第85話
ここは世界の何処かにある深淵の国。
フィーネたちは、ついに深淵の国に足を踏み入れた。険しい山を越え、目の前に現れたのは、禍々しい姿をした魔神城だった。
フィーネたちは慎重に急な山肌を下って行く。
「滑らないように気をつけて!」
ホウオウが叫ぶ。
足元の悪い山を下るのも神経を使う。
こうして体力と気力を削るのが敵の作戦なのかもしれない。
山を下り切った所で一旦休憩する事にした。魔神城が直ぐ目の前に迫っている。
「皆!ついて来てる?」
フィーネが言うと、全員が返事をした。
「いよいよね。」
スザクが言う。
「おいら、戦いたくてウズウズするぞ」
ハクが腕を回しながら言う。
「エリーゼ、大丈夫?」
リリィが身体についた砂を払いながら言う。
「私は平気ですわ。こう見えて猫ですから、にゃ」
エリーゼが笑って返す。
「いよいよだな」
「ああ。武者震いするぜ」
オルガとゴブローは、真っ直ぐに魔神城を見据える。
「ザハーク。ついに来たな。ここまで。」
イブが言う。
「以前より力が増しているようですわ。」
アイリスがつぶやく。
その時、空気が重苦しいものに変わった。身体がビリビリと震える。
「?! なんだ、この気配は?」
ゴブローが危険を察知する。
「きゃははは!ようこそ、深淵の国へ!」
あどけない狂気じみた笑い声がこだまする。
空気がまた一段と身体を抑えつけるように重いものになる。
「あなたは、メルティナ!」
アイリスが、叫ぶ。
「あは、久しぶりね。アイリス。寂しかった?私がいなくて。」
メルティナがアイリスに笑顔で言う。
「あなただけは許しませんわ。メルティナ。」
アイリスが珍しく語気を強める。
「改めて自己紹介しようか」
「私は、研究司祭メルティナ。趣味は"おもちゃ集め"。よろしくね」
三メートルはあろう巨体の男が口を開く。
「俺は、軍事司祭バロール。お前たちが倒したゲンブは俺の弟だ」
その存在感は、そこにいるだけで圧を感じる程のものだ。
地表からビリビリと振動が伝わる。
最後。
白いマスクを付けた不気味な男? が口を開く。
「私は儀式司祭アズラエル。女神の魂を持つ娘、獣の血を継ぐ娘。必ず手に入れる」
その言葉にリリィとエリーゼは底知れぬ恐怖を感じた。
「お前たちは、魔神の手下ね。何しに来たの?」
フィーネが真っ直ぐに見据えて言う。
「あは!今日は取り敢えず、ご挨拶に来たの。あなたたちとは長い付き合いになりそうだから。」
メルティナが笑いながら言う。
「弟が世話になった。お礼をしたい。」
バロールがその怒りを秘めながら言う。
「フィーネ、君とはゆっくり話したい」
アズラエルがその不気味さを放ちながら話す。
フィーネたちは、皆戦闘の体勢だ。
「三司祭。あなた達の目的は、魔神ザハークの復活と魔神教による世界征服よね?」
フィーネが聞く。
「魔神の復活は手段だ。目的ではない。」
アズラエルが言う。
「魔神教などどうでも良い。」
バロールが低い声で言った。
「あはは!私たちの目的は、もっとさ先にあるの!ザハークも私の"おもちゃ"」
メルティナがあどけなく笑う。
「魔神ザハークがおもちゃ......」
リリィが身震いしながらつぶやく。
「ちょっと喋り過ぎたわね。また会おうね!フィーネ、リリィ!」
メルティナは、そういうと手を天にかざした。黒い渦に三司祭が包まれ、消えた。
「三司祭。魔神ザハークでさえ彼らの駒に過ぎないというのか......」
オルガが言う。
「アイツら逃げやがった。くそっ!足が震えて動かなかった」
ゴブローが言う。
「さあ。皆。魔神城に向かいましょう。」
フィーネが皆を促す。
(それにしても、アズラエル......同じ匂いを感じたわ。まさか......!?)
フィーネは妙な胸騒ぎを感じていた。
フィーネたちは、魔神城に足を進める。
近づくにつれ、足に鉛がついたかのように、重くなっていく。
その時だった。
一陣の風が吹き抜けた。
「危ない!皆、避けろ!」
地表が刃物で切られたように裂けている。
「ククククッ。ついにこの時が来たわ。......復讐の時が!」
緑の長髪、しなやかな身体。しかし顔や体には醜い火傷の跡が。
「フウジン!」
リリィとハクが同時に叫んだ。
「ウエス山の火口に落ちた私は瀕死だった。でも助かった。それなのに、兄さんを失うなんて!」
フウジンの身体は怒りで震えている。
「リリィ、ハク?フウジンと何があったの?」
フィーネが聞く。
「フィーネ、その話は後で。今はフウジンを倒すことが先決だ。」
イブが言う。
「私を倒すだと?そんなに簡単には行かないぞ!」
フウジンがそういうと、身体が蠢き出した。
腕が四本に増え、頭の二本の角は伸び、身体全体が倍ほどに大きくなった。しなる剣を四本の手に持ち、左右の目の間に第三の目が現れた。
「これがフウジンの本当の姿」
スザクとホウオウが息を呑む。
「さあ!私の本気を見るがいい!」
フウジンが構える。
「ここは私たちに任せて、フィーネは先に行って!」
ホウオウが叫ぶ。スザクもうなづく。
「わたくしが援護しますわ!」
アイリスが言う。
「わかった。ここは、あなた達に任せる!」
フィーネ達は先に進んだ。
「クククク。ホウオウ、スザク。裏切り者の分際で私に楯突くとは......いい度胸だ。」
フウジンが言う。
「私たちは負けないわ。家族がいるから。守るべき人が居るから。あなたの負けよ。」
スザクがフウジンを睨みつける。
激しい戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




