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デコボコさえも愛おしい、冬蒔きにんじん

さあいよいよ「家庭菜園を始めたいあなたへ」も終盤となった。たくさんの方に応援していただき、私の作品の中で最高のPV数と、ランキング上位の評価をいただき、かえすがえすも感謝の念に堪えない。なんとなくで始めてしまった連載だが、今、これを書いてよかったと心から思う。読んでくださる方々へ、いつも本当にありがとうございます。


さて今回、家庭菜園の紹介では初の根菜、にんじんを取り上げる。実は根菜を取り上げるかどうかは私の中で迷いがあった。根菜はその年によって当たり外れが大変に激しく、頑張ったのに空振りという場合があり得るからだ。殊更、今回紹介するにんじんは、ほとんどの家庭菜園で一度は挑戦され、多くの場合玉砕している現状を私は知っている。連載を書き始めた当初、ラクして作れるを謳っていただけに、これ書いたら詐欺だろ……と心の中でブレーキがかかっていた。


それがなぜここに来てにんじんなんぞを紹介することへと舵を切ったか?理由は、日本全国で、にんじん生産が年を追うごとに不安定化しつつあり、その危機感から、ひとまず作る方法だけでも伝えたいという百姓としての使命感からだ。


はっきり言う。にんじん産地は現在のメインである北海道、千葉、香川をはじめとして、将来的に今よりずっとずっと生産量が落ちるだろう。需要を満たせず価格は天井知らずになり、最悪のシナリオは日本国民の中でにんじんを食べられる人と食べられない人に分かれてしまうという、そういう未来が訪れる。だから、半分は「ド田舎のドン百姓が勝手な心配してら」と笑ってもらって構わない。本当ににんじんが手に入らなくなったときに、自分で作る道筋だけ残しておくだけの話だ。


しまった前置きが長くなった。早速資材から揃えよう。

すでにおなじみになったプランター、今回もこれを使う。今回は叶うことであれば、根菜にも使える深型プランターを用意したい。ちょっと大きめのホームセンターまで足を伸ばそう。店員さんに35センチの深型プランターを問い合わせ、取り寄せてもらってもいい。


この深型プランターは、文字通り、これまでに紹介してきたプランターよりも大変深く、土の体積もたくさん入る。体積にして15リットルは入るだろうか。野菜用培土もそれにあわせて買い足そう。そして、今回はニンニクの栽培以来ひさしぶりに腐葉土にお世話になる。土に混ぜる用と表面を覆う用に10リットルほど用意すると安心だ。


このとき肥料も揃えてしまおう。私はにんじんには鶏糞を使う。にんじん向けの肥料は必要な成分からみて鶏糞か、化成肥料と有機肥料を配合したものが作りやすい。鶏糞は安く、配合肥料はやはり高価だ。もちろん配合肥料のほうが形はきれいになるが。


それから種も買い揃えよう。今回は短系(たんけい)と呼ばれる短めにまとまるにんじんを使おう。間違っても長い金時(きんとき)にんじんなど買わないように。土の深さが足りずに泣きを見るハメになる。


資材が揃ったら次に土づくり。ニンニクのときにもやったが、野菜用培土と腐葉土、肥料を混ぜてプランター8分目くらいまで満たそう。にんじんは肥沃な土を好むので、培土7、腐葉土6、鶏糞1くらいの割合で混ぜる。初めての人は鶏糞の多さにビックリするはずだ。配合肥料を使う人は量を鶏糞の半分にするとコントロールが効きやすい。


出来上がった土に水1リットルを注いで表面を平らにし、二晩放置。鶏糞が土になじんでにんじん用の土の完成だ。


続いて種まき。にんじんの種も本当にすごく小さい。風などで飛ばされないように気をつけよう。


小松菜でやったようにシャベルなどですーっと深さ2センチくらいの溝を作って、そこにパラパラ種を蒔いていこう。

蒔いたら軽く土をかぶせ、今回はにんじんの種を水分量で刺激したいので種まきと同時に水をやる。ジョウロでやるときはそっと500mlくらい。優しく霧吹きでかけるときは土の表面がしっかり濡れるくらいあげよう。


種まき終了時で12月20日より前にしたい。にんじんは芽が出るまでまあまあ時間がかかる。確認できるまで5日〜10日ほど。芽も大変細い。スマホがあるひとは芽の画像と目の前の芽を見比べるのをおすすめする。ああよかったと安心感を得られると作業も幾分負担が減る。芽を確認したら、1日おきに土の表面が濡れるくらいの水やりをしよう。この水やりはにんじんの食べる部分が育ち始めるまで地道に行う。


さあ、芽が出たら第1関門を突破した。次は間引きだ。芽が出たあと2週間で間引きに入る。本当にもったいないのだが、残すのは最初にまいた種の三分の一くらいの数にしよう。みんな育てたいがみんな育てると鉛筆のような太さのにんじんになってしまって使うのが辛くなる。感謝の気持ちで間引きしよう。間引きしたにんじんは葉っぱも食べられないことはない。葉っぱをざっくり刻んで生のままサラダにしても食べられるし、茹でておひたしにしてもなかなかいける。


