家庭菜園の人気者、ミニトマトを甘〜く味わう
前に書いたニンニクでもちらっと触れたが、家庭菜園と聞くと反射的にミニトマトを思い浮かべる方は多いのではなかろうか。なんとなくボヤーっと思い浮かべる家庭菜園の花壇には、たぶんミニトマトかトマトのどちらかが入っているはずなのだ。
これはなぜかというと、我々が小学校低学年時代、植物を育てる生活の学習のプログラムにミニトマトが入っている場合が多いからだと思う。生活は確か理科と社会の要素をミックスしたみたいな授業だ。小学1年生の時だけカリキュラムに入っている……たぶんそのはず。専用の鉢で種から育てる体験をした方、結構多いはずだ。
なので、家庭菜園でミニトマトを作ろうとなった際、その時の思い出やイメージを無意識に下敷きにしてミニトマトを育てる人は多いと思うのだ。
遠回りに家庭菜園のゲートウェイとして機能していることを考えると、ああいったものはやはりありがたいなと思う。興味がなくとも種から芽が出て育つ過程を一度は学習するというのは重要な意味があるのだ。
そんなわけでわりと自分で育てるイメージの湧きやすいミニトマトだが、百姓の私からも強くおすすめできる野菜だ。
なぜか。それはミニトマトという野菜が、育て方によってはっきり味に違いが出る野菜だからだ。
同じ品種なのに作り方によって全く別の味や香りになったりする。作り方の良し悪しではない。その人がどういうトマトを願って作ったのかという足跡が、ミニトマトの味に表れてくるのである。
さあ今回は長くなる。分割して読んでもいいので最後まで読み通してほしい。ただひたすら、あなたの理想のミニトマトを追うためだけに。では始めていこう。
まず資材紹介から。しばらくこの連載ではご無沙汰になっていた植木鉢を今回使おう。プランター栽培ももちろんできるが植木鉢のほうがミニトマトの全周囲から様子を見ることができる点で優れている。植木鉢の大きさは、可能なら10号を使おう。店員さんにも聞いてみてほしいが結構でかい。そんなにでかいのは使えないというときは、8号を使ってもいい。6号から下は土が乾きやすいせいで世話が大変になるのでお勧めはしない。
それから、サヤエンドウのときにも紹介した支柱を使おう。これは太さは関係ない。トマトの一番メインの茎に添えて結束バンドで結わえるものだからだ。ひと鉢1本、1m50cmくらいまでがやはり扱いやすい。
それから、結束バンドも揃えよう。支柱とトマトの茎を結わえるためだ。一番安いものでいい。トマトに実がなって重くなってきたときに茎がひん曲がってしまわないようにというだけの話だ。
土はいつもの野菜用培土。6リットルあれば十分だが大容量を買うのがやはり経済的ではある。
そして今回は肥料選びに大きな幅がある。私のように調整が楽な液肥勢もいるし、量を穫りたいということで高度化成肥料を使う人もいる。
安くあげたいので鶏糞という人もいるだろう。私はこの手のものには液肥と決めている。バランスを崩しにくく少量から調整していけるのがよい。トマト専用肥料なんてものもあるのでそういうものを使ってもいい。ホームセンターで店員さんに聞くと詳しく教えてくれれるだろう。
そして今回はミニトマトの苗を買うわけだが、ここで1つお節介を。黄色いタイプのミニトマトが最近増えてきているが、赤以外はどうしても難しい。特に初めての方は赤いミニトマトにしよう。ぐっと難易度が下がる。
資材と苗とは調達できたろうか?では土を作っていこう。植木鉢の底に穴があいていれば小石を置いて軽くふさごう。これで土がこぼれるのを防ぐ。野菜用培土を植木鉢8分目まで入れて水1リットルを入れる。よく混ぜて二晩放置だ。この間に培土の中に入っている保水用の木の繊維が湿気で開いて水のタンクの役割を果たすようになる。
出来上がった土の中心に手かシャベルで深さ4センチていどの穴を開けて、ミニトマトの苗を入れよう。ポットから外した土の部分が入ったら周りから土を軽く寄せる。これでOKだ。
たぶんこの作業をするのが3月中ごろかと思う。ミニトマトはすぐ大きくなるため、毎日様子をみてやろう。背丈が伸びるにつれて、メインの茎と花芽の他にも、脇芽が出てくる。脇芽の見つけ方は検索してもらったほうが早いが、縦に通っているメインの茎と、そこから横に出る枝の間。斜めにニュッと突き出してくる芽があるはずだ。
それが脇芽。脇芽はたしかに花を咲かせるし実もつくが、生育序盤の脇芽はミニトマトの株を疲弊させてしまい、収穫量が少なくなるので取ったほうがいい。『芽かき』という作業だ。
