第23話
ここは、世界のどこか。
遺跡のような石造りの建物の中。壁一面に悪魔や魔族の彫刻が彫られている。天井は高く円形のドーム状の形をしている。
床には、魔法陣が描かれ、青白く輝いている。
その中心にいる人物が話し出した。
「ご報告いたします。例の子供が見つかりました」
話をしているのは、ビャッコだ。
「少々問題がありまして、手こずっていますが、必ず子供は手に入れます」
ビャッコの顔に焦りが見える。
すると、どこからともなく重苦しい声が響いてきた。
「ビャッコよ、私の期待を裏切るなよ」
「わかっております。必ずや目的を達成いたします」
「私は、長い時間待った。もう待てぬのだ」
「はい!部下に急がせます! 」
ビャッコは恐れで体が震えている。
「頼んだぞ、ビャッコ。必ず例の子供を手に入れるのだ」
「ははっ! 」
そう言って、ビャッコは頭を下げた。
魔法陣の光が消えた。
一方、そのころ。ウエスの森。
「どうやって、スザクだけをおびき寄せるか」
ホウオウがつぶやく。
「一人になった時を狙えば良いんじゃないか? 」
ゲンブが言う。
「一人になる可能性が高い場所……風呂だな」
ホウオウが閃いたようだ。
「よし、スザクが一人で風呂に入るのを狙って、拉致しよう。そこで、私が話をする。スザクは条件をのむしかないはずだ。話が終わったら、元の場所に戻す。あとはスザク次第だ」
ホウオウが計画を一気に話した。
「よし、それで行こうぜ」
ゲンブが言う。
「風呂の小屋の前の茂みでスザクが来るまで待機だ」
「了解! 」
ホウオウとゲンブは茂みに身を隠した。
「たーのしー!! 」
「楽しいキー! 」
「楽しいキキー! 」
リリィたちは、新しくフィーネが作った公園で遊んでいた。
フィーネの作戦は大成功のようだ。
「のんびりティータイムが楽しめていいわ」
フィーネがロッキングチェアでくつろいでいる。
「何だか空に吸い込まれそう」
スザクが紅茶を一口飲んで、空を見上げた。
「今日もいい天気だな」
イブは、ぼんやりしている、寝てしまいそうだ。
そんなゆったりとした時間が流れるいつもの日常。
フィーネたちは、それを脅かすものの存在をすっかり忘れていた。
「ちょっと、お風呂に行ってくるわ」
スザクが立ち上がった。
「行ってらっしゃい」
フィーネが手を振る。
「ごゆっくりー」
イブが寝ぼけ声で言う。
スザクは一人で小屋に向かった。
「スザクが来たよ! 」
ホウオウが小声でゲンブに話す。
「俺は、ここに待機だな」
「そう、スザクが中に入ったら、私が行く」
ホウオウは慎重に様子をうかがっている。
スザクが小屋に入り、服を脱いでいる。
風呂に向かったようだ。
「よし、行ってくるよ」
そういうと、ホウオウは小屋の中に入った。
スザクは湯舟につかってくつろいでいた。
そこに背後からホウオウが忍び寄る。
そして、後ろから羽交い絞めにした。
「大きな声を出さないで、スザク」
ホウオウがその気になればスザクを殺すことは容易い。
スザクはいうことを聞いた。
「あなたと話をしに来た。黙って聞いてて」
スザクはうなずく。
「私はビャッコに脅されてる。子供を連れてこないとスザクも私も殺すって」
スザクは黙って聞いている。
「だからお願いスザク。あの子供を私のところに連れてきて欲しいの。そうすれば私たちは助かる」
スザクは警戒を緩めていない。まだ疑っているようだ。
「私はビャッコを殺すつもり。そしたら、その子供と一緒に逃げよう。今度こそ足を洗って真っ当な人間になるんだ」
スザクの緊張が少しだけ緩んだ。
「私は間違ってた、スザク、あなたは私のたった一人の家族だ。こんな世界から抜け出して、2人で自由に生きよう」
スザクは黙っている。
「だから、スザク。あの子供を私のところに連れてきてほしい。私たちの足抜けのことはゲンブにも内緒だ。頼む、スザク」
スザクは、黙って考えていた。そして、小さくうなずいて言った。
「わかったわ。姉さん」
ホウオウは涙を流す。
「ありがとう。スザク」
スザクも泣いている。そして、姉妹で抱き合った。
「じゃあ、私は、この小屋の前の茂みにゲンブと隠れているから、そこまで来て」
「わかったわ、姉さん」
スザクは決意したような顔になって言った。
「一緒に自由になりましょう。スザク」
そういうと、ホウオウは風呂を出て行った。
スザクは湯舟につかり、考えを巡らせていた。
その夜。
フィーネたちはすっかり寝静まっている。
スザクはベッドから起きだし、リリィの部屋に向かった。
ドアを開けると、ベッドの上でリリィが寝息を立てている。
「リリィ、リリィ、起きて」
スザクが声をかけると、リリィが目をこすりながら起きた。
「んん……何?スザク」
「ちょっと一緒に来て欲しいんだけど」
「わかった」
リリィは何も疑いもしないでスザクに付いていく。
茂みの中まで行くと、ホウオウとゲンブが待機していた。
「スザク!これはどういうこと!? 」
リリィがそういうと、ゲンブが手早くリリィの口を塞ぎ、縄で体を縛った。
「よくやったわ、スザク。これで約束を果たせる」
ホウオウは、そういうとスザクの頭を撫でた。
ゲンブがリリィを担ぎ、4人は森の中を歩いて去っていった。
星空はいつも通り綺麗に瞬き、
フィーネたちは、何も知らずに眠っているのだった。




