第87話
ここは世界の何処かにある深淵の国。
魔神城の奥。
イブが倒したはずだった人買い組織のリーダーであるビャッコがその姿を現した。
三司祭の一人メルティナが裏で糸を引いていたようだ。
フィーネたちは、ビャッコと対峙していた。
「さあ、宴と参りましょう。黒波動剣!」
左右両手に剣を携え、ビャッコは悠然と構えた。
「まずは、おいらからだ!」
ハクがビャッコに向かい拳を繰り出す。目にも止まらぬ速さの攻撃をビャッコは涼しい顔でかわしていく。
「竜神の拳も止まって見えますよ。」
ザンッ!
「くっ!」
ハクの右腕が斬られ、傷口から血が滴り落ちた。
「ウオーッ!」
オルガとゴブローが同時に斬りかかる。ハクは傷口を抑えて一旦引いた。
キンッキンッキンッ!
二人がかりの攻撃を軽々とかわす。以前のビャッコより確実に強くなっている。
「これならどうだ!」
オルガの不意打ちにビャッコが一瞬怯んだ。
「うおーっ!」
ゴブローが大剣を振り下ろす。
ガキッ!
ビャッコは二本の剣をクロスして受け止めた。ここからは力比べだ。
ゴブローが押す、ビャッコが押し返す。
「ウオーッ!」
ゴブローが大剣に力を込める。ビャッコは耐えている。
「このままでは終わりませんよ!」
ビャッコの目が赤く輝き、一段階パワーが上がった。
「グ、ウォー!」
一気にビャッコが押し返す。
ゴブローは弾き飛ばされてしまった。
「光よ出でよ!ライトニングドラゴン!」
「聖なる光よ、魔を滅せよ!ホーリードラゴン!」
リリィとエリーゼが同時に魔法を放つ。二つの竜がビャッコに襲い掛かる。
「面白い。受けて立ちましょう!」
ビャッコが魔法陣を展開して防御する。
ドーーーーン!
ビャッコに直撃した。砂埃で何も見えない。
「やりましたわ!」「やったわ!」
リリィとエリーゼは手応えを感じている。
しかし、
「フフフ、惜しかったですね。」
ビャッコの姿が現れた。かすり傷程度で大したダメージは受けていないようだ。
「そんな......」
リリィはショックを受けている。
「せっかくの服が破れてしまいました。残念ですね。」
ビャッコは肩の埃を払う。
「リリィ、エリーゼ。下がって。私が行くわ。」
フィーネが一歩前に出る。
「ついに真打ち登場ですね。今までの方は準備運動にもなりませんでしたから、楽しみです。」
ビャッコはニヤリと笑う。
「面倒くさいけど、あなたを倒さないと魔神の所に行けないから仕方ないわね。さっさと済ませましょう。」
フィーネが構える。
「前のようには行きませんよ、フィーネ。」
「それは楽しみだわ。」
ビャッコが先に攻撃してきた。両手の黒波動剣で斬りつけるが、フィーネは軽々とかわしていく。
「また、避けるだけですか!」
ビャッコの剣がフィーネの腕をかすった。
「チッ!」
フィーネはすかさず反撃する。ビャッコの腹に拳がめり込んだ。
「グハッ!」
ビャッコは飛ばされて壁に激突した。
「やってくれましたね!エルフ!」
ビャッコの目が更に輝きを増す。
「本気を出させたことを後悔するがいい!」
ビャッコが力を込めると、両目の上に更に二つの目が現れた。口は大きく裂け、牙が覗く。上半身は筋肉質になり、倍ほどに大きくなった。
「また、変身か......面倒くさい」
フィーネはため息をついた。
「さあ、本気の私を見るがいい!行くぞ!」
ビャッコがそう言うと一瞬でフィーネの目の前に現れた。
(速い!)
フィーネはビャッコを辛うじてかわす。
そして、お互いに拳を繰り出す。パンチの応酬だ。しばらくノーガードの打ち合いが続く。
先に離れたのはフィーネだった。
「近距離では互角ね。魔法はどうかしら?」
「さあ!来い!」
ビャッコは防御姿勢をとっている。
「燃やし尽くせ!バーンアウト!」
灼熱の炎がビャッコを襲う。
ビャッコの身体が燃え上がった。
「こんな炎、効きませんよ!」
ビャッコは炎を両手で払いのけた。
「魔法も効かないか......」
フィーネは猛スピードでビャッコに体当たりした。
「ぐはっ!」
ビャッコが口から血を吐き出す。
「近距離がダメなら、超近距離で!」
物凄い速さで拳を繰り出すフィーネ。
周囲には速過ぎて逆に止まっているように見える。
フィーネの華奢な身体から繰り出される拳は鉛より重い。
ビャッコの身体には次第にダメージが蓄積されていた。
「くっ、が、がはっ!」
ビャッコは膝をついた。
フィーネは攻撃の手を緩めない。
ビャッコの顔面に拳がめり込む。
「これで終わりよ!ウインドカッター!」
空気の刃がビャッコの身体を切り刻む。
「ま、待ってくれっ!」
ビャッコの言葉を無視して、フィーネはトドメを刺した。
ビャッコは今度こそ塵になって消えた。
「ふぅっ。」
フィーネは大きく息を吐いた。その体は返り血を浴びて血まみれだ。
「フィーネ......」
リリィもエリーゼも他の皆も呆気に取られている。
これ程の鬼気迫るフィーネの姿を見たのは初めてだった。リリィは、フィーネの過去の転生の一端を見てしまったような気分だった。
「さあ、皆。魔神ザハークの所に行きましょう。」
フィーネが皆の方を見て言う。その顔はいつもの優しいフィーネだった。
「そ、そうだなっ!行こう!」
ゴブローが自分に言い聞かせるように言った。
「フィーネ。」
「何?イブ?」
「......い、いや何でもない。」
イブは言葉を飲み込んだ。
大階段を上がると扉が待ち構えている。
この奥に魔神ザハークがいるのだ。