水は面倒でも霧吹きであげる。根元に吹き付けるのでなく霧のシャワーを全体に浴びてもらう感じだ。そして土はびっしょり濡らさないよう気をつける。後で話すが、トマトは育つときの水分を制限したほうが味が濃く満足感のある出来になるのだ。
植えてから10日程度経つと、最初のつぼみが見えてくるかと思う。肥料を使うならこの時1度目を使おう。私は液肥を説明書通りに薄めて使うし、緩効性肥料を植木鉢の中に置くだけの人もいるだろう。一般的に、長く収穫しつづけたいなら、8-8-8と呼ばれる、バランスのいい化成肥料が使いやすい。化成肥料なら量は小さじ1杯程度だ。
肥料をあげたら、ミニトマトに支柱を立てよう。幹に添えるように支柱を立てて、根元と真ん中で結束バンドで留めてしまう。茎はこれから太くなるため、あまりギュッと締めずにややフラフラと動くくらいにしておく。これで後でたくさん実をつける時が来ても重さで茎がひん曲がってしまう事態を避けられる。
そんなことをしているうちに花が咲く。黄色の小さな可愛らしい花だ。ミニトマトは受粉率は大変高く、花が咲いたときはほとんどの場合実になってくれる。
花が咲いたあと2日程度で、しおれ始めた花びらの奥に、マッチ棒の先くらいの実ができてくるのがわかるだろう。ここから味を決める作業に入る。
実ができたのを確認したら、水をあげる量を減らす。土の湿り気があまりなく、白っぽく乾いているくらいのほうがいい。当然ミニトマトは水気が無くてしおれるのだが、しおれたときだけ霧吹きでトマトの葉と茎にシュッシュッと水をあげてやる。トマトが成長できるギリギリの水分量を保ち続けるのだ。
すると、トマトの茎の部分にぼつぼつと、ニキビのようなできものが出てくる。病気か?と心配になるだろうが心配ご無用。トマト本来の強さが目覚めた証拠だ。
このぼつぼつは、実はトマトが空気中に生やす根っこの一種で、気根という。与えられる水が少ないため、空気中からも水分をとるべく茎から根っこが出てくるのだ。状態が進むと本当に茎から白い根がブラシのように伸びてくる。人によってやや気味悪く見えるかも知れないが、私はこの状態がむしょうに愛おしい。本当にミニトマトは強い植物だと感心してしまう。
ミニトマトは花が咲いてからおおよそ3週間で色づいてくる。せっかく家で育てているので、ヘタの周りに赤みが差すまで収穫は我慢だ。完熟したミニトマトは本当に美味いのだ。
完全に熟したらミニトマトの収穫に入る。手でもいでも構わないし丁寧にやりたいときはハサミで軸を切り取るとヘタつきの見栄えのする姿になる。
もぎたては家庭菜園の醍醐味。すぐに食べてみよう。素晴らしい感動があなたを待っているはずだ。店売りのミニトマトなんか競争相手にもならない。濃く甘い味、深くて尖りのない酸味、もしかしたらわずかにリンゴのような、ブドウのような、フルーツに似た香りを感じるかもしれない。エステル香という。鳥に食べてもらい種を遠くまで運んでもらうミニトマトの戦略の1つだ。
水やりを少なめにキープし続ければ、その味の濃いミニトマトがずっと穫れ続ける。私がやったときは5月はじめに最初のミニトマトを食べてから、9月のお彼岸頃まで1日2〜3粒ほど熟し続けた。茎からは水を求めて気根がもさっと伸びてきて、梅雨の湿度90パーセントもあるような日はそこから水を吸っているのだろう、花の咲くペースがガツンと上がり感心しきりだった。ミニトマトすげぇ。
逆に味の濃さにはそれほどこだわらないと思うなら、ジョウロで普通に水をあげてやる。この場合収穫量は1日10粒を上回る日も多いだろう。収穫量の確保がしたいなら肥料も半月に一度ていどあげてやれば11月までずっと食べ続けることができる。
ミニトマトはもいですぐ食べてもいいし、サラダに使っても、卵と一緒に中華風の炒め物にしてもおいしい。初期投資に対するリターンが特に大きいのも嬉しい。1000円ていどの資金で1万円分のミニトマトを収穫することも夢ではないのだ。
というわけで様々、自分の好みにあわせて作り方を変えられるのがミニトマトの良いところだ。ぜひあなたも、自分が理想とするミニトマトを、自分の手で育てる喜びを味わってみてはいかがだろうか。
以下5段階評価によるミニトマトの評価
暑さに耐える力★★★※¹
寒さに耐える力★※²
育てやすさ★★★※³
※¹夏野菜なので暑さにはだいたい、耐えられるが、気温33℃から実のつき方が悪くなる。暑い時期には日陰やサーキュレーターを適宜使って暑さから逃してあげてほしい。
※²寒さには弱い。とはいえ夏に育てるため気になることはない。15℃を下回ると生育が止まる。約5℃前後で枯れる。
※³初期投資は安い。だが脇芽かきがやや面倒だったり水やりに神経を使うので全体的には普通くらい。




