第36話
ここはウエス国の森の中。
町のバザールが終わり、撤収作業が始まったが、イブ、スザク、モック、ドンキーが戻って来ない。
流石にフィーネも心配になって来た。
「何処で何やってるのかしら?」
片付けが終わり、後は帰るだけの状態になっても、帰って来ない。
「オルガ、心配だから、一緒に探してくれない?」
フィーネがオルガに頼むと、
「みんなで手分けして探そう。」
ゴブローの提案で、手分けして探すことになった。
「イブ!スザク!」
「モック!ドンキー!」
フィーネとリリィが町外れから探すが見当たらない。
ゴブローとホウオウは、鉱山の辺りを探していた。
ゴロゴロと様々な大きさの石が転がっている。
「邪魔な石だな、歩き辛くて敵わない。」
ゴブローがそう言った瞬間、周りの石が意思を持ったように動き出した。
「ゴブロー!危ない!」
ホウオウが叫んだ時には、ゴブローは石の塊に囚われていた。
「これは!まさか、あいつの仕業!?」
ホウオウにも石の塊が襲い掛かる。
応戦するが、石の数があまりにも多くて手に負えない。
「あーっ!」
ホウオウも石に飲み込まれてしまった。
その様子をオルガが遠くから見ていた。
「何だ?あれは?兎に角、フィーネに知らせないと!」
オルガは走り出した。
それを全身焼け爛れた男が見ていた。
「ククク。あのエルフと娘を呼んで来い。俺が始末してやる。」
男は復讐に燃える眼を更にたぎらせていた。
「イブ!スザク!」
「モック!ドンキー!」
フィーネとリリィが探し回っているところに、オルガが慌てて走ってきた。
「フィーネ!大変だ!」
「オルガ!どうしたの!?」
「ゴブローとホウオウが岩に捕まった!」
フィーネとリリィはポカンとしている。
「オルガ、何言ってるの?」
「だから、ゴブローとホウオウが岩に捕まったんだって!」
オルガが必死に訴える。
「良いから、オルガ、ちょっと落ち着いて。」
「僕は落ち着いてるよ!」
「岩に捕まったってどう言うこと?」
「ゴブローとホウオウの体が沢山の岩に包まれて捕まったんだよ。鉱山のところで。」
オルガが必死に説明して、フィーネたちも理解出来たようだ。
「分かった。とりあえず、鉱山に行きましょう。」
オルガ、フィーネ、リリィは鉱山の方に向かった。
「岩に襲われたと言う事は、多分、土属性の魔物か何かね。」
フィーネが、その経験を活かして冷静に分析する。
「もしかして、イブやスザクたちも、そいつに捕まったのかな?」
リリィが言う。
「そうね。その可能性は高いと思う。」
「僕とフィーネが調べるから、リリィは何処かに隠れてて。」
オルガがリリィに言うと、
「分かった!」
リリィが返事をした。
鉱山が見えて来た。
リリィは、物陰に身を隠す。
フィーネとオルガは慎重に周りを伺いながら、前に進んでいく。
鉱山の削られた山肌に大小様々な大きさの岩が積み重なっている。
「イブ!スザク!ゴブロー!ホウオウ!返事して!」
フィーネが叫ぶと、微かに人の声が聞こえた。
「フィーネ!」
声は積み上がった岩の中から聞こえる。
「イブ!スザク!」
「フィーネ!気を付けて!」
微かに聞こえる声に耳を澄ませる。
「気を付けて?」
フィーネがつぶやいた、その時。
周りの石がフィーネとオルガの近くに集まって来た。
異変を感じたフィーネは、オルガの体を掴み、一緒に岩から飛び退く。
「誰?出て来なさい!」
フィーネが周囲を見回して叫ぶ。
無数の石の塊が、まるで大蛇のように、フィーネたちに襲い掛かる。
間一髪で、それをかわし、フィーネは、周囲の岩山に目を凝らす。
すると、岩山の上に人影が見えた。
「あそこだわ!」
フィーネが叫ぶと同時に、石の大蛇が襲って来る。
フィーネは素早く、その攻撃を避けて行くが、オルガは動きについて行くのがやっとだ。肩で息をしている。
「オルガ!石の大蛇は私が惹きつける。オルガは、あの山の上の人影を追って!」
「分かった!」
フィーネとオルガは二手に分かれた。
オルガは素早く岩山を登って行く。
フィーネは石の大蛇の攻撃を交わしながら敵の目を惹きつける。
岩山の上にいる人影がハッキリと見えて来た。ガタイのイイ大男で全身の皮膚が爛れている。その眼は血走っていてフィーネの方を睨んでいる。
オルガは、慎重にゆっくりと男に近づいて行く。
「コイツの顔、見た事あるぞ。コイツは....ゲンブだ!」
オルガの足下の石が崩れた。
「マズイ!バレた!」
オルガは、咄嗟にゲンブに切り掛かった。
ウオー!
カキン!
オルガの剣が防がれた。
「お前、惜しかったな!」
ゲンブがオルガの腕を払い除け、腹に拳を撃ち込んだ。
「ぐほっ!」
オルガは、そのまま吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
「グッ!クソッ!」
オルガは立ち上がれない。
ゲンブは空高く飛び上がり、フィーネの前に着地した。
「久しぶりだなぁ。エルフ。」
ゲンブはフィーネを睨みつける。
「私はフィーネよ。ゲンブ、あなた生きてたのね。」
フィーネはゲンブを睨み返した。
「あの女神には、酷い目にあったが、今は俺の手の中だ。俺はお前たちに復讐するために帰ってきた。」
フィーネはつぶやく。
「私の家族を傷つけた代償は払ってもらう。面倒くさいけど、あなたは許さない。」
「やれるものならやってみろ、フィーネ!」
ゲンブの眼は復讐の炎に燃えていた。




