共鳴
そして現在。
蒼は床から出られない体になってしまった。
春が過ぎ、もうすぐ夏がやってくる時期。蒼は悟っていた。今来る夏を過ごすことは出来ないと……。
「もう一回でいいから歌いたいな……」
布団の中から、空を見上げている。すると結がお茶を持ってくるのが見えた。
「蒼、お茶飲む?」
コクリと頷く。
あの水喰が襲ってきた夜から、蒼は目を覚ますことが少なくなった。体力が無くなって、起きていることが辛くなっていた。そのため、起きていることの方が少なくなっていた。体を起こすのもやっとだが、今日はなぜか元気だった。
「ムラサキちゃんの歌が聞こえる……」
微かだが、ムラサキの歌声が聞こえてくる。蒼はとても嬉しそうに歌を聞いている。
「結、いるか?」
「どうしたの、八重さん?」
「親父さんが、仕込み手伝ってほしいって」
「分かった、ありがとう」
結と入れ替わるように八重が、三味線を手に部屋に入ってきた。蒼の横に座ると、三味線を調整し始める。
「ムラサキの奴、ご機嫌だな」
「そうだね」
「お前も元気じゃねーの」
「なんか、今日は動けるんだ」
口を開けずに八重と、心で会話をしている。
「んじゃ、俺も弾いてやるか」
「わーい」
「なら、私も入れてくれ」
「あぁ?」
創が二人分のお茶を持って部屋に入ってきた。
「なら、やるか」
「あぁ……」
微かに聞こえるムラサキの歌に合わせて、八重は三味線を、創は歌を奏で始めた。
――道端に落ちている 一粒の大切な欠片
合わせるために探しに行こう
けれど 一人では欠片を集められない
なら共に行こう 一緒なら大丈夫――
蒼の心の中に溶け込んでいく。「歌いたい、僕も一緒に……」と心で呟くが、声は出ない。そう思った時、
――探しに行こう 一緒に
みんながいれば 大丈夫――
蒼の口から、微かだが歌が流れてきた。水晶も色が鮮明になっている。その一瞬だが、確かに蒼は歌を奏でた。
「蒼、お前……」
「僕……歌えた」
もう一度、歌おうと口を開くが、声は出ない。
「聞き間違い、だったのか?」
「いや、確かに歌ってた」
突然、庭の方から声が聞こえてきた。三人は庭の方を見る。塀によじ登ってこちらを見ているシキの姿があった。
「シキ……」
「何してんだ!! お前!」
「よっ!」
「よっ、じゃねー!! さっさと降りろ、玄関から入れ!」
「面倒だな……ムラサキ、裏口行くぞ。八重がキレててやばい」
シキは塀から降りると、裏口から入ってきた。ムラサキと共に蒼のいる部屋にやってきた。
「さっき歌ってたよな?」
「うん。シキが歌ってって言うから」
「なんで?」
「確かめたいことがあってな」
「確かめたいこと?」
シキは、蒼の横に座ると蒼のことをじっくりと見つめる。
「なに?」
「目の色も戻ってるな」
「目?」
「お前らの水晶と目は、同じようなものだからな」
「???」
蒼は首を傾げている。一方、ムラサキはシキのことを気にせず、池を見つめている。シキは満足げに蒼のことを見ている。すると頭を撫で、楽しそうにしている。
「よし、なんとなくわかった」
「なんとなくかよ」
「何がわかったんだ?」
「水精の特性」
「特性?」
「俺も長生きしてるけど、分からないことだらけだからな」
「長生き? シキさん、何歳なの?」
蒼は再び心の中で話を始める。
「いくつだろうな~」
「クソじじいだろ、ただの」
「八重~クソはいらない」
「じじいは、認めるんだな」
「まあな」
シキは、そう言うとムラサキを連れて出ていった。
「で、なんだったんだ?」
「知らん」
「僕の目、なんか変だった?」
「ちょっと色が落ちてただけだよ」
「気にするな」
創が蒼の頭に手を乗せ、髪の毛をぐしゃぐしゃにする。創と八重は、蒼の体にこれ以上負担を掛けないようにと思い、部屋から出ていく。
「もう一回、歌いたい……」
そう呟くことも出来ずに、蒼は俯いた。 怪しげな雲が広がる。蒼は、ゆっくりだが布団から出ると縁側へと出ていく。空はどんよりしているが、所々から光が差している。
「僕はもう一度、歌う。絶対に歌う」
目を瞑り、顔を空に向ける。大きく息を吸い、声を出そうとする。けれど、声は出ない……。
蒼はその後、体調が急変し布団から出られなくなってしまった。深い眠りについていると思うと、とても息苦しそうにしている時もある。
続く
第十四話
やっと現在に戻ってきました。
しかし、まだまだ蒼は生きます。歌うために




