第32話
ここは、ウエス国の森の中。
ウエス湖のほとり。
フィーネとハクは、ライジンとフウジンと睨み合っていた。
「面倒くさいけど、あなた達を倒すわ」
フィーネが言う。
「おいら、なんかムカつくから、お前らをやっつける」
ハクが続ける。
「面白い。では勝負だ! 」
ライジンがフィーネに切り掛かった。
「防御せよ、シールド! 」
魔法によって物理攻撃が無効化される。
「おいらに任せろ。水流の舞! 」
激しい水流がライジンに襲いかかる。
ライジンは素早い剣捌きでそれを受け流す。
「何だこれは。水遊びか? 」
ライジンは涼しい顔をしている。
「コレならどう?光よ、出でよ。ライトニング! 」
無数の光の矢がライジンとフウジンに放たれる。
素早い剣捌きでも全ては防ぎ切れない。何発かは当たった。
「クッ」
フウジンはかなりダメージを受けている。
「これならどうだ!雷鳴剣! 」
ライジンが剣を天に向かって振り上げると、稲妻を受けた剣が雷を纏って光だした。
「行くぞ! 」
ライジンがフィーネに襲いかかる。
フィーネは素早い身のこなしでかわしていく。
「あっ! 」
フィーネの右腕にライジンの攻撃がかすった。傷は浅いが血が出ている。
「やるわね。ライジン。本気で相手しないといけないようね」
フィーネが右腕の傷に左手を当てると、青白く光り傷が治った。
「私のことも忘れないでよ! 」
フウジンとライジンが同時にフィーネに切り掛かる。
フィーネは、さっきよりも素早い動きで攻撃をかわしていく。
「まだ遅いわよ」
フィーネがフウジンに蹴りを入れる。
モロに蹴りを受けたフウジンは、飛ばされて地面に叩きつけられた。
「グハッ....!! 」
口から血を吐き出す。フウジンは、すぐには動けないようだ。
「水流の舞・水玉! 」
ハクの手から放たれた水の塊がフウジンの体を締め付け、動きを封じた。
「エルフ!私もココからは本気だ」
ライジンの剣捌きのスピードが更に上がる。
フィーネは、間一髪かわしながら攻撃を加えるが防御される。
フィーネはライジンから距離を置いた。
「光よ出でよ、ライトニング! 」
無数の光の矢がライジンを襲う。
「闇よ出でよ、ダークネスサンダー! 」
ライジンが黒い稲妻を放つ。光の矢はことごとく弾かれた。
「コレならどう? 」
こんどは太い一本の矢がライジンに向かって飛んでいく。
「力比べといこうか」
ライジンが黒い波動を放つ。光の矢を受け止めた黒い波動が光の矢を押し返して行く。
「クッ、魔法の力比べなら負けないわよ」
フィーネが更に魔法の出力を上げる。
「やるな。たがまだまだ! 」
ライジンも更に押し返す。
2人の力は拮抗している。持久力勝負だ。
「このままじゃ、押し負ける....! 」
フィーネがそう思ったその時、
リリィの声が頭の中に聞こえた。
『フィーネなら出来るよ』
「そうね、リリィ。私なら出来る! 」
フィーネは、更に力を込めた。
「これで終わりよ! 」
「クッ、グォーー!! 」
ライトニングが黒い波動を一気に押し返す。
ドーーーーン!!
ライジンの身体が弾き飛ばされ、湖の向こうの山に激突した。
フィーネは、その場に倒れ込んだ。
「おい!フィーネ!大丈夫か! 」
ゴブローとオルガが駆け寄る。
オルガがフィーネを抱き上げると
「疲れたわ.....」
そう言って、意識を失った。
ライジン、フウジン達を退けたフィーネ達は、ウエス湖から丸太小屋に戻った。フウジンはその場に残し、ハクは一緒に丸太小屋まで連れてきた。
それから数日後、
「う....ん....ここは? 」
フィーネが目を覚ますと、寝室のベッドにいた。横には、リリィが突っ伏して寝ている。フィーネはリリィの髪に触れた。
「リリィ、あの時はありがとう」
フィーネがつぶやくと、リリィが目を覚ました。
「フィーネ!良かった! 」
リリィがフィーネに抱きつく。
「フィーネ!気がついたのか! 」
イブとスザクが部屋に入ってきた。
「フィーネ!目を覚ましてよかった! 」
オルガとゴブローもやってきた。
「みんな、ありがとう。私はもう大丈夫」
フィーネは、笑って言った。
水竜のハクも加わり大所帯になった仲間達は、今回の戦いで大きなダメージを受けたが、多くの情報も手に入れた。まずは、その整理から始める。
「ビャッコは、人間から魔物に変化していた。人間を魔物に出来るのは、魔神だけだ。だから、すでに魔神は復活していると思う」
イブが言った。
「ライジン、フウジンも魔の力を使った。イブのいう通り、魔神は復活してると考えて間違いないだろう」
ゴブローが付け加える。
「おいらが居れば、魔神なんて簡単にやっつけられるけどな」
ハクが口を挟むと、
「ハクは少し黙ってて」
フィーネが窘める。
「私がハクホウにトドメを刺されそうになった時、リリィの体から不思議な光が出て、ハクホウを人間の姿に戻したんだ。あれは何だったんだろう? 」
スザクが言う。
「それは、恐らく『女神の力』だな。リリィが『女神の魂を持つ子供』で間違いないだろう」
イブが腕組みしながら言う。
「私が『女神の魂を持つ子供』……」
リリィはショックを受けているようだ。
「とにかく、ライジンとフウジンは逃げてしまった。魔神が復活したことは間違いない。私たちのやることは決まったわね」
フィーネが覚悟を決めたようにつぶやく。
「魔神を倒して、世界を救う。か」
オルガが重い口を開いて皆の意見を代弁した。
フィーネたちの運命の歯車がついに動き出したのであった。




