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陰陽師學園では今日も人が死ぬ  作者: 三流木


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呪術蠱毒學園①



陰陽師學園は人材不足を補う為に素質が高い学生を急募し育成を促すと言う教育機関である。

しかし、その実体は優秀な陰陽師を生み出す為の蟲毒として起用されている事は余り知られていない。

年間、五百名の学生が陰陽師になる為に入学するのだが、卒業して陰陽師に至れるのは僅か十名程である。

退学、自主退学、事故死、殉死……、様々な理由があるが、されど尚、閉鎖されないのは、それがこの世界では当たり前であると言う為だろう。


少なくとも、學園に入学する事が出来た夜那岐旭人は覚悟を以て陰陽師學園に入学した。



「さて……」


入学式の日、体育館に集合する陰陽師の卵である生徒達を見据えながら夜那岐(やなぎ)旭人(あさひと)は校舎の屋上で呆然と見下ろしていた。

期待に胸を膨らませる生徒や、緊張で全身が硬直している生徒が多数存在するが、大体、四百五十名程の生徒たちが体育館に集まっている事を認識していた。

夜那岐旭人は、入学式に参加はしない方針で定まっていた、教師もその事に関して何か言う事も無かった。


「入学式では何人、生きられる事か」


そう思いながら学生服基準装備である軍刀に触れる、退魔儀式礼法済祓刀は妖鬼と呼ばれる化物に物理的ダメージを与える事が出来る武器だ。

殆どの生徒が所有される汎用退魔武器である為に安価に生産された代物である。

無いよりかはマシ、と言う程度のお守りでしかない。


制服の内側には霊力装填式の自動拳銃がガンホルスターに収まっている。

装弾数は九発、旧式南部拳銃を現代にカスタマイズされた代物だが、此方も安価に生産された汎用武器であり、射撃技術があってこそ使えるものだ。


軍刀の反対側には紙幣に使われる材質で作成された呪符が収納した革箱がある。

効力は様々だが、此方も知識を要する代物である為に、使うには相当の技術が必要である。


一通りの装備を確認した所で、夜那岐旭人はスマートフォンを取り出して時刻を確認する。

生徒達が体育館に集合して十分が経過、時刻は朝の九時ごろに回っていた。


「そろそろだな」


空を見上げると、黒い泥が垂れているのが見える。

それは檻の様に學園内部を覆う様に展開されていき、最終的には學園全てを包み込んだ。


蟲毒の儀式が整ったのだ。

これから一年は、この檻が解除される事は無い。


「さて、一日目が始まるな」


夜那岐旭人は呟いた。

彼は、この陰陽師學園で実施される蟲毒の内容を、全容は知らぬとまでもある程度までは理解していた。

事前に學園に入る前に、陰陽師學園を卒業した現生徒から事前情報として話を聞き出していたのだ。




夜那岐旭人の事前情報ではある程度の妖鬼が出現する日は決まっていると聞いていた。

今回の入学式では、入学した生徒の総数と同等の「鬼」が學園中に沸いて出て来ると聞いている為、出来るだけ見晴らしが良い場所で夜那岐旭人は待機していたのだ。


そして体育館から響いて来る悲鳴。

内部で鬼が湧いて出て来た様子で、ものの数秒で体育館から出て来る大量の生徒の様を見下ろしながら、呆然と蟲毒が始まったのだと理解していった。


「さて……」


〈鬼〉の終了条件は主に二つ。

午前中が終わるまで逃げ続けるか、鬼を殲滅するか。

この条件の内どちらか一つでも達成出来れば、〈鬼〉の蟲毒は終了するのだが、後者の条件を達成する様に行動すれば報酬が出る事を知っている。

最多数の鬼を殲滅した者には呪物が与えられるのだが、競争率は高いと夜那岐旭人は思った。

だから、今回は午前中が終了するまでのらりくらりとやり過ごす事に決めたのだった。


「ふあ……」


中庭に視線を向けると多くの生徒達が鬼に捕食されて血の海が出来ている様が見えた。

