脇役主人公の思案
そうして、お昼の後は王子の自室へ行って恋愛相談、というのが私の日課になった。
ほかのメイドがうるさいかなぁ、と思っていたのだが、どうやら裏からいろいろ手が回って、適当に理由をつけていただいたようだ。冗談じゃなくほんとに助かった。女の嫉妬は怖いからね。
「どうもー、カイト様。」
「お前はッ、ほんっとに遠慮がないな…仮にも国の王族前にして…」
もはやお辞儀もせずに部屋でお茶をすする私を見て、心底呆れたようにカイト様が言う。
「いいじゃないですかー。王子と私の仲なんですから―」
「誤解を招くような言い方はやめろ」
「協力しませんよ」
「俺が悪かった」
第二王子は意外とというか、とてもいじりやすい人なんだということが最近分かってきた。きっと仲がいいと噂の王太子様にもこういう風にいじられているんだろうなー、と思うと安易に想像ができる。パレードなんかでちらりと見た王太子は猫かぶりな感じが凄いしたから。
それにしても、と思う。
「なんでそんなにリーアにぞっこんなんですか」
あ、ぞっこんって死語か。そんなことが頭をよぎったけれど、まあカイト様には伝わったようだからいいか。
「それはお前…前、その、馴れ初めは話しただろッ」
「ですけどねぇ…」
『馴れ初め』という言葉に顔を真っ赤にするカイト様を、初心だなと思いながら口をとがらせる。
「どこの乙女ですかあなたは」
数日前、カイト様から聞いた話を思い出してみる。
ことは、カイト様が執務をさぼって、街に出ようとしたことから始まったらしい。
どこにあるとかは教えてくれなかったが、広い城の庭のどこかに向け道があるようで、いつも街に出ているように(よくサボっているらしい、追求したら「休憩だ」と開き直られたのでもうなんか、いいか)そこへ行ったら、
「何してるんですか?」
「……!」
咎める声が聞こえて、振り返るとそこにいたのは、
「あれ、第二王子の……カイト様、ですよね?」
美しいブロンド、新緑のようなみどりの瞳をした可愛らしい天使(カイト様ビジョン)がいた。
一目ぼれというものを初めて体験したらしい王子は、その余韻のまま天使(※リーア)にこういわれたそうだ。
「これから街ですか?執務をほっといて?ダメですよ、王都の民を助けるのは王族の仕事です。でも、今課された書類などを処理することは、国全体の民のためになるんですから。責任をお持ちください。」
ぴしゃり、と王子相手に媚を売るわけではない、一個人として扱うその物言い、的を射る正論にカイト様は驚いて、そして心ひかれたらしい。
「……というわけだそうですが、接点ないですよねコレ。」
「だからこうしてお前に頼っているんだろう。」
何をいまさら。とどこかどやっとした表情で告げるカイト様に殺意がわく。
「頼っている、じゃねーですよ!だいたいなんですか一目ぼれって!しかも天使天使って……一国の王子なら美人の相手いっぱいいるでしょうに!なんで城の使用人とか面倒くさい子に手ぇ出そうとするんですか!」
「身分違いの恋と言ったら、国中の女が興奮するだろうな」
「そんなのいらねーです」
第二王子相手なら、この数か月私が望んでいた『主人公のハッピーエンド』は間違いなく訪れるだろう。しかし問題はそこではなく。
「脇役も大変ですねぇ……」
「は?」
いやなんでもないです、と机に突っ伏して、訝しげに聞き返したカイト様に返した。
さぁて、どうやってこの二人をもう一度引き合わせようか。まずはリーア自身にカマをかけてみようかな。
そうしていくうちに、昼休みも終わりが近づいたので、退室させていただいた。
はぁ、ほんと面倒なことにかかわってしまった。
時間に余裕をもって部屋を出たので、まだまだ暇な時間は十分にある。
久しぶりにあのお気に入りの場所へ行ってみようかな、と考えを巡らせる。前は思いがけず凄い人物に会ってしまったけれど、騎士団長ともあろうお人が早々非番なんてまずないだろう。きっと今日はいないはず。
そう思うと、慣れたようでいつもの場所への道に自然と足が動いた。