脇役主人公の協力
この世には、主人公と脇役がいる。まるで絵本の中のストーリーのように。
そんなことを考え始めたのはいつだったか。多分物心ついてすぐのことだ。家族の中ではとある事情により煙たがられていた私は、おとなしく、乳母に絵本を読んでもらったりするのが好きだった。灰かぶりと呼ばれたお姫様の舞踏会での出会いや、継母に嫌われて殺されそうになる美しい白雪のようなお姫様と7人の小人の話。どれも主人公は強く必死に生きていて、気高く美しかった。その話を聞いた後は、私は鏡の前に立って確かめた。私はどうだろう。そんな風に美しく、物語の姫君のように幸せに生きることができるようになるだろうか。
そんな考えはしかし、すぐに消え去ることとなる。わたしはしったのだ。私のような鈍くさくて可愛くもない人間は、所詮意地悪な継母や手を差し伸べる魔法使いや小人と大差ない。ようは主人公が幸せになるまでの過程にしかなれないのだ。
私とは違って可愛く美しくきれいに育った兄弟姉妹を見て、悟った。本当の主人公はこういう人たちなのだと。私などでは役不足なのだ。
私は、主人公にはなれないのだ。
だから、やさしい脇役になりたいと思った。灰かぶりにチャンスを与える魔法使いのような。でも、私のことを忌み嫌う兄弟たちの中ではそれは無理だ。なら、どうすればいい?
そんな時だった。父が倒れて、後継ぎ問題になったのは。
それまで『面倒くさい存在』だった私は、当主が傾いたせいで完全な『邪魔者』となった。
だから、体よく逃げ出した。そもそも跡目争いなんかに参加したくはないし、やっと自由になれると思ったからだ。
これで、私は私の守りたい、助けたいと思える『主人公』を探すことができると思った。主人公のいない脇役はモブと同じ。なら、少しでも役がほしい。私も世界から認められたい。そう思った。
そして幸運なことに_____________私は見つけたのだ。
同室の、リーア・ベルカリアという存在を。
だから、こういう状況はどうすればいいのか。
「おいお前、……サレンとか言ったな。ちょうどいい、リーア・ベルカリアについて、知っていることを答えろ。」
「……はぁ、」
どういうことだ。
危惧していたメイド長ではなく、私は……なんと、恐ろしい方に御呼ばれをしてしまった。
目の前の人の容姿を一言でいうと金髪碧眼のイケメン。前も言ったと思うが金髪碧眼のひとはこの国には王族と騎士団長しかいない。この人は騎士団長ではないからつまり、
「失礼ですが、第二王子の……カイト様でいらっしゃいますよね?」
「見てわからんのか」
はいありがとうございます。全く嬉しくない肯定をどうも。
心の中でこっそり溜め息をついて向き直る。全く、面倒くさいことになったものだ。
「で、つまりカイト様は……リーアに恋したから、好きなものや誕生日を友人の私に教えろと?」
「んなッ」
はい図星。見事に真っ赤なお顔ですね。
全く午前の仕事が終わってやっと朝の火傷の痛みも引いてきたと思ったら食堂に青い顔をしたメイド長が私の名前を叫んではいってくるんだもん、そりゃびっくりしたよ。そしたら何?王族専用の部屋に行け?なんて言われたからたまったものじゃなかった。食堂にいたメイドみんなの視線が痛かった。きっと『あんな平凡女が?なんで王族の肩に御呼ばれしているのッ、私の方が100倍は美しいのにキィィイ!』みたいなこと考えてるんだろう。恐ろしい。
全く脇役も大変だ。
「教えてほしいんですよね?」
「うッ」
少し強気に出てみる。このぐらいの無礼は許してほしいものだ。これからの私の苦労を思えば。
仕方ないなぁと息を吐く。弟とはこんな感じのものなのだろうか。実家の弟が特殊すぎてわからなかったが、世間一般の弟はこんな感じだろう。
王国の第二王子捕まえて弟とか、王太子にでもなったつもりかって感じだけど。
「いやそんなはずは……この俺が?使用人風情に?いやいや……でもアイツ……」
ごちゃごちゃ言い訳めいたことを言っているカイト様にこっちがイライラしてきた。
「彼氏はいないし許嫁とかこだわるような家庭じゃないので。大丈夫だと思いますよ?」
「本当か!?……あ、」
墓穴を掘られました。
一国の王子が困難でいいのか。ちょろ……とか失礼なことを思いながら私は微笑んだ。
「いいですよ?協力しても。」
「……メイドのくせにコケにしやがって。」
「あら?この国の第二王子様は身分を気にせず接してくれる心優しい方だと噂ですけど?」
「……参った。頼む。……協力してくれ。」
うわーお。よっぽどこの人リーアに惚れてるのか。一介のメイドに頭を下げるなんて。いくら私の身の上は知っているといえ。
やはり噂は正解なのか。第二王子といえば心優しい人として有名だ。街を歩けば『おなかがすいたと駄々をこねる娘にパンを与えてくださった』だとか『借金取りに襲われている家に自分のお金を無期限で貸してくださった』とか嘘みたいなホントの話がたくさんある。
だから私も気が縁なく話せるというものだ。だからこそ、主人公の相手にふさわしい。
「じゃあまず、協力する前の等価交換として、二人の馴れ初めをどうぞ」
「なッ、馴れ初めっておまッ」
照れてゆでだこになる王子様を前に、やっと出番かなぁと私は心を躍らせた。