ぐちゃぐちゃと女子生徒の脹脛を嚙み千切る、その際に純白のパンツが赤色に染まる様を見て、少々勿体無い、と言う気持ちを抱いていた。


スマートフォンで時刻を確認していた時、丁度11時の文字が顕れていた。

それを見た夜那岐旭人は退屈な時間が続くな、そう思っていたのだが。


「はあ、はっ!!」


屋上の扉を開けて、飛び込んで来る女子生徒の姿があった。

透き通る様な蒼い髪を靡かせて、衣服や頬には大量の血液を付着させている、女子生徒である。

その姿を見て、夜那岐旭人はフェンスに背を向けた、警戒しているワケではない、立ち尽くしているのに疲れて背凭れを欲していた為だ。


「はあ、はあぁっ、はっ」


荒い呼吸をし続ける女子生徒の姿に、夜那岐旭人は見知った顔だと思った。

陰陽師の家系に属する十家の御令嬢である『出リ羽ユズハ』だ。

当然、両者の間では関係性は無い為、夜那岐旭人は初対面のフリをしながら挨拶を交わす。


「やあ、その様子だと妖鬼から逃げて来たみたいだね」


気楽な挨拶に、彼女は首を左右に振る。

身体に不調があるのか、声を出す事が出来ずに、下層へ続く階段に指をさして口を動かしている。


「ああ、理解はしているよ……来ているんだろう?」


そう言いながら柔和な表情を形作る。

他人と対話をする為に作られた自然な笑みだ。


「た、たすけ、ぇて」


掠れた声を漏らしながら彼女は足を引き摺りながら這い回る様に扉から離れている。

だん、だん、と屋上を駆け上がる重苦しい足音が響いていた。

彼女の必死に懇願する表情を見ながら、夜那岐旭人は脳内で考える。


出リ羽(いずりは)家の三女である出リ羽ユズハは相伝術式を持たない汎用術の使い手……血筋は申し分ないが虚弱体質だと聞いている)


出リ羽家の家督は既に長男が継いでいる、血統存続の予備である長女、次女が居る為、三女である彼女は虚弱体質も相まって政略結婚の道具として生かされている。

その情報の末で彼女を助けるべきかどうか、夜那岐旭人は思案した末に。


「ふぅ」


懐のガンホルスターから霊力装填式自動拳銃を取り出した。



出リ羽ユズハの背後から複数の鬼がやってくるのが見えた。

夜那岐旭人は霊力装填式自動拳銃で標準を合わせて素早く引き金を引く。


「んうっ」


彼女は後頭部を抑えながらその場で丸くなっていた。

遥かに離れた位置から自動拳銃を使って射撃をしても命中しないと彼女は思った為だ。

しかし、予想に反して弾丸が大柄の鬼の胸元に着弾した。


(〈焔雷煌咆(えんらいこうほう)〉)


霊力弾は自身の霊力を残留させた弾丸である。

陰陽師が使役する五行の力を含めた陰陽術を込める事で着弾と同時に術式を発動する様に出来ていた。

火行・金行の二種を組み合わせた陰陽術であり、着弾時に弾丸を四十発の小さな鉛玉に分裂し、弾丸の威力を更に加速させた散弾銃である。

弾丸が着弾した鬼の上半身は一撃で肉片に変わり、血飛沫が周囲に飛び散った。

ガンホルスターに自動拳銃を仕舞うと彼女の元に近付き手を伸ばす。


「大丈夫かい?」


そう言いながら震える彼女の手を取ると、更に階段から足音が聞こえて来た。

更に鬼がやって来た事を察した夜那岐旭人は足音から何体来ているかを確認。


(数は三、四、五体か、手頃だな、彼女に恩を売り易い)


夜那岐は冷静に判断をした後に強引に彼女の身体を抱き寄せてお姫様抱っこをした。


「っきゃッ」


思い切り体を持ち上げられた事で驚きの声を喉奥から漏らす出リ羽に、扉とは反対方面のフェンス側にまで彼女を連れて行くと、フェンスに凭れ掛からせる様に降ろした。


「すまない、鬼がやってくる、……出来るだけ鬼を足止めするから、その隙に逃げてくれ」


と、そう言ったが夜那岐は彼女が逃げる事が出来ない事を知っていた。

先程彼女の足に触れた時にほのかに熱を感じていた、骨にひびが入っているのか捻挫をしたのか、少なくとも彼女はそれを治す程の技術は持ち合わせていない。


(足が動かせる状態なら屋上から飛び降りて逃げる演出が出来たけど……動けないのなら、逃げられない状況で命懸けで守る姿勢を見せつける事が効果的だな)


