①後輩とセンパイ
近い設定が供給されたので供養。
後輩…女子
先輩…男子
「私、いろんなものが好きで。
もちろん嫌いな子もいますけど、同じクラスの子なんか大抵好きですし、隣のクラスの子も結構好きな子います。
アニメ見たり舞台観たりすると好きなキャラや演者さんどんどん増えて、結局箱推しになっちゃって…まあ、出費嵩みすぎちゃうから控えてるんですけどね。
ゲームも好きだし、漫画も好き。色んな世界を見て、現実の色んな情景にさらに色付いていくのが好きで。
でも、嫌いなんです。
人を好きな私が嫌で、物語を好きな私が嫌で、世界を好きになる自分が本当に嫌で。
そうするうちにその人も、物語も、世界すら嫌いになっちゃう…それも嫌で、何もかも嫌いで。
だから好きなものを好きになる時は、自分がそこにいなくていいように好きになる。
好きな世界に、好きなものだけあるように。
『好きなもので縁取った空っぽのわたし』なら、嫌いにも好きにもならないで済むから。
そうして生まれた好きなものから作られた違う空っぽのわたしを演じて、わたしは全部好きになる。
大嫌いな私はそこにいないから、ぜーんぶ好きでいられるの。
好きな世界で、好きなものに触れて、好きなわたしが生きている。
私はそれがいいの。
だから、わたしじゃなくて私を好きなあなたが、私は殺したいくらい嫌いなの。
あなたのせいでわたしに私が混じり込んで、好きが全部嫌いになりそうだから。
わたしを生かすために、私を殺すために、わたしたちを生かすために、あなたを殺すの。
殺さなきゃいけないの。
どんなに私が好きになっても、殺したくなくても、わたしが死んだら、私も死ぬ。
私が死んでも、私が残る。
わたしは、私はわたしのために、あなたを殺すの」
「別に良いじゃねえか、嫌いなままで。
誰も彼も嫌いを切り分けて生きてるわけじゃない。
表面に好きなもんを貼り付けて、取り繕って生きてるんだ。
そうやって好きなもんで固めた自分と、嫌いな自分で固まっちまった自分で切り替えて生きていくんだ。
嫌いなもんで関わった相手と、楽しく過ごしたり、他の好きなもんで分かり合えることなんざそうそうない。一生マイナスの関係だ。
好きなもんで関わった相手と、好きなことで話して、笑って、遊んで分かりあう方が良いだろ。
嫌いなもんがあったとしても、他の好きなもんで取り繕える程度の穴ならそうすりゃいい、ダメなら離れりゃ良い。
みんなそうして、好きなもんだけのフリして生きてんだ。
切り替え方がわかんねえなら教えてやる。分かるまでそばにいてやる。
お前が俺を嫌って、お前が好きな俺を好いて、嫌いと好きを切り替えれるようになれるまで。
そん時には俺のことは嫌いに振り切ってるだろうが、嫌いの片隅でたまに思い出してくれりゃ良い。
おせっかいで、バカな先輩だったと、笑えば良い。
嫌いなことでも、過ぎれば笑えるもんだ。」
「あたし、ハッピーエンドが好きで、でもみんな何もできずに滅ぶバッドエンドも好きで、
何も持たない主人公が少しずつ強くなるのも好きで、でもそれを生まれながらの天才がぶち壊すのも好きで、
低予算なのにありきたりな展開から急などんでん返しみたいなストーリーが好きで、でもそう言うので良いB級の映画ってほとんどが駄作で何個も見てられなくて結局あんま見れてなくて、
恵まれた予算からシリーズ全部を無に返すようなガッカリな続編も好きなんですけど、でも積み重ねてきたものがあるからその感動があるから好きで、
いつか、いつか先輩を、何度も、何度も突き刺す妄想が、好きで、大好きで、やめられなくて、絶頂しそうなくらい、したくらい、何度も考えて、こうしたくて、
