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世界の光は君と一緒に  作者: いとい・ひだまり


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12/12

11 安寧

「トーマさんやメーテさん、見てるかしら」

「どうだろう。案外祭りの方に行ってるかも」

「それはそれで」


 僕達は笑う。二人でレイスターの丘の上に座り、ある光を見つめていた。

 毎年、女神の泉から真っ直ぐに天へと昇る白い光は癒しの光。また救済の光とも言われ、迷える魂も悲しみも、全て包み込んで癒してくれるという。人々はその日に故人の墓を参ったり、一年の終わりと始まりを祝して祭りをしたりするのだ。


 あれから半年。レイラと一緒にトーマとメーテのお墓参りに行った。トーマには、「これ美味くて好きなんだよな」と言っていた僕お手製の紅茶の茶葉を。メーテには、「懐かしい匂いがして好き」と言っていた香油をそれぞれお供えした。どちらも、作る時にレイラが手伝ってくれた。

 メーテのリュックから持ってきた錬金術の本と、彼お手製の木箱は彼とその家族に渡した。「ありがとう」と言われたけれど、痛みは残っている。やっぱり生きていてほしかったから。


 だけど彼らを置いて、世界は平和になった。そして時間は進んでいく。

 過去に思いを馳せる余裕は生まれたけれど、いつまでも引きずってはいられない。だから、僕は生きる。彼らの分まで。最期まで。



 ――朝日と共にファンファーレから始まったエレの祭り。僕達は夕方頃から参加して、日が落ちてきた広場には明かりが灯り始めた。

 広場には出店がいくつか。甘いお菓子や塩気のある軽食。そして音楽があって、僕はレイラと、街のみんなと踊る。


「五年ぶりだ」

「そうね、わたしも五年ぶり」

「レイラは祭りには行ってたんじゃないの?」


 レイスターは端の方だったお陰で、戦争の影響は殆どなかったと聞く。そのお陰で小規模ではあれど祭りは開催していたらしい。


「そうね。でも、あなたと踊るのは五年ぶりだわ」

「おまたせしちゃったね」

「それ何度言うの?」


 レイラがくすりと笑った。腕の中で彼女が微笑むので、僕の頬も緩む。


 彼女の頭には、僕がトーマに教えてもらいながら作った少し不恰好なカチューシャ。最近作った綺麗なものもあるし「無理して付けなくていい」と言うのに「可愛いから」と付けてくれる。それにしても、カチューシャだけ見ると不恰好だったのに、レイラが付けているとまるでそういうデザインかのように見えてくる。少しだけ色の濃いカチューシャは、レイラの銀の髪とよく似合っていて可愛い。


「……ねえアスタ、わたし一つだけ謝りたいことがあるの」

「何?」

「あなたと初めて会った日に、わたし達結婚したでしょ? でも、説明してもらってそれが何かは分かったわ。でもあなたが素敵だったから……ちょっと、分からない振りしちゃった。騙しててごめんなさい」


 申し訳なさそうに、けれどいたずらっぽく笑う彼女に、僕は溜め息を吐く。でもそれは怒っている訳ではなくて。


「もっと早く言ってくれてよかったのに。僕はもう惚れてたよ、とっくの昔に。……気付いてたんじゃない?」

「ごめんなさい。言い時が分からなくて。あと、素直になれなかったの」


 レイラは言う。やっぱり僕の気持ちは気付かれていたみたいだ。本当に隠し事が苦手だな……。それとも、レイラだから僕のことが分かってしまうんだろうか。


 出会って九年。長かったのか短かったのか、彼女と過ごしたのはその内の四年な訳だけれど、振り返ってみればあっという間ではあるものの、本当に色んなことがあった。出会って、別れて、命を背負って、使命を背負った。

 僕はレイラの瞳を見つめる。きっと彼女がいなければ、僕は今生きていなかった。


「レイラ。ずっと、生きて僕の帰りを待っていてくれてありがとう」

「アスタこそ、生きて戻ってきてくれてありがとう。……あなたがいない夜は、とても寂しかったわ」


 レイラがそっと、僕の胸に頬を寄せた。


「ごめん。もう一人にはしないよ」


 もうこれ以上の争いや騒乱はあってほしくないし、そんなことは起きないと信じている。けれどもし何かあれば僕は絶対にレイラを守るし、彼女がいれば僕はどんなことでも乗り越えられる。そう強く心に思う。


 レイラが僕の手を取って、踊っている。

 当たり前に感じられるこの温もりに、僕は心の底から幸せを噛み締めた。


 金青(きんせい)の空には綺麗な星が散りばめられて、広場はその光と人の作った明かりで温かく照らされている。そして街の建物の間から見えるのは、女神の泉から放たれる一筋の光。眠れない夜、酷い思い出……それら過去も全てを包み込んでくれる、癒しの光だ。五年ぶりの故郷と祭り。そして……


「レイラ」

「なあに? アスタ」

「愛してる」


 一瞬目を丸くしたレイラは、すぐに柔らかい顔で微笑んだ。


「わたしも、アスタのことを愛してるわ。とってもとっても、愛してる」


 ずっと言えなかった。遠慮して、素直になれなくて、親しいけれどお互いに何とも言えない関係だった。でも、これからは違う。

 彼女の頬に触れる。柔らかくて、温かくて……そんな感触がした彼女の唇。初めて交わした口付けは、どうしてだろう、世界のどんなものよりも甘い気がした。


「ずっと言いたかったの」


 紅く染まった頬の上には、滲んできた涙が少し溜まっている。僕はそれを指で拭うと、泣きそうな笑みを浮かべているレイラを抱きしめた。


「僕の方が、ずっと言いたかった」

「いいえ、わたしの方よ」


 くすす、と小さく一緒に笑う。

 その夜は、女神の光が例年よりずっと明るく世界の空を照らしていた。







最後まで読んでくださりありがとうございました! 面白かったでしょうか……?

リアクションボタンなど押していただけるととても嬉しいです(*´꒳`*)



この回の挿絵はこちらから見れます。

https://cdn-image.alphapolis.co.jp/story_image/910927/a2583938-1c6e-4c1b-b2cd-58741a1aa868.png


原形、ボツはこちら。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26861897



九月は一話完結のお話をいくつか載せるつもりです。

ご縁があればまたお会いしましょう。それでは。

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