ふう、と息を吐いて指先に力を込める、指先が震えて恐怖を噛み締める姿勢を浮かべて見せた。


(……この人、怖がってる、私を助ける為に、意地を……っ)


出リ羽ユズハは足が痛くて動く事が出来ない……例え足が動けたとしても、彼を置いていくような真似はしないだろう。


(何とか応戦だけでも……けど、遠距離に使える武器はもう)


此処まで逃げるのに自動拳銃は弾丸が底を着いた。

呪符も使用しようとして恐怖で落としてしまった。

祓刀では主に肉体を使っての戦闘、彼女は足を痛めてそれが出来ない。

何も出来ない彼女は歯痒い思いをしていた。


「……死なないで」


静かに零れる言葉は、命の恩人を想う声色だった。

涙目になりながら自身の不甲斐なさと、彼が死なない事を祈っている。

早々に、その姿を見て夜那岐旭人は自らの計略に笑みを綻ばせた。




目論み通り、屋上へやって来たのは五体の鬼だった。

大小様々であり、中には百七十五センチ程の背丈を持つ夜那岐旭人を大幅に超える巨体な鬼も居た。

複数体の鬼を前にしても、夜那岐(やなぎ)の内心では冷静さを保っている。

外面では大きく呼吸を行い、肩を大きく動かして緊張と恐怖が同時に背筋を這い廻っている様な演技をしていた。

全ては出リ羽ユズハに生涯消えぬ様な恩を刻み付ける為である。


「う、おおおおッ!!」


甲高い声を発生すると共に夜那岐は祓刀を抜刀した。

自らの霊力を流し込み、金行の陰陽術を使役し、刀身に微細な振動を与える事で高周波ブレードにする。

一先ず、鬼達が出リ羽に集中しない様に、素人丸出しな動きで刀を八の字を描く様に振るう、刃が大なり小なり、肉体に傷を与えると怒りの矛先を夜那岐に向ける。


(小さい鬼の攻撃は爪で引っ掻くか、あまりにも遅い動きだ、これは回避してカウンターで斬りつけよう、爪の突き刺しは腹部を掠める様に受ける)


小鬼の攻撃を回避して頭部を一撃で切断する、次に迫る鬼の爪を回避すると共に服と皮膚が共に切り裂かれるが、薄皮一枚で臓器や筋肉には支障は無い。


(巨大な鬼が握り拳を固めた、内臓を破壊する一撃、骨が砕けるな、良し、これは受けておこう、劣勢に見せる為に……)


棍棒を持つ鬼に向けて刀を振るうと同時に刀に付与した陰陽術を解除する。

そして木製で出来た棍棒に祓刀が深く食い込むと、夜那岐は刀を抜けない素振りを見せた。

同時、大型の鬼が拳を振るい夜那岐の腹部にボディブローを行う。

その一撃を敢えて隙を作っておいた横腹に叩き込ませる事で、夜那岐はそのまま殴り飛ばされた。


「が、はッ」


腹部から伝わる激痛を陰陽術による木行と水行を複合させた植物・石油由来の鎮痛成分を分泌し痛み止めを行う。


(かなりの重傷だ、出リ羽は……よし、見ているな)


表情を蒼褪めて絶句している彼女の姿を認識して、最後に彼女に向けて手を伸ばす。


「に、にげ、て……くれ」


最期まで彼女の事を思う熱い演出をした後に、気絶する様にバタリと手を落とす。


「いや……いやああッ!!な、なんでッ……まだ、名前すら、聞いてないのにっ……」


彼女の絶叫が耳奥に入りながら、自らの出来栄えに及第点を付けた。


(さて、表面の傷は治さず、内側だけを修復しないとね)


