第82話
ここは、深淵の国•魔神城の地下深く。
研究司祭メルティナの研究室兼プライベートルーム。
「この魔法薬と、この魔法草の粉を混ぜて......」
メルティナは、今日も新たな研究を続けている。
「これで、新しい魔法薬の素が出来たわ。試すのが楽しみ。あはは」
そこに、白い仮面を付けた人物が現れた。儀式司祭アズラエル。魔神教の儀式全般を司る魔神教の頭脳である。
「メルティナ。エルフが動く。」
その中性的な声は、男とも女ともつかない不思議な魅力を持っている。
「フィーネとその仲間たちは、好きに泳がせておけって、ザハーク様が言ってたよ。」
「メルティナ。順調に行ってるのか?」
アズラエルが聞く。
「きゃは。心配無用よ。貴方も貴方の仕事をしなさいね。」
メルティナが言うと、アズラエルは何も言わずに去った。
「メルティナ。エルフは邪魔だ。」
軍事司祭バロールが入れ替わりにやって来た。
「バロール、貴方も貴方の仕事をして。」
「弟の仇を取りたい...」
「貴方が弟想いなのは知ってる。でも、今は動く時じゃ無い。分かる?バロール。」
「わかった。」
バロールは静かに去った。
魔法薬の入った瓶を振っていたメルティナは誤って割ってしまった。
「あーあ、勿体無い。」
「それにしても、あの二人。もう少し自我を抑えた方が良いね。まだまだ働いて貰わないと......きゃはは」
メルティナは魔神の間に向かった。
禍々しい重苦しい空気が漂う。
玉座にはバロールと同じぐらいの巨大な魔神が座っている。
魔のオーラを纏い、そこに居るだけで威圧感がもの凄い。
メルティナは魔神の前で話し出した。
「ザハーク様。エルフたちがここに来るのももうすぐです。」
「来るなら来ればいい。私の力は前にも増して強くなった。1000年前、ゴブリンと小娘に倒された時とは違うのだ。」
ザハークからもの凄い圧の魔のオーラが放たれる。
「エルフたちがもし深淵の国に来たら、私たち三司祭で相手します。」
メルティナは、ザハークを真っ直ぐに見据えて言った。
そして、去って行った。
研究室に戻ったメルティナは、
頬杖をついて座る。
「精神干渉が弱まってるね。少し強化しようか。わたしの大事なおもちゃたち......」
魔神城の地下から、不気味なあどけない笑い声が響き渡った。
一方、その頃。
ウエスの森の奥深く。
「リリィさん、基本は身に付いたようですね。」
「ありがとうございます!アイリス先生!」
「これからは実践練習です。実際に歌を歌っていただきます。」
アイリスの言葉にリリィの顔が緩む。
三日月は、空に浮かぶ船
半月は、揺りかご
満月は、神の導き
新月の夜は、空に願おう
アイリスが美しい声で歌う。
「この歌を完璧に歌えるようにします。一音でも外れると深淵の鍵は作動しません。」
「分かりました!先生!」
特訓の成果もあり、リリィの音痴は解消されつつあった。
ここからは最後の仕上げだ。
にゃあ!
エリーゼ(猫)とモック、ドンキーは相変わらず追いかけっこをしている。
フィーネはロッキングチェアに座って紅茶を飲んでいる。
オルガ、スザク、ホウオウは町に戻っていた。
イブは敵襲に備えて丸太小屋周辺に防御結界を張っている。
「リリィさんの歌が完璧になれば、この深淵の鍵に変化が現れるはずですわ。もう少しです。頑張りましょう。」
アイリスの言葉にリリィが頷く。
リリィは咳払いをして、大きく息を吸い、堂々と歌い出した。
三日月は、空に浮かぶ船
半月は、揺りかご
満月は、神の導き
新月の夜は、空に願おう
ドヤ顔でアイリスの方を見る。
が、
「残念ですわ。少しだけ外れてました。でももう少しですわ。」
アイリスが拍手をする。
リリィは、ホッとした顔をした。
そして、ついにその日がきた。
「深淵の鍵が作動するか、やって見ましょう。」
アイリスが深淵の鍵を持っている。
リリィは緊張の面持ちだ。
フィーネをはじめ、丸太小屋の家族たちも揃っている。
「さあ、リリィさん。歌ってください。」
リリィは胸を張り、大きく息を吸った。以前の破壊的な音痴が嘘のように厳かに歌い出す。
三日月は、空に浮かぶ船
半月は、揺りかご
満月は、神の導き
新月の夜は、空に願おう
リリィは見事に歌い切った。
フィーネたちは、深淵の鍵の変化を待つが、何も起きない。
「なんだよ、何も起きないぞ。」
ハクが言う。
「おかしいなぁ。もう一度歌ってみるね。」
三日月は、空に浮かぶ船
半月は、揺りかご
満月は、神の導き
新月の夜は、空に願おう
......しかし、鍵に変化は無い。
「歌詞を間違えてるんじゃないか?」
イブが言う。
「歌詞は間違えていませんわ。完璧です。」
アイリスが首をかしげる。
「じゃあ、なんで?」
フィーネも残念そうだ。
その時、エリーゼが何かを思い出した。
「このメロディ......ウエス王家に代々伝わる歌と同じですわ。」
エリーゼの予期せぬ言葉に、皆が驚く。
「歌詞は違いますけど、メロディは全く同じですわ!......にゃ」
エリーゼの思わぬ言葉に事態は急展開を迎えるのであった。




