第3話
ウエス国は、国土のほとんどが森で覆われている。そこで暮らす人々は「森の民」と言われるほどだ。そんなウエス国の森の中。一人の少女がブツブツ文句を言いながら歩いていた。
「もう、フィーネのバカ! 何がのんびりよ。私は冒険がしたいの! 」
この少女はリリィ。森に一人で住んでいるエルフのフィーネと暮らし始めたばかりだ。
「毎日、家でじっとしてて、何が楽しいのかしら」
リリィは、フィーネののんびり過ぎる生活に我慢がならないのだ。
森の中をドンドン奥に進んでいく。
そんなリリィの様子を陰から伺う何者かがいることに、彼女はまだ気づいていなかった。
「疲れてきちゃった。少し休もう」
そう言うとリリィは、その場に座り込んだ。
リリィの後ろから何かが忍び寄る……。
ガサガサッ
物音に気付いて、リリィは振り返った。
「キィー! 」
そこにいたのは、木の魔物ドリアードの子供だった。
リリィは驚いて聞いた。
「あなた、何処から出てきたの? 」
「キィ。お友達になりたいキー」
「お友達に? いいわよ。私はリリィ。あなたの名前は? 」
「キキッ! モックだキ」
「モック。いい名前ね」
モックはリリィが気に入ったようだ。枝(手?)を出して近づいてきた。
「じゃあ、私たちはもう友達ね」
モックとリリィは握手をした。
モックは潤んだ純粋な瞳でリリィを見つめてくる。
「何だか怒ってるのがバカらしくなってきちゃった」
「リリィは、怒ってたのかキー? 」
「ううん、もう良いの。モック、私の家に一緒に来る? 」
「喜んで行くキー! 」
リリィとモックは、歩き出した。
そのころ、森の中の一軒家。
「リリィ、まだ帰ってこないわね」
エルフのフィーネが珍しく人の心配をしている。
「まさか、魔物に襲われたりしてないよね」
フィーネは目を閉じて意識を集中しだした。
フィーネの意識は、森の遥か上空に上り、森全体を見下ろした。
すると、リリィの姿を見つけた。まっすぐに家に向かっている。
「どうやら無事なようね。良かった」
フィーネはそういうと、紅茶を一口飲んだ。
「ねえ、モックに会わせたい人がいるの! 」
「会わせたい人キ? 」
「そう、エルフのフィーネって言うの」
「モックもその人に会いたいッキ! 」
「じゃあ、急ぎましょう! 」
リリィとモックは走り出した。
ドドドドッ
もの凄い勢いだ。一軒家が見えてきた。
リリィは急ブレーキをかけて止まった。
「フィーネ! 紹介したい人がいるの! 」
が、モックは止まらずにそのまま家に突っ込んだ。
ドーンッ!
壁に大きな穴が開いた。
「ちょっと! リリィ、何してるの?! 」
家の中では、モックが気を失ってのびている。
「フィーネ! あの子はドリアードのモックって言うの。モック! 起きて! 」
リリィは壁の穴から家に入ってモックを揺り起こそうとしている。
「それよりも、また家が壊れたじゃないの。まったくもう」
「ごめんなさい、モックに早く会わせたくて」
「もういいわよ。時よ戻れ、リバース」
フィーネの手が光り、家がみるみる直っていく。
「モック! 起きて! 」
リリィに激しく揺さぶられて、モックがやっと起きた。
「うーん、痛いッキ……」
「モック、あの人がフィーネ」
「ドリアードのモックだッキ。よろしくだッキ」
フィーネは感心なさげに手を上げる。
「はいはい。よろしく。じゃあ、私は昼寝するから」
そういうとフィーネは寝てしまった。
「フィーネ。今日からモックもココに住んで良い? 」
「むにゃむにゃ、いいわよ」
「ありがとう! フィーネ! モック、ここに住んでいいって! 」
フィーネが寝ているのを良いことにリリィが勝手に話を進めてしまった。
「モックもここに住めるッキ? ありがとうッキ! 」
そして、夕方。
「不覚だったわ。私としたことが……」
「フィーネが良いって言ったんだからね」
フィーネがショックでうなだれている。
「まあ、ドリアードは水さえ与えておけば食事の心配は無いけど」
「モック、迷惑はかけないッキ! 」
「わかったから、大人しくしててね。モック」
「わかったッキ! 」
「フィーネ、ありがとう! 」
こうして、フィーネの家にドリアードのモックも住むことになった。
「モックは、私と一緒に寝る? 」
「ドリアードは、眠るときは土に根を張るッキ。だから、外で寝るッキ」
「そうかー。でも、起きてるときは私の部屋を使って良いからね」
「ありがとうッキ」
モックもリリィも楽しそうだ。
「じゃあ、夕食にするわよ」
フィーネが手を動かすと、お皿に盛りつけされた料理が宙を舞いテーブルに置かれた。モックには深い皿に水を入れて目の前に用意されている。
「いただきます」
3人揃っての初めての食事だ。
「モック、こんなに楽しい食事は初めてだッキ」
「モックのお父さんとお母さんは、どこにいるの? 」
「・・・火事で燃えて死んでしまったッキ・・・」
「あ、ごめんね。やなこと聞いて」
「大丈夫ッキ! 今は、リリィとフィーネがいるッキ! 」
リリィはモックを抱きしめた。
「火事か……」
フィーネは、何か引っかかるものを感じていた。




