第21話
ここはウエス国の森の中。
「もう、本読むの疲れたよー……」
リリィが心なしかゲッソリしている。遺跡で発見した古代の書物をリリィはこの数日、一人で読んで翻訳しているのだ。
「翻訳のスキルを持ってるのは、あなただけなんだから頑張って」
フィーネが励ます。フィーネもリリィに付きっきりで、書物の翻訳を手伝っていた。
「そろそろ休憩にしましょうか? 」
フィーネが言うと、リリィは机に突っ伏してしまった。
「づがれだー」
フィーネが魔法で紅茶を淹れる。今日はデザート付きだ。
「さあ、フィーネ特製ふわとろパンケーキよ」
「パンケーキ!! 」
リリィがガバッと体を起こす。目がキラキラ輝いている。
「うーん、美味しい♪ 」
「そうでしょう?だから、これを食べたらもう少し頑張りましょう」
「えー!? 」
リリィはすっかりくたびれて居る。
「すいませーん!フィーネさん! 」
この声はオルガだ。
「オルガ。今日はどんな御用? 」
フィーネが窓から顔を出して聞く。
「特に用はないんですけど、通りがかったから風呂に入っていこうかな?って」
「良いわよ。どうぞ」
「ありがとう、フィーネさん」
オルガは頭を下げると、露天風呂の方へ歩いて行った。
「あ、先客がいるからね! 」
フィーネが叫ぶ。オルガには聞こえなかったようだ。
「うわー!! 」
男湯からオルガの叫び声が聞こえた。
「オルガってゴブローとは会ったことなかったっけ? 」
リリィが言う。そういえば2人は初対面だった。とフィーネは思った。
「騒々しいな」
ロッキングチェアでくつろいでいたイブがつぶやく。
「オルガさん!そのゴブリンは悪い人じゃないですよ! 」
同じくロッキングチェアでくつろいでいたスザクが叫ぶ。
「そういうことは、先に行ってくださいよ! 」
オルガの声が聞こえた。とりあえず無事のようだ。
その後、裸の付き合いをしたオルガとゴブローは、すっかり打ち解けたようだ。
「そうか、腰の悪い母親と2人暮らしは大変だな」
足湯につかりながら、ゴブローが言う。
「たった一人の母だから、大変と思ったことはないよ」
オルガが言う。
「2人とも、冷たい紅茶が入ってるわよ」
フィーネが冷えた紅茶を持ってきた。
「これは、いいな。最高の贅沢だ」
ゴブローが言う。
「フィーネさんの紅茶は本当に美味しいからね」
オルガが紅茶を一口飲んで言った。
「待てー! 」
「待つキキー! 」
「待たないキー! 」
リリィは、書物を読むのをやめて、モックとドンキーと追いかけっこを始めた。
フィーネはロッキングチェアに座って、ふうっと息を吐いた。
「魔神については、まだ分からないことばかりね」
「まあ、焦らない方がいいぞ」
イブが言う。
「イブは、魔神のことは知らないの? 」
フィーネが当然の疑問をイブにぶつけた。
「いくら、ぼくでも世界のすべてを把握してる訳じゃないんだ」
「女神って言っても、大したことないのね」
「ぼくもいろいろ忙しいんだ! 」
「今はのんびりしてるじゃない」
イブは黙り込んでしまった。フィーネは諦めて紅茶をすすった。
その頃、ウエス国某所。
ゲンブ、ホウオウ、ビャッコの3人が集まって話をしている。
「あのエルフ、半端なく強いな」
ビャッコは焦っていた。
「このままでは、あの子供を奪うことが出来ないぞ」
ビャッコは腕組みをして考えている。
「真正面から行ってダメなら、違う手を考えようぜ」
ゲンブが言う。
「私が、スザクに揺さぶりを掛けてみようか? 」
ホウオウが提案する。
「そうだな、敵の中から潰すには、スザクを利用するのが一番だ」
ビャッコがうなづきながら言う。
「よし、この件は一旦、ホウオウに任せよう。ゲンブはサポートしてくれ」
「ビャッコはどうするんだ? 」
ゲンブが言うと、ビャッコが答えた。
「私は、『あの方』にご報告に行ってくる」
そういうと、ビャッコは姿を消した。
「よし、行くよゲンブ」
「分かった、ホウオウ」
ホウオウとゲンブも姿を消した。
その夜。
ゴブローとオルガも加わって、夕食を食べることになった。
「今日は、フィーネスペシャルカレーライスよ」
「カレーライスだと!何年ぶりだろう?フィーネは凄いな」
イブが興奮気味に話す。
「うわあ、カレーライスだ! 」
リリィも嬉しそうだ。
スザクやオルガは、ポカンとしている。
「いろいろな香辛料を混ぜて作った辛くて美味しい料理よ。まあ、食べてみて」
スザクが恐る恐るカレーを口に運ぶ。
「……これは、美味しい! 」
スザクの様子を見て、ゴブローとオルガもカレーを食べてみる。
「これは、美味いな! 」
「美味しいよ!フィーネさん」
カレーライスが好評なので、フィーネもご満悦だ。
「お代わりもあるから、たくさん食べてね」
「ねえ、フィーネ?最近、ちょっと明るくなった? 」
リリィがフィーネに聞く。確かに以前のフィーネなら、こんなに明るく夕食を用意するなんて考えられなかった。
「そうね。みんなのお陰かな」
「そういえば、最近『面倒くさい』の数が減ったな」
イブが言う。
たくさんの仲間に囲まれて、フィーネの心境にも変化があったのかもしれない。リリィとイブにそう言われて、悪い気はしないフィーネだった。




