雪の歌
ふらつきを感じはじめてから、五日ほど経った雪が降る日。蒼は結とともに一つの傘を差し、町を歩いていた。
「寒い~」
「本当……体の芯まで冷える」
手に息を掛けながら、雪の上を歩き続ける。
今日の夜、歌癒屋は店を開けないということで、蒼も昼間から活動していた。 そして二人が向かっているのは、薬問屋。裏方の者が一人と寿の祖母で歌癒屋の店主である、お福が風邪を引いてしまったため、薬を買いに来ていた。
「早く買って帰ろう」
「そうだね」
足早に歩き出す二人。しばらくすると薬問屋が見えてきた。
「こんにちは」
「はい、いらっしゃい」
「壱佳さん、風薬をお願いします。2人分」
「水精の方?」
「いえ、今回はいません。人間用で」
「分かりました。流麗、2人に熱いお茶でも出してあげて」
「はい!」
薬問屋の若旦那、壱佳。
後継ぎとして申し分のないで、客からの評判もいい。とても爽やかな好青年の印象。彼は、水精のことを理解している。薬も人間用、水精用、その他にもたくさん種類を用意している。
「どうぞ」
「ありがとう、蒼も飲みな」
「うん、流麗ありがとう」
「どうも」
少し愛想のない男、流麗。
彼は蒼の顔を見ずに、奥の部屋に消えた。しかし、蒼はあまり気にせず熱いお茶を飲む。
「あっち」
「気を付けなよ」
「遅い」
「うふふ……」
「熱い……体が温まる……」
「そうだね」
薬が出来るまでの間、二人はお茶を飲んでまったりしていた。
「お菓子いる?」
「森陰ちゃん」
「こんにちは。これ食べてね」
「ありがとう」
「森陰! 仕事!」
「分かってる~」
「分かってない!」
「分かってるのに~」
森陰と呼ばれた女は、流麗に引っ張られ奥の部屋へ連れていかれた。森陰は結に手を振りながら、笑っている。蒼は興味なさそうにしている。
「なんで、あんなんなんだろうね」
「なにが?」
「はぁ~」
流麗と森陰は、普通の人間。
森陰は、別になにも気にしていないが、流麗の方はなぜか水精たちのことを毛嫌いしている。結はそれを気にしていた。どうにも出来にないと分かっているが、水精のことは理解してほしいと思っていた。
「お待たせ、結」
「壱佳さん、ありがとうございます」
「いえ」
「お代を」
「ありがとうございます」
「結、帰ろう」
「うん。蒼もお礼」
「バイバイ、壱佳~」
「蒼も風邪引かないように」
手を振り、壱佳見送る。しかし、すぐに他の客が現れ店の奥へと入っていく。蒼と結は、一つの傘を差し、再び降り続く雪の中を歩いていく。
「あ、蒼と結だ」
「ん? ムラサキちゃん!」
ムラサキは、まあまあ厚着をして鼻を赤くして笑って、歩いてきていた。しかし、手には傘はない。
「こんな雪の日でも元気だね、ムラサキは……」
「面白いから」
後ろからとても寒そうにしている、シキが傘を差し現れた。足取りが重く、いつもより歩く速度はとても遅い。
「寒すぎる……」
「シキさ~ん」
「おう、結に蒼。お前らも元気だな……」
「あぁ、帰りたい」と呟き、息を吐いている。
ムラサキは相変わらず、傘を差さずに楽しそうにしている。
「どこか行こうとしてるんですか?」
「お城だよ~」
「お城?」
「あぁ……殿さまに呼ばれちまってな……面倒くさい」
「ムラサキは楽しいよ~」
「まぁ、それならいいけど」
シキはとても不服そうだが、仕方なしに城に向かっている途中だった。ムラサキの頭の上に少しだが、雪が積もっている。しかし、ムラサキは気にすることなく歩いていた。
「雪って面白いよね。雨と同じなのに、違った綺麗さがあるから」
「そうだな」
シキはムラサキに傘を差し、頭の上の雪を払う。
「ゴホッゴホッ」
「蒼?」
「ちょっと咳しただけ」
「風邪うつったかな? お店帰って温まろう」
「うん」
「じゃあ、失礼します」
「ムラサキ、たまには店来てね」
「うん」
蒼と結、シキとムラサキは別々の方へ歩いていく。
「蒼にとーどけ」
そういうと、ムラサキは歩きながら歌を奏で始めた。
――真っ白な雪 冷たく淡い
温かいものじゃないのに とても心が温まる
それが不思議と 楽しくて嬉しくて面白い
たまにはおいでよ 待っているから――
ムラサキの歌が町中に響く。その歌に惹かれて、蒼も歌い始める。まるで共鳴するかのように……。
「楽しい、嬉しい、面白い。ムラサキらしいな」
「そうだね」
「早く帰って、あっついもの飲もう」
「はいはい」
蒼は、結から傘を取り、速足で歩き出す。
続く
第十二話
雪に日に遊ぶことをしなくなりました。寒いのは苦手です。




