第20話
ここはウエス国の森の中。
遺跡で「謎のカギ」のことを調べていたフィーネたちは、人買い組織のビャッコたちに襲われた。今、リーダーのビャッコとフィーネが正に対峙している。
「ここからは、私が行きましょう」
ゲンブとホウオウを後ろに引かせて、ビャッコが出てきた。
「ああもう、面倒くさいなあ」
フィーネは、とても嫌そうな顔をしている。
「前回もそうでしたが、面倒くさいとは失礼ですね。私の力を思い知りなさい」
ビャッコは、そう言うと両手から黒い波動を放った。
バリバリバリッ!
黒い波動がフィーネに襲い掛かる。
「防御せよ、バリア」
フィーネの体を瞬時にバリアが包み込む。
黒い波動は、バリアで弾かれた。
「なるほど。では物理攻撃はどうでしょうか? 」
ビャッコの手に長い細身の剣が現れた。
「私の剣さばきは、よけ切れまい!! 」
ビャッコが素早い動きでフィーネに襲い掛かる。
フィーネはビャッコの動きよりもさらに速い動きで、軽々と剣を避けていく。
「なにこれ。止まって見えるんだけど」
フィーネが余裕の顔でつぶやく。
「くそっ!こんなはずでは……」
ビャッコは、かなりショックを受けている。
「ならばこれならどうだ! 」
ビャッコは黒い波動をその剣に移した。剣が一回り大きく見える。
「黒波動剣! 」
ビャッコが、先ほどとは比べ物にならない速さでフィーネに襲い掛かる!
ビャッコの視線からフィーネが消えた。
「どこへ行った!? 」
ビャッコが唖然として叫ぶ。
「ここよ」
フィーネは、剣の先に立っていた。
「何!? 」
「もういいかしら? 」
フィーネはそう言うと、ピョンと剣から飛び降り、そのまま、ビャッコに蹴りを食らわせた。
グワッ!ドーン!
蹴られたビャッコは、そのまま壁に激突した。
それを見ていたスザクもリリィたちも、呆気にとられている。
「フィーネ!もう、遊びはこれくらいにして、家に戻ろう」
イブが平然と言う。
「そうね、家に帰りましょう。本はテレポートさせるわ」
「くそ!覚えてろよ! 」
ビャッコは、そう言うとゲンブとホウオウを連れて逃げて行った。
「フィーネ!すごい!強い! 」
リリィが目をキラキラさせている。
「フィーネ強いキー!びっくりしたキー! 」
「びっくりキキー! 」
モックとドンキーも驚いている。
「伊達に99回も転生してないわよ」
フィーネが珍しく自慢げに言う。
こうして、遺跡の探索を終えたフィーネたちは、大量の本と共に家に戻ったのだった。
「冒険の後のお風呂は最高だね! 」
リリィが言う。
「最高だキー! 」
「キキー!! 」
モックとドンキーも気持ちよさそうに浮いている。
「ああ、疲れた。久々に激しく動いたから体が痛いわ」
フィーネが湯船につかりながらブツブツ言っている。
「フィーネがあんなに強いだなんて、私知らなかった」
スザクは、まだ興奮しているようだ。
「まあ、ぼくは知ってたけどな」
イブも頭に手拭いを載せて湯船につかっている。
「フィーネは、本当に凄いんだね! 」
リリィが目を輝かせて言うと、
「ただ、人より経験が多いだけよ」
フィーネが謙遜して答える。
「これからしばらくは、リリィにもお仕事してもらわないとね。あの本の翻訳を出来るのは、あなただけなんだから」
「ええーっ。たまには遊んでもいいでしょ? 」
「いいわよ。たまにならね」
ゆっくりと露天風呂で疲れを癒したフィーネたちは、早速、本の解読を始めた。
「えっと、この世界の果てには、深淵の国と呼ばれる魔物の国が存在する。その国に行く為の鍵は深淵の鍵と呼ばれる」
「あまり関係なさそうね。これは? 」
「魔法の本みたい。魔法の種類とか使い方とかが書いてある」
「これは、長期戦になりそうね……」
夕方まで作業を続けたが、特に役立つ情報は無かった。
「今日はこのくらいにして、夕ご飯にしましょう」
「わーい!ごはん♪ 」
「今日は趣向を変えて」
フィーネが右手を上げると、調理器具がかってに動き出して料理が始まった。
「今日は、日本食。かつ丼よ! 」
「わーい!かつ丼だー! 」
リリィが嬉しそうに頬張る。
「うん、この味付けは変わってて美味しい! 」
スザクの口にも合ったようだ。
「かつ丼とは、懐かしいな。今度はカツカレーにしてほしいぞ」
イブもご機嫌だ。
「まあ、豚肉はないから、グリズリーの肉なんだけどね。でも味は保証するわ」
フィーネは紅茶をすすりながら、満足げにうなずいた。
その夜。
ロッキングチェアに揺られながら、フィーネたちは食後のティータイムを満喫している。
「それにしても、あのビャッコという男。人間にしては強かったな」
フィーネが言うと、
「あいつは、魔の者だと思うぞ。油断しない方が良い」
イブが真面目な顔で言う。
「魔の者か……また、面倒くさいわね」
フィーネはため息をついた。
「最悪、魔神の復活もあり得るな」
イブは言葉を飲み込んだ。
もし、1000年前に倒された魔神が復活したら、世界が終わるかもしれない。
その前に「女神の魂を持つ子供」を見つけなくては……
夜空には満月が輝いていた。




