調合
時が流れ、日にちも流れた三日後の昼。
シキは、ムラサキとともに薬問屋に顔を出していた。
「凄い人……」
「丁度、人の来る時間だったみたいだな」
店の中は賑わっており、店の者は客の対応に追われていた。シキとムラサキは、店の端の方に座り壱佳を待つことにした。
「どうぞ」
「おう、流麗」
「ありがとう」
「いえ」
相変わらず水精に対しては愛想のない流麗。しかし、ムラサキは気にせずどんどん話し掛けていく。
「流麗の淹れるお茶って、美味しいよね」
「はぁ……いい茶葉は使ってますけど」
「茶葉のせいもあるけど、流麗が淹れると美味しくなるんだよ」
「そう、ですか……」
「流麗、ちょっと来てくれ」
「はい!」
流麗は一度頭を下げると、二人の前から去っていく。シキはお茶を飲みながら、店の中を眺めている。
「流麗、お仕事出来るからいっぱい頑張ってるね」
「あぁ、そうだな」
「……お腹すいた」
「もう少し待ってくれ」
「えぇ~」
「壱佳が来るまでもう少しだ」
「ん~」
「先にどこかで食ってきてもいいぞ」
「それは嫌だ」
「なら、我慢してくれ」
「は~い」
少々不満そうにしているが、それでも一緒に待つムラサキ。シキは懐から、紙に包まれた飴を出す。
「ほら、これでも舐めてろ」
「は~い!」
ムラサキはとても美味しそうに口に含む。すると、壱佳が二人の前に現れた。
「申し訳ありません、お待たせいたしました」
「いや、忙しいんだろ? 俺たちは後ででも」
「いえ、一刻も早く渡したかったので」
壱佳は、手に持っていた紙の包みを開ける。中には蒼く輝く小さな薬が、一粒だけあった。
「すいません、これだけですが」
「いや、十分だ」
「よかった……」
「目の下に隈が出来てる。すまないな、無理させて」
「いえ、これで誰かが幸せになるなら」
ムラサキは壱佳の手の中にある薬を見つめる。
「これが薬?」
「えぇ……調合するのに手間取りましたよ。上手く合わさってくれないので」
「凄いね。あとはムラサキが歌えばいいの?」
「あぁ、頼む」
「分かった」
ムラサキは笑みを浮べる。
壱佳から薬を受け取り、大切に懐にしまう。代金を払おうとすると、壱佳に断られた。
「金は受け取れ」
「いえ、涙の欠片を多くもらったので、また調合に役立てます」
「それは、それだ。金はしっかり受け取れ。店が潰れるぞ」
「……分かりました」
紙に包まれた金を壱佳に渡し、店から出ていく。
福屋に向かおうとしたが、ムラサキが無言で裾を引っ張ってきたので、とりあえず昼飯を食べさせてから向かうことにした。
歌癒屋―福―
店の中は大騒ぎになっていた。裏方の者たちは、客間の模様替えに勤しみ、料理を担当するものたちもいつも以上に気合を入れていた。
シキとムラサキは裏口から、入るがすべての者が走り回っていた。
「シキ、どうする?」
「入って平気だろ」
そう言うと、シキとムラサキは蒼のいる部屋へと向かう。
「おい、シキ」
「ん?」
「蒼のところか?」
「おう」
創が合流する形で、一緒に蒼のいる部屋へと向かう。いつもの庭を眺めることの出来る部屋。蒼は部屋に敷いてある布団でぐっすり眠っていた。
「起きるペースは?」
「お前が来たっていう三日前から起きてない」
「そうか」
部屋の中に入る。
「創、水を持ってきてくれるか」
「そこにあるぞ」
「置いてある水じゃなくて、新しい綺麗な水がいい」
「分かった」
創は部屋から出ていく。
シキは蒼の近くに座り、眠っている顔を覗く。ムラサキは、庭に面した障子を開け空を見上げる。
「今日は月が出るね」
「そうか」
しばらくすると、創が新しい水を持って入ってきた。
「他の水精は?」
「離れの方にいる」
「うるさいからか」
「あぁ。私は平気だからこちらにいるがな」
「蒼はなんでここに寝かせてるの?」
「結が覗きに来れるように」
「ふ~ん」
シキは懐から紙の包みを出す。紙の包みの中には小さな薬が一粒。
「これが薬か?」
「涙の欠片を使ってるから、こういう物になったんだろ」
「いきなり使って平気か?」
「壱佳を信じるしかない」
シキは蒼の顔を少し上げ、薬を口の中に入れる。創から湯呑を受け取り、水を口の中に流し込む。ごくりと蒼の喉を通り、薬が体の中へ溶けていく。
「ムラサキ、頼む」
「分かった」
笑顔を浮かべると、大きく息を吸い歌を奏で始めた。
続く
第十八話
零話も含めるともう二十話です。あとがきというものは、なにを書けばいいのかいまだに分かりません。