内臓のダメージ、骨が破壊されたが、それも問題無く陰陽術を使役、骨の破損は金行による補強を行い、筋肉や内臓のダメージは土行を使い修復、殴られた事で皮膚を突き破る骨も次第に内側へと収まっていき、致命傷になりうる皮膚の裂傷も土行で再生、傷ついた神経は木行で繋ぎ合わせる。


(奇跡的に致命傷は避けられた様子には見せられるな、彼女も俺の実力を見誤って高等な回復術は使えないと思っているだろう……よし、少し様子見だ)


その間、意識を取り持つが、敢えて意識が途絶えるフリを行う夜那岐。

肉体から漏れる生命の気を閉ざす事で、先程の一撃で夜那岐が死んだと錯覚。

次の標的は、出リ羽ユズハに向けられた。



「ふ、うぐっいや、ぁっ!!」


鬼の群れが出リ羽ユズハの元へにじり寄って来る。

動く事が出来ない彼女は、このまま成す術も無く嬲り殺されると思った。

腰元に携えている軍刀に手を伸ばし引き抜こうとするが思う様に抜刀出来ない。

そうして、鬼の群れが彼女に向けて手を伸ばした時、その鋭い爪で彼女の制服を切り裂いた。


「あ……っあッ」


妖鬼と呼ばれる化物は人間の負の感情が蓄積される事で生まれる生物だ。

喜び、楽しみ、快楽、これらの陽となる感情は発散されるとエネルギーが大気と同化する。

しかし哀しみ、苦しみ、怒り、殺意と言った陰の感情は重く大地へと吸収される。

吸収されたエネルギーは経年と共に凝結していき、疑似的な生命体として出現する。


つまり負の感情で培われた妖鬼は、人間に対して限りない憎悪を宿らせている。

女性に対する劣情もまた、負の面として妖鬼に構成される肉体の一部となる。


「いやっ、やめて……たすけてッ、ぇ」


出リ羽ユズハは低級の妖鬼によって手籠めにされる。

下着を無理矢理剥がそうとする小鬼、彼女の太腿を掴んで強制的に開かせる。

柔らかな肌に指を食い込ませて痕を作り、舌先を伸ばして首筋を舐め始める。


御令嬢の高貴な肉体を余す事無くしゃぶり尽そうとした。

出リ羽も同様に、自らの運命が下種に肉体を玩ばされる末だと絶望した時だった。


「はあ……はあッ」


息を荒げながら、油断している鬼の背後から祓刀を使い首を切断する。

赤と黒が混ざる血液を噴出しながら彼女の身体に向けて倒れる鬼に、出リ羽の脳内では困惑が窮まっていた。

一体何が起きたのか、理解に苛む彼女は、死体と化した妖鬼に視界が防がれて何も見えなかった。

けれど、彼女の肉体を拘束していた筈の鬼の感触は消え失せて、必死になって鬼の遺体を退かした時、其処に移っていたのは満身創痍の怪我を負う、夜那岐旭人の姿だった。


大きく肩で息をしながら、傷ついた腹部を抑えている。

周囲の妖鬼は彼の手によって斬り殺されていて、動く気配は無かった。


「っ、ごめん、もっと早く、早く助けたかった、遅れてゴメン、ゴメンッ」


悔しさと哀しみを混ぜた表情を演じながら、夜那岐旭人は足を引き摺りながら出リ羽ユズハの元に近付くと、彼の必死な姿を見て彼女は思わず感極まった。


乱暴にされる寸前の所で救われた彼女は、安堵と共に涙を流すと、近付いて来る夜那岐旭人に手を伸ばす。

恐怖を拭うかの様に、彼女は彼の胸の中ですすり泣いた。


「う、ぐっ、怖かった……怖かった、ですッ……こんなに、怪我をして、私の為に、ゴメンなさい……っ」


様々な感情が入り乱れる様に謝罪と感謝を交互に繰り返す出リ羽ユズハに対して、片腕で彼女の身体を強く抱き締めながら、もう片方の手で夜那岐旭人はスマートフォンを確認していた。


(11時20分か……もうこれ以上のイベントは無さそうだな)


彼女の感情の昂りに反して、極めて冷静に夜那岐旭人は一日目の蟲毒を乗り越えるのだった。

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