「蒼はなんでここに寝かせてるの?」

「結が覗きに来れるように」

「ふ~ん」

 シキは懐から紙の包みを出す。紙の包みの中には小さな薬が一粒。

「これが薬か?」

「涙の欠片を使ってるから、こういう物になったんだろ」

「いきなり使って平気か?」

「壱佳を信じるしかない」

 シキは蒼の顔を少し上げ、薬を口の中に入れる。創から湯呑を受け取り、水を口の中に流し込む。ごくりと蒼の喉を通り、薬が体の中へ溶けていく。

「ムラサキ、頼む」

「分かった」

 笑顔を浮かべると、大きく息を吸い歌を奏で始めた。


続く


第十八話

零話も含めるともう二十話です。あとがきというものは、なにを書けばいいのかいまだに分かりません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