第93話
ここはウエスの森の中に建つ丸太小屋。
リリィたちは前日の夕食会の後、夜遅くまでフィーネとの思い出話に花を咲かせ、そのまま眠りについた。
翌朝、
トントン
ドアをノックする音がする。
しかし、皆眠っていて誰も気づかない。
トントントン
またノックする。
ゴブローのいびきがノックの音をかき消す。
ドンドンドン!
ノックの主はかなりイライラしているようだ。
ぐおーぐおー。
ゴブローのいびきが更に大きくなる。
しびれを切らせたノックの主は、ドアを蹴り開けた。
「お前たち、いい加減に起きないか!ぼくが帰ってきたぞ!」
ノックの主は姿を消していたイブだった。
皆、驚いて飛び起きる。
「イブ!お帰りなさい!」
リリィが眠い目をこすりながら出迎えた。 他の皆もイブの姿に気づいて駆け寄る。
「何処に行ってたんだ?イブ。」
ゴブローが訊ねる。
「まぁ、色々あってな。取り敢えず、何か飲み物をくれないか?」
イブはそう言うとリビングの椅子に座った。
リリィが紅茶を淹れて持ってくる。
イブはそれを一口飲んで、
「リリィも紅茶を淹れるのが上手くなったな。」
そう言って、ホッと一息ついた。
「イブの話を聞かせてくれないか?」
オルガが言う。
「わかった。みんないるな?よし。」
イブはゆっくりと話し始めた。
ーー
ザハークが消滅した後、イブはすぐに天上界に戻った。フィーネの魂が100回目の転生を迎える。女神の責任として、それを見届ける為だった。
しかし、フィーネの魂が来ない。不審に思ったイブは、天上界と地上界の狭間の世界に向かう。
イブが気配を探ると、そこにフィーネの魂がいた。そして......
ーー
「ふぅ......」
イブが息を吐く。
「そして、どうなったの?」
スザクが身を乗り出して聞く。
「色々あって、ぼくは丸太小屋に帰って来たと言うわけだ。」
イブは背もたれに寄りかかる。
「その『色々』が聞きたいんだけど?」
リリィが言う。
「時が来たら話す。」
イブは話を逸らした。
「何だよ!フィーネの魂は、結局どうなったんだ?」
ハクが少し怒り気味に聞く。
「まぁ待て。それはそうと、皆に紹介したい人が居るんだ。」
イブが真面目な顔で言う。
「誰なの?」
ホウオウが訊ねる。
「もう、ここに来てる。おい!もういいぞ!」
イブはそう言って玄関の方を見た。
他の皆も玄関のドアに注目する。
ゆっくりとドアが開いた。
その隙間から白銀色の美しい長い髪が覗く。
すらっとした長身。
尖った耳......
「フィーネ?!」
イブ以外の全員が声を上げた。
「みんな、ただいま。」
リリィとエリーゼが駆け寄ってフィーネに抱きつく。
スザクとホウオウは、唖然としている。
ゴブローとハクは抱き合って喜びを爆発させている、
そして、オルガは一人号泣していた。
「意地が悪いですわね、イブ」
アイリスがイブに言う。
「ぼくも想定外だったんだ。あとで詳しく話す」
イブにとっても予期せぬことだったようだ。
「うわーん!フィーネ!生きてた!」
リリィの涙が止まらない。
「良かったですわ!本当に」
エリーゼも泣いている。
「心配かけてごめんね」
フィーネは、そう言ってリリィの頭を撫でた。
フィーネの生還。
これ以上無いサプライズに丸太小屋の面々は興奮が収まらない。
「みんなに大事な話があるの」
その夜、フィーネが話を切り出した。
「私はあの時、確かに死んだ。でも、何かの力が働いて、この世に引き留められた。」
「......」
皆、息を呑んで聞いている。
「あの気配は三司祭の一人、メルティナに似ていた。白い霧みたいな人の形をしたものが、私の魂に混ざったの。気がついたら私はウエスの森にいた......」
「一体、何が起こったんだ?」
オルガが言う。
「恐らく、それはメルティナの残滓......分身のようなものでしょう」
アイリスが話し出す。
「残滓?」
スザクが聞く。
「メルティナは、元々、天上界に住む精霊だった。ある日、あの子は闇に堕ちた。その時に天上界に彼女の一部が残った。それが残滓。」
「その残滓とフィーネの魂がくっついて、生き返ったって言うのか」
ゴブローが言う。
「大体、その通りだと思いますわ。ただ......」
アイリスは口籠もる。
「フィーネには、何か後遺症が残ると思いますわ。」
「後遺症......」
フィーネはうつむく。
「とにかく!フィーネが戻ったんだ、それで良いじゃない?」
スザクが言う。
「そうだな!」
ゴブローが笑う。
フィーネは後遺症に思い当たることがあった。頭の中で自分以外の声が聞こえることがあるのだ。
しかし、皆には内緒にすることにした。
こうして丸太小屋にフィーネが戻り、のんびりとした日常も帰ってきたのである。
ーーーー
ウエスの森の奥深く......
「はぁっ、はぁっ」
謎の黒い影が丸太小屋に近づいていることを、フィーネたちはまだ知らなかった。
《 第一部 終わり 》




