早い、楽、安いの三拍子、小ねぎの再生栽培
秋から新しい試みとして、百姓のせがれとして書いた、いくつかのエッセイ。これが全く思いがけず反響が大きかったことに、私は素直に驚いたし、また嬉しかった。読んでくださった皆様、評価をつけてくださった方々、感想までも書いてくださった皆々様へ、感謝の言葉を述べたいと思います。田舎のドン百姓の書いたものを、他の方の素敵なエッセイと同じスタンスで読んでくださったこと、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございました。
ところで、10月の末に職場で、今は物価高騰をきっかけとして野菜を買う量と頻度を抑えるべく、家庭菜園を始めるお客様も多いと聞いた。
そっかぁ……やっぱみんな苦しいのねと思いつつ、先のエッセイの好評もあって、百姓の端くれとしてお節介を焼きたい欲求の抑えがたく、来年家庭菜園をやってみようかしらとか、プランターで少し何か作って家計の足しにしようかとか、そんなことをお考えのそこのあなたへ、暇庭からラクして採れてしかもご家庭で使える野菜と、その作り方をご紹介したい。
では、より難易度の低いプランター栽培から出発しよう。所詮おっさん弱小農家のお節介、いざ、推して参る。
まず1つめ、小ねぎ(万能ねぎを含む)。
よくわかんないけどとりあえずなんか育てたいんだけどと言われたら間違いなくコイツである。
プランターどころか100均の500ml体積の植木鉢でも全く問題ない。先駆者の中にはペットボトルの底にハサミを突き刺し穴を開けたものでやり始める豪の者もいる。土は何でもいいのだが、どうせ100均で植木鉢を買うなら野菜用の培土もそのお店から買って使おう。同時に、店員さんに「何の植物に使ってもいい液肥ありますか?」と聞いておすすめされた物の中から1番好きなものを買おう。
家に帰ったら、植木鉢にすりきりいっぱいの培土を入れ、液肥を説明書通りに土に撒いておく。これでプランターの準備はOK。
肝心の小ねぎはどうすんのとお思いの方、スーパーに行って小ねぎの束を買ってこよう。今の時期鍋の薬味にしてもいいし卵焼きに入れてもまた美味いのだが、テープで綺麗に束ねられた根っこの部分が残るはずだ。
オイまさかとお思いの方、また小ねぎをなりわいとする生産農家の方々へ、先に謝っておく。申し訳ない。これも家計のためである。百姓をやっておきながら生産者の販路を狭める形になってしまう事実、もし恨みあらば暇庭が受けよう。
使い終わった小ねぎの根っこ、それを先の植木鉢に、指でグリグリ穴を開けて、根っこから2センチ、指の節一つ分程度いれて、そうして周りから土を少し根元に寄せてやる。決してふざけてはいない。大まじめだ。こんなことで次の小ネギを狙えるのだ。
小ネギを植えた鉢は、そのまま土がこぼれないように台所に置いておいてOK。水は土の表面が少し乾いたら湿らせる、を繰り返す。液肥は小ねぎを切り取るたびに、ありがとうねの気持ちを込めて1回分あげる。お仕事が休みの日には、小ねぎを日なたぼっこさせる気持ちで太陽の光に1時間くらい当てたほうが成長は早い。
根っこと株元だけだった小ねぎの残りは、そんなことだけで再生を開始する。切り取られた株の根元から、濃い緑色の葉っぱが伸びてくるのはなかなかに愛らしい。
使えるサイズに育つまでだいたい半月。種から育てる野菜が食べるまでに最速一ヶ月位かかることを考えると、再生栽培とはやはり凄まじいサイクル速度だ。味としても買ったときそのままとはいかないが、薬味としては役割を果たせるレベルのものがずっと穫れ続ける。
栄養としても小ねぎはビタミンCをはじめとしてビタミンB1、ネギ類の中では多めのβカロテンなどを含み、月に2回インスタントラーメンに細かく切って入れるだけでも野菜不足の身体ダメージをいくらか軽減する。初期投資の割に穫れる期間も長く、暇庭が過去にやった事例では1年半程度育っては穫り、育っては穫りと活躍してくれた。なんかよくわかんねーんだけど野菜食う機会ないんでなんか育てまーすという方、ぜひ小ねぎから始めていただきたい。
以下5段階評価による小ねぎの特性
暑さに耐える力:★★★★ ※¹
寒さに耐える力:★★★★★ ※²
育てやすさ:★★★★★ ※³
※¹暑さにも強い。気温約35℃まで余裕。それを超える暑さ(あるいは外出時の室内気温)のときは少しサーキュレーターなどで風を当てよう。土の水分が風で乾く時に適温に保ってくれる。
※²寒さは本州以南ならどこも心配なし。気温マイナス5℃まで耐えられる。屋内なら寒さ対策は何も考えなくていいし外の気温もそんな下がらないというなら屋外に置いておいても大丈夫。
※³たいへん育てやすい。この値は初期投資と手間のめんどくささの掛け算で決まり、金がかかるか手間が必要なほどに評価が低くなる。
小ねぎは六百円程度ですべての用意を整え以降は水やりと肥料を適切に行うだけ。楽ちんだ。




