第84話
ここはウエスの森の中。
丸太小屋には、オルガ、ホウオウ、スザクを含めた"家族"全員が集まっていた。
「フィーネさん、大きめの馬車も用意したよ。」
オルガが馬車を引く馬を撫でながら言った。
「ありがとう、オルガ。助かるわ。皆準備は良い?」
「準備OKだ!」
ゴブローが答えた。
モックとドンキーは留守番だ。
「留守は任せろキー!」
「任せるキキー!」
「さあ、リリィ、エリーゼ。」
アイリスが二人を促す。
深淵の鍵も既に馬車に積んである。
二人とも緊張しているが、気合いが入っている。
「皆!馬車に乗って。」
ホウオウの指示で歌を歌う二人以外が馬車に乗る。
「よし。リリィ、エリーゼ。二人で合わせて歌を歌うんだ。」
イブが言う。
リリィとエリーゼはお互いにうなづくと、歌う準備を始めた。
そして、厳かに歌い始める。
"三日月は、空に浮かぶ船
半月は、揺りかご
満月は、神の導き
新月の夜は、空に願おう"
"月の表は 光り輝き
月の裏は 深淵を纏う
二つの月は 大いなる導き
二つ重なりて 扉を開かん"
最後まで歌い終わると、空中に渦巻きが現れて、その中心に向かって稲光が何本も起こる。
黒い渦巻きは次第に大きくなり、馬車ごと飲み込もうとしている。
「リリィ!エリーゼ!馬車に乗るのです!」
アイリスが叫ぶ。
フィーネとスザクが手を伸ばし、二人を捕まえた。
「離さないで!エリーゼ!リリィ!」
フィーネが力を込める。
「うわーっ!!」
馬車が渦巻きに飲み込まれていく。
「しっかり、掴まれ!」
「うわーっ!」
「吸い込まれる!」
そして、視界が真っ暗闇に包まれた。
「うーん......」
リリィは上半身を起こし頭を振った。
「こ、ここは?」
リリィの目に飛び込んできた風景は......
真っ黒い土と岩に覆われた地表に、灰色の空。太陽も月もなく薄暗い。
時折、稲光が空から地上に降り注ぐ。
「ここが『深淵の国』?!」
リリィが言うと、他の仲間も起き出した。
「これが『深淵の国』かぁ」
オルガとゴブローが周りを見回す。
「何にも無いわね。」
ホウオウがつぶやく。
すると、
「皆さん!これ見てくださいにゃ!」
エリーゼが手にしている深淵の鍵から一条の光が真っ直ぐに伸びている。
「何だ?この光は?」
ハクが言う。
「この光は魔神の居場所を指し示しているはずじゃ。」
イブが言う。
「じゃあ、その方向が魔神への最短距離なのね。」
スザクが言う。
「さあ、皆。体勢を整えて、光の射す方へ向かいましょう。」
フィーネが言うと、皆旅支度を始めた。
それを遠くから見つめる赤い目が二つ......
「来たな。エルフ。」
そして、気配が消えた。
幸運な事に馬車と馬は無事だったので、馬車で進む。
「どこまで行っても真っ黒だね。」
リリィが言う。
「何だか空気も重苦しいですわ、にゃ。」
エリーゼは、深淵の国のなんとも言えない気配を感じ取っているようだ。
「一体、どこまで続いてるんだろう?」
スザクがつぶやく。
「とにかく、この光の指す方に向かうしかないわね。」
ホウオウが言う。
馬車はドンドン進んでいく。
フィーネたちは次第に無言になっていく。
数時間進むと険しい山が現れた。
「馬車は置いていくしかなさそうね。」
フィーネが言う。
「深淵の鍵は、私が持ちますにゃ。」
エリーゼが鍵を手にして言う。
「よし。皆、離れるなよ。」
ゴブローが先陣を切る。
黒く険しい山は、草木は一本も生えておらず、砂利と岩だらけで歩き辛い。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
直ぐに息切れして体力が奪われる。
昼とも夜とも分からない深淵の国は、時間の流れも分からない。
フィーネたちは疲労困憊だった。
「少し、休みましょう」
山の頂上まであと少しの所でフィーネたちは休憩と仮眠をとることにした。
「つかれたー。」
リリィは、大の字になって寝てしまった。
「疲れましたわね。」
エリーゼの綺麗な服も真っ黒だ。
「そう言えば、魔物が出ないな。」
オルガが言う。
「そうね。助かるけど、何だか不気味だわ」
ホウオウが言う。
「魔神の余裕なのか...?」
ゴブローかつぶやく。
しばらく休憩したフィーネたちは、再び歩き始めた。
山頂に着くと、視界がいっぺんに開けた。
「ねぇ!皆見て!」
リリィが叫ぶ。
エリーゼが持つ深淵の鍵から伸びた光がある一点を指していた。
「あれが魔神の城......!?」
邪悪な威厳に満ちたその城は、漆黒の闇そのものだった。周りの物全てを吸い込むのではないかと思うほどにその異彩を放っていた。
「あそこに魔神がいる...」
フィーネは身震いした。
「目的地が見えた。もうすぐだ。行こう!」
オルガが言う。
皆、歩き出した。
その頃。
「エルフ、とうとう来たか。」
バロールはその重い口を開くと、大地を踏み締めた。その周囲の地表に地割れが出来た。
「女神の魂を持つ娘。必ず手に入れる。」
アズラエルは白い仮面でその表情は分からないが、不気味に佇んでいる。その存在感は空気を震わせていた。
「きゃはは。沢山の素材が向こうから来てくれたわ。」
メルティナ。あどけない少女のようだが、その狂気は三司祭の中でも群を抜く。
フィーネたちは、三司祭が待ち受けるとも知らずに、魔神城に向かい歩みを進めていた。