間引きが終わったら、この時点で年が明けて1月の大寒の前くらいだろうか。ここでにんじんは一旦成長がストップする。大きさが変わらないと焦るが慌ててはいけない。なんの植物も成長するときが来るとスイッチが入ったようにグンと成長するからだ。


約1ヶ月くらいは成長は鈍足だが、2月末から成長が早くなる。追肥するときはここで追肥してもいい。プランター1つに、鶏糞なら200g、配合肥料なら80g、ばらまきで追肥する。根元にだけあげるとかえって根っこを傷めるのでプランター全部にバラバラと均一にあげよう。


3月からはそのまま水やりだけ気をつけて毎日様子をみてやろう。ここからは害虫の心配がつきまとう。一番深刻なのはキアゲハの幼虫。葉っぱを食べる量が段違いなので、葉っぱに芋虫がついていたらすぐ取り除こう。

苦手な人ほど早く取り除くべきだ。キアゲハの幼虫は触るとアグレッシブに反撃してくるとんでもない奴なのでなおさら初期段階でなんとかすべきだ。手に負えなくなる。


4月。ここから徐々に与える水分量を減らしていく。水をやる頻度を減らし表面の土が白く乾くまで水やりを控えるのだ。

にんじんの食べる部分は、もとはと言えば中央アジアの乾季を土の中でやり過ごすためのものだ。


だから乾き気味に管理することで根の肥大を促せる。ここまでくるとにんじんの肩の部分が土から飛び出して見えるかもしれない。あまり土から高く飛び出している場合は、腐葉土を毛布のように追加して肩の部分を覆い隠そう。陽の光に当たったにんじんは、独特のクセのある匂いが強く出るようになるのでなるべく土の中にいてほしいのだ。


5月。この時期からにんじんはもう食べられる。ゴールデンウイーク中に試しに1本引き抜こう。おそらく、店売りの艷やかで滑らかな肌とは違う、ボコボコの形になっているはずだ。

でもそれで構わない。だって家庭菜園なのだから。それもまた愛嬌のうちだ。慣れればその形こそが愛おしくなってくる。それでいいと思えてくる。冬まきのにんじんの良さは、寒さに当たり続けたことによるアクの少なさだ。にんじんにありがちな何とも言えない臭いと、薬っぽいとも表現される苦味がごく軽く、その分素直な甘みを感じられるはずだ。


試し掘りをしたらあとは、使うたびに1本ずつ収穫するようにして構わない。だが、にんじんは真夏日の暑さに反応して花を咲かせる。花が咲くと余計な力を消費してにんじん本来の甘みが減ってしまうので、叶うことなら5月中に、暑くなる前に全量掘り出してしまおう。

掘り出したら新聞紙などに包んで真っ暗な状態を作ってあげると長持ちする。とはいえ保存の効く野菜とは言い難いのでなるべく早めに食べよう。 


暇庭のお勧めは、土を洗い落としたにんじん2本分を皮付きのまま乱切りにして、フライパンに入れ水をコップ1杯入れ弱火で蒸し茹でにする。10分程度茹でて、やわらかくなったらお椀に取り出して、スプーンなどで軽くつぶす。完全に潰しきらなくても大丈夫。食感が残ったほうがおいしい。

潰したにんじんに、シーチキンを混ぜよう。油ごと入れてしまってかまわない。ノンオイルを使ってもOKだ。


にんじんとシーチキンを混ぜたものに、卵を2〜4個入れる。卵と具材をよく混ぜて、フライパンに油を大さじ1敷いて静かに卵液を入れ、ごく弱火で点火しふたをして8分。にんじんとシーチキンの厚焼き玉子の完成だ。にんじんの独特の薬臭さはどこへやら。シーチキンのうまみとにんじんの甘さが贅沢な卵焼きを食卓に提供してくれる。食べるときにお好みでウスターソースやケチャップをつけたり、胡椒を振ってもおいしい。


いかがだっただろうか。根菜類はわりと、家庭菜園では作るのが難しい部類に入る。

ここまで手をかけたのに期待する量が取れないということは別に珍しくもない。それでも、年々難しくなるにんじんの供給に対して、街でも自分でにんじんを作れることの意義はあるはずだと暇庭は信じる。

にんじん高くて嫌ねぇと思うそこのあなた。今年こそ家庭菜園でにんじんをチャレンジするチャンスなのかもしれない。


以下5段階評価によるにんじんの評価

暑さに耐える力:★★※¹

寒さに耐える力:★★★★※²

作りやすさ:☆※³

※¹暑さで枯れることはあまりないが、花が咲いてしまうのが問題。甘みが落ちるので花芽が出てきたら迷いなく収穫しよう。


※²寒さには強い。とくに寒さ対策をしなくてもちゃんと育つ。セリの仲間なのになんでそんなに強いんだ。不思議。


※³作るのははっきり言って難しい。べつに作り方間違ってないのになんか小さいなあとか、年によってほとんど採れないことすらある。にんじん以外のものも育てながらだとがっかりしないで済むはずだ。

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