でも、でも私は、先輩に死んでほしくなくて、生きてほしくて、私を好きでいてほしくて、嫌わないでほしくて、一緒にいてほしくて、一緒に、帰って、手を繋いで、帰りたくて
なのに、やめられなくて、手も止まらなくて、わからなくて、血が出て、なんか刺さりが悪くって、びちゃびちゃして、あったかくて、気持ち悪くて、止めたくて、気持ち良くて、せなかがきもちわるくて、やめたくなくて、止められなくて、大好きで、何よりも、大嫌いで、大好きで」
「そんだけ、好きがあれば、誰かと好きで、繋がれる。
繋がれなかったら、一緒に帰りゃいい。
また明日って、言ってやる。」
『拝啓、センパイ。
お元気でしょうか。
元気なはずです。全部、無かったことになってますから。
先輩がこの街に来て大体3ヶ月。
全部戻ってますから、夏休み前の頃に戻ってるはずです。
だから生徒会との一件も、組織との戦いも無かったことになってます。
また夏休みが楽しめますよ、今度はラジオ体操、毎日出なきゃダメですからね。
また夏季合宿やり直しなのは許してくださいね、そこは先輩の勉強のためです。
あと、もちろん、私も無かったことになってます。
でも大丈夫です、空いた穴は代役を立てておきました。近場にいた同い年の子。
周りからは違和感無いですし、これまでに起きてることも含めて私を知ってる人の記憶は都合よく調整してあります。
先輩の記憶だけは弄れませんから、こうして手紙でお伝えしてます。
ほんとは全部無くなっちゃえ、作り直して終わり、ってつもりだったんですけど。
冷たい先輩の身体の上で、私にも好きなものがこんなにあったんだな、って。
だから、もう少し考えることにします。
今までの私は好きなものも全部わたしが好きだと思って遠ざけてましたが、好きなものと嫌いなもの、裏表を切り替える。
そうやって人と関わってみようと思います。
もちろん、もう力は使いません。迷惑もかけません。
使えません、っていうか。
世界全て書き換えるにはわたしの全てを使わないといけなかったので。
本当なら存在ごと無くなるはずでしたけど、なんの計算ミスか3年ちょっと命が残りまして。
奇跡か贖罪かわかんないですが、言われた通り生きてみます。
学生生活一回分、好きと嫌いを勉強してまいります。
最後。
先輩のこと、大っ嫌いでした。
帰り道に一緒に買い食いしてくれないとことか、
新しい知り合い優先してわたしを蔑ろにしてたとことか、
ジュース買う時に人のもの先に聞くとことか、
何かあった時に自分を大事にしないとことか、
私が疑われたときもさいしょにかばってくれたとことか、
だれもわかってくれないのを、きいてくれたこととか。
さいごまできらいでした。
ずーっと、嫌いです。
私が死ぬときまで、嫌いなままでいます。
新しいわたしの好きには入れてあげません。
ずっと、私の唯一の嫌いでいてください。
バイバイ、センパイ。』
「…あら?この時間に来訪予定は…」
「…何か御用でしょうか。」
「会議中です、生徒の立ち入りは…わぷっ!」
「12番と16番封鎖室の鍵、及びその保護遺物の使用許可の申請書です。可能であれば18番、今月頭に保護した保管中の19-4番も使用許可を希望します。」
「それは機密、あなた何を知っ…!」
「それとこれが夏季合宿の際に誘拐目的で侵入する犯罪組織の首謀者、及び関連する人員のリスト。ついでに一部は覚えている範囲で能力の分析まで記載済みです。
これがあれば当面生徒会の人員は手が空くでしょう、副委員長と庶務のお手をお借りしたい。」
「…あなた、噂の転校生、ですね。
何者ですか。目的は?」
「強大な過去改変、及び時間逆行の遺物による被害の回復のため…いや、違うか。」
「世話焼きなセンパイです。
後輩を連れ戻すため、無茶をしに来ました。」




