10 レイスター
「何だか、賑やかだね」
「ええ。それにルスタル軍の侵攻があった筈なのに、街が綺麗になってるわ」
僕達は不思議な光景に辺りを見回す。
レイスターは五年前と同じように活気を取り戻し、子ども達が楽しそうに街を駆けていく。店先からポプラテのいい匂いも漂ってきた。
「あれ? おまえアスタ、戻ってたのか。それにレイラちゃんも」
懐かしい声に振り向くと、本屋のおじさんが立っていた。多少シワが増えたような気もするけど、昔と変わらず明るく人のよさそうな顔をしている。
「えっと、ついさっき。おじさん元気だった?」
「俺は元気よ。元気も元気。戦争も終わってもう何も心配はねえ。にしてもレイラちゃんどこ行ってたんだ、三ヶ月も。侵攻の後見かけなくなって心配したんだ――」
「ちょっと待って」
「何だよアスタ」
僕とレイラは顔を見合わせる。
侵攻というのは、ルスタル軍から僕とレイラが逃げたあの日のことに違いない。でも僕達が洞窟に入って出てきた時間は、どれだけ長く考えても二日が限界。それが三ヶ月って……。
「おじさま、本当に三ヶ月も経ったの?」
「あぁ、本当だ。しっかり覚えてる。ハイノールが消えた事件があっただろ。あれから数日後に結局割れたハイノールが帰ってきて、主要な動力源がなくなったうちはそのままルスタル国かヒーツカ国に持ってかれてしまうかと思ったんだが……自然災害が起きてな。基地という基地はボロボロのズタズタ。おまけに植物があり得ない速さで育って森みたいになってなぁ」
おじさんは身振り手振り、表情もころころと変えて説明してくれる。この分かりやすさと慣れ親しみやすさも懐かしい。
それにしても、帰ってきたハイノールは何なのだろう。女神様はハイノールを壊してはいなかったし、偽物の石なんだろうか。
「それで基地やら戦闘機やらが使えなくなって、戦争が沈静化していったんだ。災害が起きてる間、復興やら何やらで忙しくしてたらいつの間にか戦争が終わっててな。ソノワール国がハイノールで威張ることはなくなったし、ルスタル国は野望を捨てたのか知らないが大人しくなったし、協定を結んであっという間に世界が平和になっちまった。拍子抜けみたいな感じだが……まあ何にしろ戦争は終わったんだ。お前らもまたこの街でのんびり暮らせるぜ」
「そっか……。そっか、ありがとう教えてくれて」
「おう。にしても本当どこ行ってたんだ?」
「え? それはえっと……」
僕が慌てて言い訳を考えていると、レイラがぱちとウィンクをして
「アスタを見た気がして森に行ったのよ。そしたら本当に会えて、女神の泉にお祈りを捧げに行ってみたの。そして洞窟から出てきたら三ヶ月経ってたの。わたしもびっくりしたわ」
上手く真実を交えながら嘘を吐く。僕より頭が回るからこういう時助かる。というか、僕ってやっぱり嘘吐くの下手なのかもしれない……。レイラと五年ぶりに会った時、隠し事すぐバレたし。
「そんなことあるかぁ……?」
「だって女神の泉だもの。何だってあると思わない? ハイノールを貰ったのだって、女神の泉でしょ?」
「……確かに、それもそうかぁ。自然災害だって、女神様が起こして戦争を止めてくれたのかもしれねえしな。ま、二人ともおかえりってことだ」
「うん、ただいま」
にかっと笑ったおじさんの顔に、とことん安心する。
ここはいつもの街だ。傷を負った人もいるだろうけど、もうそれは起こらない。また今まで通りの……いや、随分と待っていた、望んでいた平和な日常が待っている。




